田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

蔵の町のインペーダー2  麻屋与志夫

2010-02-27 11:51:12 | Weblog
part9 蔵の街のインペーダ―2 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

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「龍。いかないで」
 後ろで声がした。
「動かないで」
 声は文子のものだ。
 龍之介は足を止めた。
 なにか、危険がせまっているのだ。
 文子の声には緊迫感がみなぎっていた。
「急がずば ぬれざらましを 旅人の あとからはるる 野路の村雨」
 文子の放歌がきこえでくる。
 霧が晴れた。
 文子が近寄ってくる。
「心配したんだよ。霧の中でもがいているみたいだったから」
「血の霧だった。
全身血を浴びているかんじだった」
「吸血鬼の霧にとりこまれていたのよ。
あのままあの霧の中にいたらいくら、
龍之介が剣の道にすぐれていても、
血をしぼられていたわ。
この街は新鮮な血をすいたがっているのよ」
「土蔵の壁が血をながしていた」
「そうなの。
蔵が蔵として機能しなくなってから何年たっているとおもうの。
蔵は外から観賞するものではない。
その内に、麻、ロープ、荒物、ミソ、醤油……
を保管しておくためのものだった」
「街は最盛期をすぎて、
そのミイラをさらして観光客を呼び寄せ生きていこうとしているの。
京都のように観光資源のあるところはいい。
栃木はこれから観光客を呼べるものを模索していかなければならないのよ。
はやく再生してもらいたい。
そのためだつたらなんでもしてあげたい」
「なにかあるかな?」
「ミステリースポットを再発掘するなんて観光課の企画はいいとおもう」
「ああ、知美さんがはなしていた……」
「龍は『宇治拾遺物語』をよんだことある」
「恥ずかしながら……」
 と、龍之介が微苦笑する。
「慈覚大師、纐纈(かうけち)城(じゃう)の入り行く事――あそこ読んでみて。
人の血を絞って布を染めるはなしがのっているの。
いわば吸血鬼のはなしなのよね。
そして慈覚大師はこの栃木は岩船の出身といわれているの。
そして玉藻さんは大師について日本にきたの。
だってわたしも一緒だったからたしかなことなの」
「だったらここは唐から来た吸血鬼が最初に侵攻したところなんだ」
「そういうことね」
「そしてこんどは、ルーマニアからの外来種に攻め込まれている」
「そういうことね」
「何やらびいびいさえずっている、生血を欲しがる蝙蝠そっくりだ。
その蝙蝠たちの攻撃にあっているのだ」
「そういうことね」
「あの蔵の中をみたい。蝙蝠の巣があるはずだ」
 さきほどまで、血をながしていた土蔵は青いトワイライトの闇に沈んでいた。

注 何やらびいびいさえずっている――ゲーテ『ファウスト』より引用。

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