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「せっかく抜いたのだから、立ち合って!!」
美香がとんでもないことをいう。
オネエ、なにいっているか、わかっているの。
敵はこのひとではなかったのよ。
香世。わかっている。
でも……病院の警備職員の血をすっているかも。
オネエ。それはないと思うよ。
だって、アンデイは人口血液しか飲まないといいきってるシ。
ふたりは声にならない声ではなしあっている。
テレパシーだ。
それにわたし、広場恐怖症(あごらふおびあ)を克服したいのよ。
美香は行動に出た。
中段に構えた「浮船」が下から逆袈裟がけに斬り上げた。
アンデイがコートの裾を大きなコウモリのようにはためかせた。
5メートルも後ろに跳びのいた。
美香は現代の剣士だ。
道場でしか戦った経験がない。
広い場所が怖い。
体がすくむ。
これでは実戦にはむかない。
それを克服する。
美香としてはそう決意しての一太刀だった。
ともかく修行だ。
つらくても命がけで学んでいくしかない。
まだ日も高いのに、公園の樹木が深い影をつくった。
影はその場にいる者をひとしく薄闇に沈めた。
アンデイが鉤爪で流れていく浮船の峰を叩き上げた。
中指と人差し指だけがひと際長く伸びている。
美香の指剣を真似たのだろう。
アンデイも学習している。
美香の指剣がきにいったのだろう。
ふたりは斬り結んでは離れた。
離れては剣を交えた。
樹木は轟々と吠えだ。
「やめてぇ!!」
香世が声に出した。
絶叫した。
アンデイと美香の剣のすさまじさに香世は総毛立っていた。
このままつづければ、どちらかが傷つく。
「オネエ。美香はバンパイア・グルービーじゃなかったの」
はたとアンデイの動きがとまった。
「groovy? 美香? きみが?」
アンデイのママが叫ぶ。
「やめて美香。わたしシャリーよ。ミチコ、倫子のともだちよ」
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そう叫びつづけながら、手紙をさしだす。
美香の従姉のピアニスト柳生倫子からの紹介状だった。