田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

悪魔との契約/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-08 12:58:43 | Weblog
第七章 吸血鬼回廊

1

いつのまにか吸血鬼に取囲まれていた。

……GGは夜の新宿の街にさまよいでていた。
ミイマを誘った。
しばらくぶりで孫たちの顔が見たいと断られた。
めずらしことだ。
彼女は孫たちにはひとりで会いにいくのが好きだ。
むかしから――恐れていた。吸血鬼の報復をおそれていた。
BV(ブラックバンパイア)は妬んでいる。
憎んでいる。
人とのあいだに子どもを産めるMV(マインドパイパイア)を羨望している。
嫉妬されてきた。
孫に災禍がおよんではと心配しているのだ。

ミイマはFとの思いでの整理がまだついていないのだろうか。
それで孫たちに会いたくなったのだろう。
自分なりのルーツを確かめたくなったのだろう。

ミイマが好きになるほどの男だ。
歴史に名をなすほどの男だったのだろう。
政治的な失脚の悔しさから復讐に狂った。
そして吸血鬼に身をゆだねてしまったのだろう。
哀れな流転だった。

おれが、おれごとき人間が、ミイマを独り占めしていいものなのだろうか。

吸血鬼がついてくる。
吸血鬼は迷っていた。
同じ種族の匂いがするのだろう。
やはり軽く噛まれているのかもしれない。
でなかつたら、人間としたら若いほうだろう。
口でいっているほどには、老いを感じていない。
破笠弊衣の一老叟。
こうして街をさまよっていると芭蕉の放浪を想い起こす。
おれは芭蕉よりもすでに20年以上も生きている。

――われらは、芭蕉よりもさらに昔より存続している。吸血鬼の群れから声がした。むろん普通のひとにはきこえていない。
――そうだろうな。信行さんと美魔の道行をみているのだろうな。
――妬けるか?
――襲ってきたらどうだ。
――GGなどと自称しているが、お前若すぎる。噛まれているのか?
――おれを襲って、確かめたらどうだ。血を吸ってみたらどうだ。
――溶けるのはきらいだ、いったん溶けたら再生がきかんからな。

護符のようにGPS機能付きの携帯電話をポケットにしのばせていた。
おれになにかあれば、玲加が気づくだろう。
いつのまにか吸血鬼の気配は消えていた。
六本木。
広尾。
渋谷。
原宿。
新宿
秋葉原
上野。
品川。
を巡る……吸血鬼の回廊ができ上がっているようだ。
吸血鬼の山手線だ。

それを確かめたくてGGは新宿まで来ていた。
これらの盛り場は暴漢によるナイフの凶行が起きている。
凶悪事件現場をつなぐと回廊のようになる。
とても、人に寄る刺殺事件とは考えられない事件が乱発している。

吸血鬼はみずから犯行には及ばない。
ひっそりと血を吸う。
被害者は路面にはそれほど血を流していない。
それなのに失血死するケースがあった。
腐肉をあさるようなことをして……。
あさましいthem(やつら)だ。

Fはわたしとは軍師だといっていた。
Fが消滅したのに、まだおれをねらっている。
吸血鬼がおれのスキをうかがっている。

Fを軍師として使役していたもの。
――それは魔王だろう。
決して姿を見せない。

堕天使。ルシファー。

どこに潜んでいる?
この吸血鬼回廊のどこかに潜んでいるはずだ。

昨夜のように夜空に稲妻が光った。
 
雷鳴はとどろかない。
プラズマの発生が感じられる。

肌にただひりひりと刺激がある。
プラズマだ。稲妻だけがジグザクに濃い藍色の空を切り裂いた。
――そうか。お前か。想いだした。わたしが作家として世に送り出してやろうとしたのを、たつたひとりあのとき拒んだ。お前だったか。
――羊皮紙に署名を求められて、ビビっただけですよ。
――油断のならない奴だ。わしの存在をあのころから嗅ぎとっていた。
――NやKは契約履行、もう呼び寄せたのですね。Tも呼びましたね。
GGよりも一回りも若い作家の名前をいってみた。
――若くして栄冠をかちとったのだ。もういいだろう。どうだ、いまからでも、遅くはない。契約しないか。〈目の前にくすんだ茶色の羊の皮が置かれていた〉署名するだけでいいのだぞ。

