田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

誰のために戦っているの?/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-12-13 02:56:54 | Weblog
19

 ミイマの病室の天井を破って侵入したV。
 ミイマは冷静な声で語りかけた。戦いの前の静けさを思わせる。


「病院にめいわくかけられない。外に出ましょう」
「望むところだ」
 バリンと天井をつき破って茨木童子が消える。
「あいつ、なに聞いているの」
 天井の破損個所を恨めしそうに見上げるミイマ。


「それなに? 百子」
「流星錘」
「翔子。わたし、コタやルイに死なれて悲しかった。責任感じてた。悔しかった。十字手裏剣がきかない敵だった」 
「暗器の名は――?」
 翔子はわざとぶっきらぼうにきいた。
 百子の感傷を断ち切るためだ。
 たしかに大勢の仲間に死なれで百子は暗くなっている。
「りゅうせいすい」
 ビュンと長い紐の先の錘(すい)がVの喉を打った。
 ドバッと青い血が噴いた。
 ケヤキ並木の梢までふきあがった。
「いつまでも同じ武具で戦うとは思わないで」
 百子がいさましくVにむかって叫ぶ。
 まるでそれが合図であったかのように、みよ!!! クノイチ48のガールズの手元を!!!!!!
 鎖鎌。
 梢子棍(しょうしこん)と打撃武器。
 射程武器の半弓。クロスボウ。
 諸葛孔明の発明と伝わっている連射のきく諸葛弩。
 
 Vとの戦いで百子は学習した。
 古典的な武器であってもまだ効果がある。
 いや古い武器だからこそ効果があるのだ。
 日本古来の鬼がその主要メンバーであるV軍団には効果があるのだ。
 すっかりさまがわりした攻撃にVはたじたじだ。
「錘にも矢尻にも銀をつかった。刀エクササイズで稼がなきゃね」
 百子がようやく活気づく。
 妖空間に閉じこめられて、活人画のように動かない原宿の賑わい。
 クリスマスまえのど派手なエルミネイション。
 静止した女には、恋人がVであったことなどわからない。
 あわや、血をすわれ。
 Vの餌食になるのを救われたこともわからない。
 やがて、妖空間が開ける。
 となりに恋人がいない。
 何人が悲鳴を上げるのだろうか。

 肩を並べ、手をつないでいた恋人がVであった。
 そんなことをしらずにみんなが生きていけるように、わたしたちは戦っている。
 翔子も百子も同じ思いだ。
 いや、ここ、まさに戦乱の巷で戦っているみんながそう思っている。
 ミイマは茨木童子と戦っている。
 童子は弟を殺された恨みがある。
 ミイマにはGGを殺された恨み。
 お互いの、怨念のぶっかりあいが火をふく。
 ミイマは美少女。
 童子は草食系のイケメン。
 だが怨念の猛々しさが死闘をくりひろげている。
 ミイマの傷は完全には癒えていない。
 純がサポートしている。
 玲加がミイマを襲おうとするVをばら鞭で撃退する。
 翔子も駆けつける。
 GGがいないのだけが寂しい。

 麻衣の班。
 昇格してクミがルイの跡を継いだルイの班がたたかっている。
 クミは班の名前をかえることには反対した。
 いっまでも、ルイの名前を残したい。

 銀の打撃。
 銀の矢尻で攻め立てられ、Vは浮足立っている。
 絶叫。
 苦鳴。
 断末魔の叫び。
 Vからもクノイチガールズからも上っている。
 今宵また無名のまま、少女の命が原宿の路上できえる。

 遠くで鳴っていた雷鳴が近寄ってきた。
 空には稲妻が。
 地上には戦いの雄叫び。

 そして――純が――。




今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村