田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼攻め込む  麻屋与志夫

2010-02-05 09:00:08 | Weblog
part4 吸血鬼攻め込む  栃木芙蓉高校文芸部

21

アーミファッションの文子が廊下の彼方からやってくる。
グッグッとコマ落としの画面をみるようにこちらに向かってくる。
むやみにポケットのおおい迷彩色の服。
あの靴音はブーツだ。
お九さんが廊下の長椅子から立ちあがった。
黒のマキシのスカートのなかで小刻みにタップをふんでいる。
そのカタコトカタコトいうリズムは警戒レベルをひきあげていく。
そしてふたりの靴音が止まった。
「お目付役。あなたでしたか」
「おひさしぶりです。玉藻さん」
「いまは監察官と呼ぶのね」
「山田文子です。いまの名前は……」
このふたりの女性にとってひさしぶりというのは、何年くらいなのだろうか。

「人の世の年代で千年かしら」
ふたりが同時にこたえて龍之介を注視した。
「龍チャン。この文子さんはわたしの命の恩人なの」
「恩人だなんて……あのときは、都からの追討軍の残虐行為をみていられなかったから……」

「つもるはなしは、あとにして……こんどは外来種を敵にまわしているのね」
「敬介は……」
とここではじめて龍之介に文子が声をかけた。

「ヤツパ、噛まれているのかな」
龍之介は返事をしなかった。
ぎやくにふたりに問いかけた。
「噛まれていれば、首筋に歯のあとがあったわけよ。
わたしはよくみた。見落としはないはずよ」

「邪眼ね」
「そうおもう。ながいこと、
大沢となのるルーマニアの吸血鬼の邪眼に接していたから、
噛まれたときと同じ症状をおこしているのだとおもう」

「それにしても監察官。そのいでたちは……」
「くる。くるわよ。
アイツラ邪眼にかけたものをとおしてこちらを探り、
攻めこんでくるわ」
「外来種の侵攻ね。
わたしたちが遣唐使の船にのって大和の国に来たときみたい」
「来たわ。来たわよ」
ふたりは窓から病院の正門をみつめる。
黒のトレンチコートの集団がやってくる。
「蝙蝠(かはほり)!!」
ふたりがつぶやく。
「蝙蝠軍団のおでましか」
Gがあたり憚らぬ声でいった。
もっとも周囲には繭しかいない。
「わたしこわいよ。
こんどこそ噛まれちゃうよ。
ドウスンベ。
リュウちゃんたすけて」


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