田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

拉致/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-09-11 00:48:24 | Weblog
5

百子にいわれなくても、
翔子にはわかっていた。
池袋の夜風が彼女たちにむかって狂気をはこんできている。
不安をかきたてる。
池袋だけではな。
新宿も、原宿だって若者が集う街には禍々しい風が吹いている。
「消えたお友だちは何人なの」
翔子は一息ついてから菜々美にきいた。
「信子とカレン」
「携帯打ってみた」
菜々美が悲しそうにくびをよこにふった。
つながらないということだろう。
「現実と虚構が交じり合っている。
虚構の中に住んでいる吸血鬼がこちら側に雪崩れこんできている。
映画やテレビの3Dがあまりにリアルになったので、
わたしたちには虚構と現実を見分けることができない。
それをいいことにして、吸血鬼がこちら側に生存権を得てしまったのよ」
「わたしもそう思う」
と百子が応じた。
周りを人が動きだしている。
だが夜霧が彼らの動きをゆったりみせている。
時間の流れが遅くなっている。
「わたしたちまだ閉じこめられている」
「でも百子、ここで考えた方がなにか頭が冴えてくる」
「それは翔子、
妖閉空間にこのまま閉じこめられていたほうが……
ヤッラの感覚とリンクできるからよ」
「まって……」
翔子は額に手をあててなにか思いだそうとしている。
「わたしたちが……
戦った……
あそこ……、
ほら雑司ヶ谷霊園、
まだ百子としりあっていなかったわね……
あそこに人を監禁しておくような小部屋がいくつもあった」
「それだわ、そこに連れて行かれたのよ。直ぐ助けに行こう」
翔子は弱々しくくびをふった。
あのとき受けた噛み傷はまだ痛む。
さらに心のダメージからまだ回復していない。
「敵が多すぎる」


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