田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

血を吸うもの 麻屋与志夫

2010-03-18 18:14:26 | Weblog
part10 血を吸うもの 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


48

「いかないで、龍」

なにか危険が迫っているのだ。 
濃霧の中で文子の声がする。
龍之介は道に面した土蔵の壁にもたれている。
「いかないで、動かないで、龍」
霧のなかから文子が現れた。
「ごめん。時間を戻し過ぎたのね」
「鬼村と戦っていたようなのだけれど。
蔵の中に閉じこめられていたはずだ」
文子の肩を抱き寄せていた……。
唇をあわせた感触がのこっている。
文子とこうしているとたのしい。
愛を告白した記憶がある。
でも、恥ずかしくてそれを確かめられなかった。
異次元からもどってきたのだ。
龍之介は漆喰の白壁をみつめていた。
いつのまにか霧は晴れていた。
鬼があそこで生きている。
あの蔵の中に鬼が生存している。
ふたりは同時にそう思っていた。
龍之介の意識は混乱している。
『いかないで』とよびかけられたところまで時間を遡行してしまった。
では、あの鬼村との戦いは無かったことになるのだろうか。
わからない。
あの蔵の中から時間をジャンプできなかったら、
どうなっているただろうか。
わからない。
数時間前と龍之介はなにもかわっていない。
でも、ひどくつかれている。
文子とたがいに顔をみあって吐息をもらした。
「文子」
「なあに」
「愛している」
これだけは確かだ。
もとの時間にもどってきているにしても、
あの蔵の中で文子に告白した言葉は覚えている。
「愛してる。文子」 

文子の日記。
この下野の地の吸血鬼たちは、鬼村たちは日本古来の鬼族を原種とした吸血鬼だった。
どうりで、手強いわけだ。
さらに吸血鬼の本場ルーマニヤからの侵攻。
わたしが呼び起こされたわけが、しだいに明らかになってきた。
この地方については、書物で読んだことがある。
この地方のことが「日本書紀」にのっている。

景行天皇四十年七月の条には、東国の野蛮な風俗についての記述がある。

また山には邪神がおり、野には悪鬼がいる。
~毛皮を着、生血をすすり、兄弟は互いに疑い合っている。

もちろん、其の血を飲み、
とは獣の血のことだろうが、
なにかぞっとするわ。
龍之介と会えたことが、
今回の使命を特別なものにしている。
わたしの正体を知ってもおそれない男。
わたしを愛していると正面切っていつてくれた若者。
うれしかった。
年甲斐もなく顔が紅潮した。
わたしも龍之介がすきだ。
でもこの恋を成就させるためには、
わたしが監査官であることをやめるか、
龍之介がわたしのone biteを受け入れるしかない。
かなしい現実だ。


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吸血鬼との愛2  麻屋与志夫

2010-03-16 10:08:44 | Weblog
part10 吸血鬼との愛2 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


47

バリアがあるようには思えない。
そんなものは存在していないようなのに。
閉鎖空間であることは確かだ。
なにかおかしい。
自由に動けるのは蔵の中だけだ。
階段を上ることもできない。
扉にふれることも不可能だ。
ばんとはね返されてしまう。
文子が龍之介の肩にほほをのせている。
初めてみせてくれる親しいしくさだ。
お互いにすきだということがこんなにときめくものかと龍之介は思った。
吸血鬼の監察官を恋人にもつなどということは……。
薄暗がりの中で文子の目をのぞきこんだ。
「なにかんがえている」
「このままだって……いいような心地よ。
時間がとまってしまっているみたい」
文子は微笑みを浮かべてすらいる。
ふたりはどちらともなく唇をあわせていた。
「どうなるのかな? やはり携帯はつうじない」
「龍。あれみて」
文子が龍之介のみみにささやく。
なにか白い渦のようなものが現れた。
渦が濃くなっている部分が顔にみえる。
恨めしそうな顔がじっとふたりをみつめている。
「鬼の犠牲になったひとたちよ」
「ぼくもそう思う。だがどうしてこんなものをみせるのだ」
「脅しをかけているのよ。おまえらもこうなりたいか!!」
なにか訴えかけるように、口がぱくぱくうごいているのまで鮮明になってきた。
「わたしたちが恐怖を感じないのが、鬼村にはおもしろくないのね」
エモノをいたぶる動物のようなものだ。
どこからかぼくらをみて楽しんでいる。
怨嗟の声を上げてせまる顔に蛆むしがわいてきた。
ぬめぬめとのたくる蛆むし。
呪いの言葉をを吐きながら蛆むしをくしゃくしゃたべている。
「あいつらさらにリアルに実体化するわよ。
そのときがチャンス。見てて」
文子は龍之介の手をとった。
うえにジャンプする。
ふたりは手をつないだまま高く跳びあがった。
恨みの言葉を、ふたりにあびせていたモノの化が遥したにうごめいている。
ふたりは天井にはりついたまま格子窓まで移動した。
「蝙蝠が自由に出入りしていたのをおぼえている」
 


