田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

蔵の街のインペーダ―7  麻屋与志夫

2010-03-13 09:16:49 | Weblog
part9 蔵の街のインペーダ―7  栃木芙蓉高校文芸部(小説)


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鉤爪が突きだされた。
龍之介は剣先ではらった。
邪悪な爪は金属音をひびかせた。
腕がしびれた。
龍之介の音なしの剣が鬼村の爪ではらわれたのだ。
剣さばきを完全によまれている。
龍之介は後ろに跳び退る。
ことは、できなかった。
グイと警棒をつままれた。
引かれている。
鱗のような肌になった鬼村の腕が警棒を握って離さない。
壁の中に鬼村の体が消えていく。
「いかないで」文子が叫んでいる。
「いかないで。龍」鬼村の体はもう壁の中だ。
龍之介は必死でこらえた。
引きこまれる。壁の中に。
「龍!」文子が龍之介にしがみついてきた。
「いつも一緒よ」抜けた。
ふたりは抱き合ったまま蔵の中に引き込まれていた。
しめったカビの臭いがする。
だれもいない。
麻の束が井桁につみあげてある。
「おかしいわ。栃木でももうこんなに大量の麻は生産されていないはずよ」
「なんでも知っているんだ」
「ちがう。メモリーが、記憶の容量が膨大なのよ。
ただそれだけ。
何世代にもわたっての記憶がわたしの頭にはインプットされてる。
未来の記憶もあるの。
体はそのつどかわってしまうらしいの。
そのことに関する記憶だけが欠落しているのよ。
なにも、わからないの」
「どうして、おそってこない」
「ようすをみているのだとおもう」
「どすうしてついてきた」
「龍之介がすきだから。
わたしのことをこわがらない、
わたしの正体がしれても、
わたしを怖がらない男。
龍みたいなわかものは初めてよ。
もう離れられない」
「ぼくも、
職員室で転校生として紹介されたとき、
運命の女性がここにいるとかんどうした」
「ありがとう、もっと早く告白すればよかった。
愛している。龍之介すきよ」
「愛してる。
ぼくも文子を死ぬほど好きだ」
「だったら……血をすっていい。
わたしのような吸血鬼になる。血をすわなくても生きていける吸血鬼になる」
「いいよ。文子と生きていけるなら。
この体なんかどうなってもいい」
「ここは鬼の空間らしいの。
妖閉空間からはそうでもしないとぬけだせないのよ。
でも……いちどわたしに口づけされるともとには戻れないのよ」
「それでもいい。
吸血鬼の姿をみることができるようになったときから、
予感していた。
東京で吸血鬼と戦ったことはなんどもある」
「だからわたしとあっても、おどろかなかったのね」
「文子はちがう。かれらとはとちがう」



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