4
誠の姿が見えなかったのか。
ステーションからは、看護婦は出てはこなかった。
前屈み。
同じ姿勢でコンピューターの操作に余念がない。
廊下を進む。
天井で蛍光灯がバチバチ音をたてて点滅する。
それはリアルな現象だ。
まるで誠の不安に連動しているようだ。
邪悪な黒い波動が頬を刺す。
鼻孔に異臭がつまる。
息ができないほどねばつく粘性のいやな臭い。
病室ごとにある。
プラスチックの患者名の書いてあるカードが。
ケースからぬけて。
両側から誠に襲いかかってきた。
ひらひらただようように見えているのに。
誠の体を突き刺すように。
襲いかかってきた。
カード。
頬を刺す害意の波動。
鼻には異臭。
カードの攻撃。
誠は廊下を走りだした。
点滅していた光が、ついに消え。
薄暗くなる。
不意に視界狭窄が起きた。
極端な遠近法で描かれたように。
廊下の幅が前方で鋭角となっている。
行く手を拒まれている。
誠はよろけて思わず病室のドアをおした。
翔太が顔をあげた。
ベッドにすわってジオラマをつくっていた。
指に緑のプラスチックの小片が付着していた。
葉っぱらしい。
「好きなこと、なんでもやっていいんだよ」
興奮している時の癖だ。
甲高い声で誠にいう。
と――。
翔太は作業にもどる。
セメダインで、プラスチック製の模造樹木を固定していた。
盛り上がった丘に樹木を植え込んでいる。
森を形成しようと熱中している。
額に手を置く。
熱はない。
声はかさかさしている。
接着剤のもつ刺激的な匂いが。
ベッドを中心とし、波紋となって広がっていた。
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前屈み。
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邪悪な黒い波動が頬を刺す。
鼻孔に異臭がつまる。
息ができないほどねばつく粘性のいやな臭い。
病室ごとにある。
プラスチックの患者名の書いてあるカードが。
ケースからぬけて。
両側から誠に襲いかかってきた。
ひらひらただようように見えているのに。
誠の体を突き刺すように。
襲いかかってきた。
カード。
頬を刺す害意の波動。
鼻には異臭。
カードの攻撃。
誠は廊下を走りだした。
点滅していた光が、ついに消え。
薄暗くなる。
不意に視界狭窄が起きた。
極端な遠近法で描かれたように。
廊下の幅が前方で鋭角となっている。
行く手を拒まれている。
誠はよろけて思わず病室のドアをおした。
翔太が顔をあげた。
ベッドにすわってジオラマをつくっていた。
指に緑のプラスチックの小片が付着していた。
葉っぱらしい。
「好きなこと、なんでもやっていいんだよ」
興奮している時の癖だ。
甲高い声で誠にいう。
と――。
翔太は作業にもどる。
セメダインで、プラスチック製の模造樹木を固定していた。
盛り上がった丘に樹木を植え込んでいる。
森を形成しようと熱中している。
額に手を置く。
熱はない。
声はかさかさしている。
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