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吸血鬼との愛  麻屋与志夫

2010-03-14 08:23:13 | Weblog
part10 吸血鬼との愛 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

46

「わたしが監察官に選ばれているのは、
血を吸えない吸血鬼だからなの。
かれらが暴れすぎないようにするには、
わたしのような存在が必要なのよ」
「ここからは出られないのかな」
「見はられているわ。
そして鬼の呪詛によってここはつくりあげられている空間だと思う」
いますこしようすをみましょうと、
文子は龍之介に耳もとでささやいた。
「監察官はハンターとはちがうの。
かれらを消滅させるのが目的ではない。
かれらが血の飽食にふけらないようにする監視役なの。
でも、これほど反抗的なかれらと会うのははじめて。
やはりルーマニヤの血がまじってしまったからかしら。
ハイブリットcarみたいなものなのかもしれない。
だって確実にパワーアップしているもの」
「ぼくたち……会話がはずむね……」
文子がほほ笑む。
「怖くないみたい」
そういわれてみれば、
ここに閉じこめられて、
意識の混乱はあった。
でも、恐怖は感じなかった。
文子が居るからだ。
文子と肩を寄せあっているからだ。
文子とだったらどんな苦境も乗りこえられる。
そう思うと、いま置かれている状況にたいする恐れはない。
これって、すごくかわったことなのだろう。
ノーマルな高校生だったらとてもこんな会話はしていられないはずだ。
こんなに冷静でいられない。
文子がいるからだ。
愛する文子がいるからだ。
そっと肩をだきよせた。
文子とだったらこれからも楽しいことがいっぱいあるだろう。
苦しみも、恐怖もなんてことはない。
むしろいい思い出となるだろう。
愛する吸血鬼といっしょなら……。
「こら。吸血鬼と思わないといったじゃないの」
文子が龍之介のおでこを指ではじいた。
「そうだ。携帯してみる。Gにつながるかも」
「それはだめだとおもう。この空間はすくなくても50は過去にもどっている」
「どうしてわかるの」
「ここには、栃木特産の麻があんなに積み上げられている。
いまはもうほとんど生産されていない麻が、
これほど大量に倉庫に積まれているのは、
おかしいと思っていたの。
空間だけでなく時間の歪みのある場所にとじこめられているのね」
 

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蔵の街のインペーダ―7  麻屋与志夫

2010-03-13 09:16:49 | Weblog
part9 蔵の街のインペーダ―7  栃木芙蓉高校文芸部(小説)


