田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼のテロ?/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-09-26 06:24:06 | Weblog
3
純は翔子をかばった。
倒れているひとを取り囲んだ人ゴミをわけて、風が吹き寄せる。
黒い風だった。その少し前から、純は気づいていた。
ひとびと周りに漂っていた。黒い夜霧? 
うごめいていた霧が集まった。
霧のほうでも純に気づいたようだ。
そして真っ向勝負をしかけてきた。
虫に襲われたようにフチッとした痛みがある。
いや礫をたたきつけられたような痛みになる。
礫には恐怖が付いている。
礫には血の臭いがしていた。ヤジウマの目前に倒れている。
血を流して倒れているひとの血だろう。
「吸血鬼でないのかもしれない……」
血の臭いはするが……吸血鬼の気配はない。
その言葉を翔子がきいた。すばやく反応した。
携帯を手にしている。

携帯が微動した。
いままさにミイマを呼びだそうとしていた。
「それはFかもしれない。あのひとはそれくらいのことはできる。あのひとは世の人への憎しみだけで生きながらえているの」
ミイマは元彼の藤原信行をFと呼んでいる。
「それより、その自殺未遂の男や、ナイフを隠し持っているものたち――ひとを襲うわよ」
ミイマは恐ろしいことを伝えてきた。
 翔子は百目鬼刑事にミイマからの警告を伝えた。
「わたしたちミイマによばれているから。いくね」
その間にも、群衆がばただたたおれだした。
絶叫。
悲鳴。
恐怖の叫び声。
歌舞伎町の夜は大殺戮。
恐怖の夜となった。
「ミイマがこちらの様子をしっていて、わたしたちを呼んでいる」
「緊急事態なんだ」
ふたりはふたたびタクシーのなか。
純はさきほどの悪意の風を思い起こしていた。
こんどは万葉集を引用して愛をササヤクどころではない。
でも、翔子の手をしっかりとにぎっていた。
翔子も固まっていた。
「なにがあるの……」
「今夜はミイマのお父さんが会長をつとめている、
『大日本バラ愛好会』の会合がある夜だった」
「そうよ、忘れていた。暇だったらおいでっていわれていた」
「各界の著名人の奥様がたが参集するはずだ。
六本木のローズビルのホールでは入りきれないかもね。
……なんてミイマ、わらっていた」
「運転手さん、もっと、トバシテ」
「緊急なのよ。とばして!。トバシテ!!!」 




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