8
「バカが。
永遠に生きられる体質にしてやったのに。
このチッポケナ島国のホームレスのくせに。
――なに考えている」
マスターが軽蔑のことばをはいた。
「吸血鬼にされて、夜毎に、はしたなく血を啜り。
――キサマラの奴隷にされるくらいなら。
人間として死ぬ。
そのどこがわるい」
「おう、玉砕ね。
サムライスピリット。
武士の心。
すばらしい。
プラボウ」
おひゃらかされている。
からかわれているのだ。
ほめられているわけではない。
「しょせんは、東と西。
菊と刀の世界は理解されないのか。
四国、九州の武力に屈した幕臣旗本の悔しさを。
歴史の裏に流れる怨念の渦を。
またもっと大きなスケールであじわうとわな。
長い生きはしたくないものだ」
闇法師の嘆きはしかしさわやかなものだった。
明治、大正、昭和、平成と。
怨念の凝り固まった鬼は。
――西の吸血鬼のような。
血まみれのどろどろとした怨念に。
支配されているわけではない。
松林をふきぬける風のような。
澄みきったこころをしていた。
浮浪者仲間のためならいつでも喜んで死ねる。
だからこそ、人で在りつづけるために。
――みずから死を選んだ留吉の気持ちは。
わかりすぎるほどわかる。
「残虐非道なマスターにはなんとでもいわせておけ。
留吉のこころは、この法師がしっかりうけとったからな」
ふたたび、闇法師はエイドリアンと対峙した。
「おう。
その目。
いやですね。
みんな逃げましょう。
この、日本の鬼さんは。
刺しちがえる――気だよ。
そんなの、いやですからね」
おかしな日本語とロックの音だけがのこった。
真正吸血鬼たちはフリットして消えていた。
(注。フリット。吸血鬼が軽く跳ぶように素早く動くこと)
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永遠に生きられる体質にしてやったのに。
このチッポケナ島国のホームレスのくせに。
――なに考えている」
マスターが軽蔑のことばをはいた。
「吸血鬼にされて、夜毎に、はしたなく血を啜り。
――キサマラの奴隷にされるくらいなら。
人間として死ぬ。
そのどこがわるい」
「おう、玉砕ね。
サムライスピリット。
武士の心。
すばらしい。
プラボウ」
おひゃらかされている。
からかわれているのだ。
ほめられているわけではない。
「しょせんは、東と西。
菊と刀の世界は理解されないのか。
四国、九州の武力に屈した幕臣旗本の悔しさを。
歴史の裏に流れる怨念の渦を。
またもっと大きなスケールであじわうとわな。
長い生きはしたくないものだ」
闇法師の嘆きはしかしさわやかなものだった。
明治、大正、昭和、平成と。
怨念の凝り固まった鬼は。
――西の吸血鬼のような。
血まみれのどろどろとした怨念に。
支配されているわけではない。
松林をふきぬける風のような。
澄みきったこころをしていた。
浮浪者仲間のためならいつでも喜んで死ねる。
だからこそ、人で在りつづけるために。
――みずから死を選んだ留吉の気持ちは。
わかりすぎるほどわかる。
「残虐非道なマスターにはなんとでもいわせておけ。
留吉のこころは、この法師がしっかりうけとったからな」
ふたたび、闇法師はエイドリアンと対峙した。
「おう。
その目。
いやですね。
みんな逃げましょう。
この、日本の鬼さんは。
刺しちがえる――気だよ。
そんなの、いやですからね」
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真正吸血鬼たちはフリットして消えていた。
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