45

鉤爪が突きだされた。
龍之介は剣先ではらった。
邪悪な爪は金属音をひびかせた。
腕がしびれた。
龍之介の音なしの剣が鬼村の爪ではらわれたのだ。
剣さばきを完全によまれている。
龍之介は後ろに跳び退る。
ことは、できなかった。
グイと警棒をつままれた。
引かれている。
鱗のような肌になった鬼村の腕が警棒を握って離さない。
壁の中に鬼村の体が消えていく。
「いかないで」文子が叫んでいる。
「いかないで。龍」鬼村の体はもう壁の中だ。
龍之介は必死でこらえた。
引きこまれる。壁の中に。
「龍!」文子が龍之介にしがみついてきた。
「いつも一緒よ」抜けた。
ふたりは抱き合ったまま蔵の中に引き込まれていた。
しめったカビの臭いがする。
だれもいない。
麻の束が井桁につみあげてある。
「おかしいわ。栃木でももうこんなに大量の麻は生産されていないはずよ」
「なんでも知っているんだ」
「ちがう。メモリーが、記憶の容量が膨大なのよ。
ただそれだけ。
何世代にもわたっての記憶がわたしの頭にはインプットされてる。
未来の記憶もあるの。
体はそのつどかわってしまうらしいの。
そのことに関する記憶だけが欠落しているのよ。
なにも、わからないの」
「どうして、おそってこない」
「ようすをみているのだとおもう」
「どすうしてついてきた」
「龍之介がすきだから。
わたしのことをこわがらない、
わたしの正体がしれても、
わたしを怖がらない男。
龍みたいなわかものは初めてよ。
もう離れられない」
「ぼくも、
職員室で転校生として紹介されたとき、
運命の女性がここにいるとかんどうした」
「ありがとう、もっと早く告白すればよかった。
愛している。龍之介すきよ」
「愛してる。
ぼくも文子を死ぬほど好きだ」
「だったら……血をすっていい。
わたしのような吸血鬼になる。血をすわなくても生きていける吸血鬼になる」
「いいよ。文子と生きていけるなら。
この体なんかどうなってもいい」
「ここは鬼の空間らしいの。
妖閉空間からはそうでもしないとぬけだせないのよ。
でも……いちどわたしに口づけされるともとには戻れないのよ」
「それでもいい。
吸血鬼の姿をみることができるようになったときから、
予感していた。
東京で吸血鬼と戦ったことはなんどもある」
「だからわたしとあっても、おどろかなかったのね」
「文子はちがう。かれらとはとちがう」



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蔵の街のインペーダ―6  麻屋与志夫

2010-03-12 01:00:56 | Weblog
part9 蔵の町のインペーダ―6   芙蓉高校文芸部(小説)


44

「これはわたしの仕事よ。
リュウはみていて。
こいつらは、わたしのことを知っていて襲って来たのよ」
「そうはいかない。
こいつらに誘われてここにきたのはぼくだ。
ぼくのことも、こいつらは感づいて襲って来ているるのだ」
「だったらノドをついて。そこが急所よ」
「先刻承知。まえに教わったじゃないか」
「あらわたしとしたことが、ボケたのかしら」
それには応えず、龍之介は鬼村と向き合った。
「こんなところに潜んでいたんだな。
蔵の街として、
観光のメダマとして宣伝している土蔵に、
隠れているなんて卑怯だとは思わないのか」
鬼村の鉤爪が襲ってきた。
左腕の動きは正常だ。
なんて回復力の速いヤツダ。
「おれはレンフイルドなんかじゃない。
由緒あるこの土地の鬼族だ。
ルーマニヤの吸血鬼と合体したのさ。
みたろう。この回復力を」
だったらその地元で、
どうしてこうも凶悪な行動にでるのかききたかった。
芙蓉の番長植木を襲った。
奥本を誘拐した。
Gと龍之介の住まいを襲撃した……。
そうした一連の行動には訳があるはずだ。
でもいまはそんなことをきけるムードではなかつた。
龍之介は特殊警棒を青眼に構えた。
文子は鞭を右手に、
ボウガンを左手で連射しながら、
トレンチコートのRFと目まぐるしく戦っている。
龍之介はノドにつきをいれるとみせて、
鬼村の左腕に警棒をたたきつけた。
バキっとはねかえされた。
まるで鉄の腕に切りつけたようだ。
鬼村の鉤爪がさらに伸びた。
鬼村は激怒し、呪いの言葉を吐く。
口元もみにくく歪んで、乱杭歯からは臭い汚液を滴らせている。
爪はナイフさながらの光と鋭さで龍之介の胸めがけて襲いかかってくる。
警棒でないだがはじき返された。
進化している。
龍之介の攻撃パターンにそなえて進化している。
改良してきている。
鬼村がなにかいいたそうに笑った。
醜悪に歪んだ顔の笑は不気味だ。
龍之介は警棒のグリップをひねった。
突端から剣先が現れた。



