田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 15 神の矢 ストーカー殺人事件  麻屋与志夫

2023-01-21 06:54:17 | 超短編小説
1月21日 土曜日
超短編 15 神の矢
「今日子、どうしたらいい。わたし殺されるかもしれない」
 ひさしぶりであった未来が泣きだした。
 高校からの親友だ。
 未来の勤めている不動産会社の近くの飲食店で、今日子は働いている。
「すれちがって、見つめられるだけでは、接近禁止令はだせないっていうのよ」
「その男、まちがいなくオカシイの」
「マスクしてフードかぶってるから顔の表情は見えない。目を見るだけ。だからこそ、あいつのいやらしい目から、考えていることがわかるの。怖いわ。わたし殺されるかもしれない」
 
 未来はため息をついた。
 親友には気取られないように小さな吐息をもらした。
 高校ではマドンナ。彼氏がいないのが不思議なくらい。
 街を歩いていてもタレント事務所のスカウトに声をかけられるほど目立つ美貌。
 美人は被害妄想に罹りやすいというから……。
 
 その翌日被害にあった。
 痴漢被害ではないが――。
 恐怖に立っていられなかった。
 あの男だ。
 フードをかぶり、もちろんマスクをしていた。
 雑踏する改札口をでたところで、背後に異臭がした。
 揮発性のにおい。シューとかすかな音がした。
 男は彼女をふりかえった。
 ニャリとマスクの下で笑ったように感じた。

「あなた、どうしたの」
 女性のケタタマシイ声がじぶんにかけられていることに、未来は気づいた。

「背中、真っ赤よ」
 白いコートの背中部分に深紅のスプレーが吹きかけられている。
 駅前交番にとどけた。もちろん、今日子のストーカーの話をした。

「すちがって、みつめられるだれではね……民事にはあまりかかわりたくないのが、本音で
すよ。でも、中原未来さん、あなたの場合は実害があった。被害届をだしてください」
 そういうことではない。
 いまからだって、あの男を探してください。追いかけてとは強固にいえなかった。
 
 そのころ――。今日子は街角で刺殺された。
 なんども、凶器のナイフで背中を刺されていた。

「ああ神様、神の矢というものはないのですか。善良なひとりの女性が刺殺されるのを救う
神の矢はないのですか」



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