田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

血を吸うもの2  麻屋与志夫

2010-03-20 02:52:16 | Weblog
part10 血を吸うもの2 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


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「翔太ジイチャン。
どうしてぼくらの周りでは、
現実とは受けとれない事件ばかり、
起こるのだろう?
田舎に住めばもっと静かにすごせると思ったのに」
霧の降る街の本陣跡の土蔵で体験したことを報告した。

「それはね、龍チャンが、
いや机家の家系に目にみえないものも透視できる能力があるからよ」
翔太にかわって玉藻が応えた。
翔太はあいかわらず「北秋田」を黄瀬戸の茶飲みで豪快に飲んでいる。
ゴールデンリトリバーのハンターはおつまみのめざしのご相伴にあずかっている。
シャリシャリ音をたてて満足そうにめざしをたべている。
尻尾でぱたんぱたんと畳を打ってよろこんでいる。
「ほら龍ちゃん。障子に浮遊霊が映っている。
あれだって、普通の人がみたらただの庭樹の影としかみえないもの」

月も朧な春の夜だ。
青頭巾で知られている。
大中寺の七不思議でも有名なこの土地がらだ。
成仏できない霊魂がさ迷っている。
障子の影は風もないのに縮んだり大きくなにったり歪んだりしている。
啜り泣きさえきこえる。
「普通の人にはなにも感じられないのよ。
みえないのよ。
だから平気でいられるの。
みえるということは、
感じられるということは、
すごい能力なのよ。
大切にしてね」

「剣の道も、書も、きわめれば同じこと。
剣から目にみえない殺気が迸るのがみえてくる。
書も臨書していると故人の気迫が乗り移ってくる。
ここをハネルときは、
どんな気分だったろう……なんてことが推察できるようになる。
そういう意味では、
龍が文芸部にはいったことはいいことなのだろうな。
剣道はまだGが教えられるから。
龍には小説家になってもらいたい。
それも硬派の中上健次みたいなごつい作家になってもらいたいな」

中上健次に、
なにか特別な想い入れがあるのか、
翔太は遠くをみる目でぐいと茶碗の酒を飲みほした。

「龍チャン。監察官のこと好きでしょう」
不意をつかれた。
玉藻がイタズラっぽい眼差しをむけてくる。
「文子さんのこと、
愛しているのね。
あの人のこと話すときの龍チャンの顔色でわかるもの。
大切にしてあげてね。
わたしたちみたいに離ればなれになったら、
よほどのことがないかぎり二度と会えないもの」

「お九さんが昔のままなのにはおどろいた」
「あら、これでも年はとってきているのよ。
ただそれがすごくゆっくりと……」




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