いつしか……ゴールデン街の飲み屋にいた。
酔客の手垢で黒ずんだ木製のカウンター。
「村ちゃん。なに見てるのよ。わたしの手、皺くちゃでしょう」
「いままで、隣にだれかいなかった?」
「なにさ。ひとりではいつてきて……横田いるかなんてわめいて」
「そうか……あまり懐かしかったのでな。まだママの店があるとは意外だった」
「横田さんも早すぎるわよねぇ。でもあのころのひとみんな立派な作家になって……。夭折して。村ちゃんの仲間ってどうなってるのよ。ところで、あれからなにしてたの」

隣にだれも座っていなかった。
だれもいない。
いない。
GGは酔いがさめてしまった。



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「三丁目の夕日」の世代 麻屋与志夫

2010-11-08 08:31:33 | Weblog
プログです。
11月8日 月曜日

●新聞配達のバイクの音が狭い袋小路にひびいた。
わたしの家の前だけは時間が止まっているような風情がある。
だいたい住んでいる人間が生きながら化石人間化しているような物書きだ。
昭和の雰囲気をのこしたままの「アサヤ塾」をいまだに主宰している。
それでなんとか食いつないでいる。古い人間だ。

●どういうふうに古いかというと『ALWAYS 三丁目の夕日』の世代である。
K大学にかようので下宿した青山一丁目。
速水さんの下宿から東京タワーの基礎工事をしているのを見に行ったものだ。
その夜近所に火事があった。
タクシーで……物見高いは江戸の常、というか大勢の人が集まって来た。

●東京では「馬が車に乗る」。と感心した。

●このオヤジギャグは解説が要るようですね。
ヤジウマがタクシーで集合してきたのを見た田舎者の正直な感想だった。

●あのころだって既に小説を書いていた。
「文芸首都」に木村正一の本名で参加していた。
古いですね。それにしてもこのシンポのなさ。あきれます。

●話は、ズズと下がって「異形コレクション」は「魔地図」の公募作品の佳作にひろってもらった。長い、ながい冬眠から覚めたところだったのでうれしかった。走りだした方向にまちがい、と自信がわいた。『今回最年長七十代の寄稿者だが瑞々しい発想。』と井上雅彦氏が敬老精神を発揮してくれた。山手線の駅を乗すごしてしまった。「進化論」では、『独自の獣人神話体系を展開する常連で、毎回、愉しみにしている。今回はいつも以上に私小説に傾いているように思われるが、新たな神話を産み出すのに必要な作品かもしれない。』この批評には、驚いた。背筋が震えた。プロの読み手の怖さ。何もかもオミトオシダ。じつは、あれはC型肝炎からやっと回復した時の経験を書いたものだった。

●あれからでも、すでに五年もたっている。無情迅速。時人不待。

●今朝、新聞配達のバイクの音が狭い袋小路にひびいた。ブログを開いたところうれしかった。

●参加しているブログ村のホラー・怪奇小説ランキング一位、人気記事一位のダブル一位になっていた。みなさん、ありがとうございます。GGにはなによりの励ましとなりした。

●「さまよえる塾講師」のほうは昼ごろにはアップします。なにとぞ引き続きご愛読ください。

●反省しています。
井上氏に指摘していただいたように、わたしの作品はどうしても私小説の尻尾がついてます。この二三日GGの追憶が「さすらいの塾講師」でも前面にでてしまっています。いいかげんでやめて、storyを進捗させますね。でも、ブログと小説と両方読んでいただいて裏ネタを探すのも一興かと思います。

●あまりうれしかつたので、つい癖の私事を話してしまった。


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