part9 蔵の街のインペーダ―7 栃木芙蓉高校文芸部(小説)
45
鉤爪が突きだされた。
龍之介は剣先ではらった。
邪悪な爪は金属音をひびかせた。
腕がしびれた。
龍之介の音なしの剣が鬼村の爪ではらわれたのだ。
剣さばきを完全によまれている。
龍之介は後ろに跳び退る。
ことは、できなかった。
グイと警棒をつままれた。
引かれている。
鱗のような肌になった鬼村の腕が警棒を握って離さない。
壁の中に鬼村の体が消えていく。
「いかないで」文子が叫んでいる。
「いかないで。龍」鬼村の体はもう壁の中だ。
龍之介は必死でこらえた。
引きこまれる。壁の中に。
「龍!」文子が龍之介にしがみついてきた。
「いつも一緒よ」抜けた。
ふたりは抱き合ったまま蔵の中に引き込まれていた。
しめったカビの臭いがする。
だれもいない。
麻の束が井桁につみあげてある。
「おかしいわ。栃木でももうこんなに大量の麻は生産されていないはずよ」
「なんでも知っているんだ」
「ちがう。メモリーが、記憶の容量が膨大なのよ。
ただそれだけ。
何世代にもわたっての記憶がわたしの頭にはインプットされてる。
未来の記憶もあるの。
体はそのつどかわってしまうらしいの。
そのことに関する記憶だけが欠落しているのよ。
なにも、わからないの」
「どうして、おそってこない」
「ようすをみているのだとおもう」
「どすうしてついてきた」
「龍之介がすきだから。
わたしのことをこわがらない、
わたしの正体がしれても、
わたしを怖がらない男。
龍みたいなわかものは初めてよ。
もう離れられない」
「ぼくも、
職員室で転校生として紹介されたとき、
運命の女性がここにいるとかんどうした」
「ありがとう、もっと早く告白すればよかった。
愛している。龍之介すきよ」
「愛してる。
ぼくも文子を死ぬほど好きだ」
「だったら……血をすっていい。
わたしのような吸血鬼になる。血をすわなくても生きていける吸血鬼になる」
「いいよ。文子と生きていけるなら。
この体なんかどうなってもいい」
「ここは鬼の空間らしいの。
妖閉空間からはそうでもしないとぬけだせないのよ。
でも……いちどわたしに口づけされるともとには戻れないのよ」
「それでもいい。
吸血鬼の姿をみることができるようになったときから、
予感していた。
東京で吸血鬼と戦ったことはなんどもある」
「だからわたしとあっても、おどろかなかったのね」
「文子はちがう。かれらとはとちがう」
one bite please 一噛みして。おねがい。
45
鉤爪が突きだされた。
龍之介は剣先ではらった。
邪悪な爪は金属音をひびかせた。
腕がしびれた。
龍之介の音なしの剣が鬼村の爪ではらわれたのだ。
剣さばきを完全によまれている。
龍之介は後ろに跳び退る。
ことは、できなかった。
グイと警棒をつままれた。
引かれている。
鱗のような肌になった鬼村の腕が警棒を握って離さない。
壁の中に鬼村の体が消えていく。
「いかないで」文子が叫んでいる。
「いかないで。龍」鬼村の体はもう壁の中だ。
龍之介は必死でこらえた。
引きこまれる。壁の中に。
「龍!」文子が龍之介にしがみついてきた。
「いつも一緒よ」抜けた。
ふたりは抱き合ったまま蔵の中に引き込まれていた。
しめったカビの臭いがする。
だれもいない。
麻の束が井桁につみあげてある。
「おかしいわ。栃木でももうこんなに大量の麻は生産されていないはずよ」
「なんでも知っているんだ」
「ちがう。メモリーが、記憶の容量が膨大なのよ。
ただそれだけ。
何世代にもわたっての記憶がわたしの頭にはインプットされてる。
未来の記憶もあるの。
体はそのつどかわってしまうらしいの。
そのことに関する記憶だけが欠落しているのよ。
なにも、わからないの」
「どうして、おそってこない」
「ようすをみているのだとおもう」
「どすうしてついてきた」
「龍之介がすきだから。
わたしのことをこわがらない、
わたしの正体がしれても、
わたしを怖がらない男。
龍みたいなわかものは初めてよ。
もう離れられない」
「ぼくも、
職員室で転校生として紹介されたとき、
運命の女性がここにいるとかんどうした」
「ありがとう、もっと早く告白すればよかった。
愛している。龍之介すきよ」
「愛してる。
ぼくも文子を死ぬほど好きだ」
「だったら……血をすっていい。
わたしのような吸血鬼になる。血をすわなくても生きていける吸血鬼になる」
「いいよ。文子と生きていけるなら。
この体なんかどうなってもいい」
「ここは鬼の空間らしいの。
妖閉空間からはそうでもしないとぬけだせないのよ。
でも……いちどわたしに口づけされるともとには戻れないのよ」
「それでもいい。
吸血鬼の姿をみることができるようになったときから、
予感していた。
東京で吸血鬼と戦ったことはなんどもある」
「だからわたしとあっても、おどろかなかったのね」
「文子はちがう。かれらとはとちがう」
one bite please 一噛みして。おねがい。