田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

直人のパソコンの秘密(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-04-25 07:31:46 | Weblog
2

麻耶は自由が丘の駅で降りた。
駅前には都内でもトップレベルの塾SAPIXがある。
先生たちが歩道まで出て塾生を見送っている。
塾の時間がおわったのだろう。
小学生が迎えにきた母親と駅ではしゃいでいた。
私立の中学受験生、成績優秀な生徒でも、子どもは子どもだ。
親に甘えている子どもたちをみながら街に踏みだした。
対面からサングラスをかけた、たくましい黒服の男たちが近寄ってくる。
背後をみた。
退路をたたれている。
おなじような黒服。
荒事になれている。
凶悪な気が体からにじみでている。
男が立ちはだかっている。

車の輻輳を無視して麻耶は車道に走り出ようとした。
麻耶は両脇をかかえこまれた。

「逆らうなよ。声をだすな」

麻耶は冷静に両脇の男たちを観察した。
とても力技ではかなわない。
争って勝てる相手ではない。
くやしい。
若い時であったら。
敵わぬまでも(いやこれくらいのレベルの男たちに負けるとはなかった)戦った。
それが体技にもちこむ、闘争への熱い決意を体が拒絶している。
屈辱感に冷や汗がふきだした。
背筋を冷たいものが伝う。
体が小刻みにふるえだした。
歩道際に駐車していたワンボックスカーに押し込められた。

「いやにすなをじゃないか」
「じじいだからや」

一緒に乗り込んだ男たちが会話をかわしている。
運転手は無言だ。
麻耶がおとなしくしたがったのにはほかにも理由があった。
予感がしていた。
駅を下りた時から予感がしていた。
ビジョンもあった。
誰もいない部屋で美智子のメールを読んでいる自分が見えていた。
逆らうこともあるまい。
成行きにまかせたほうがなにか、わかるだろう。
ワンボックスカーは自由が丘の街には入らなかった。

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