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蔵の町のインペーダ―5 麻屋与志夫

2010-03-07 11:44:05 | Weblog
part9 蔵の町のインペーダ―5  栃木芙蓉高校文芸部(小説)

43

鬼村は切断された腕を拾い上げると切り口を合わせた。
ニヤッといやな含み笑い。
湯気のようなオーラがその口元でゆらめく。
分厚い舌で切り口をなめている。
すごい。
接合した。
「ぼくの家系はもともとは鬼にだから」
腕くらい簡単につなげるのだ。
ということらしい。
「それがどうして外来種の従僕になりさがったのよ」
話している間にも、さらに包囲網はせばまった。
「あなたたちは、ここをさぐりあてたのではない。
ぼくらがここにさそいこんだのですよ。わかったけ」
蔵の中で騒音がひびいた。
格子窓から無数に蝙蝠がとびだした。
「わたしにも、わからないのよ」
なにをいわれたのか、龍之介はとまどった。
「いつも、ふい目覚めるのよ」
さきほどの質問の応えだとしれた。
夕風にはためく黒髪。
ほの白い顔がほほえんでいる。
すぐ隣の文子が、どこか遠くからきたなどととても信じられない。

黒のトレンチコートの裾をはためかせてRFがおそってきた。
あたりは闇につつまれたようだ。
蔵の格子窓から蝙蝠がとびだしてきた。
文子と龍之介に群れをなして雪崩れてきた。
「あんたら、わたしをだれだとおもっているの」

文子の鞭が虚空で旋回する。
鞭の軌跡はみえない。
ヒュヒュと音だけがする。

「監察官よ。
みんなまとめて異次元にとばすことができるのよ。
二度とこの世界では、悪さができなくなる。
そのほうがいいのかしら」

蝙蝠が蔵の格子窓にむかって逆流する。
叩き落とされた蝙蝠の銅のような血の臭いがする。
恐怖の臭いも混入しているようだ。
よほど文子の言葉と鞭が怖かったのだろう。

トレンチコートの男たちも一瞬とまどった。
だが彼らは蝙蝠のようには怯まなかった。
白濁した死人の目のようだったのに、いまや赤光を放っている。


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蔵の街のインペーダ― 4  麻屋与志夫

2010-03-02 18:52:14 | Weblog
part9 蔵の町のインペーダ―4  栃木芙蓉高校文芸部(小説)


42

「うっそ。
そんなわけないでしょう」
龍之介は文子の袖をひいた。
土蔵の方角から、
黒のトレンチコートの男たちがあらわれる。
「あら、いつもおなじコスチームなのね。
わかりよくていいわ」
文子はまったく動じない。
夜風がさっとコートの裾をはためかせて吹きすぎた。
「宇都宮の駐車場ではせわになったな」
「こちらに移転したのね?」
返事はない。
じわじわと包囲網を狭めてくる。
「ボスたちは、どこにいるのかな」
「下館さんも大沢さんも、
あんたの懲罰をうけてモロに、
鱗肌になったままだ。
目立ち過ぎてひとまえにはでられない」
「あんたが死ねば、罰はむこうになるんだってな」
べつのコートの男がつづけた。
「なら、やってみる」
龍之介は不安になった。
そびえ立つ黒のトレンチコートの男たちにとりかこまれている。
そしてここは人通りのない、
庭園のおくだ。
樹木がうっそうと茂っている。
邪魔が入らない。
だが、助も来ない。
頭が混乱してきた。
こんなに、冷静でいられるのは、
自信があってのことなのだろう。
「わたしはこの街によばれてきたの。
街の防衛機能として呼びだされたのよ。
だからあんたらの横暴はゆるせない。
街のイメージを辱めるような行為はゆるせないのよ」
「だったらいくらはなししてもむだだな」
鬼村が正面から文子にとび蹴りで攻撃した。
文子は体を後ろに倒した。
まだ空を切っている鬼村の腕に文子の右手から光がほどばしった。
スパッと光がふれた。
その箇所から鬼村の腕が切断された。
絶叫がこだました。
「レンフイルドだから再生はできないかもよ」
文子の手には金属の鞭が握られていた。
「文子。過去からきたのではないのか」
そのあまりに未来的なweaponをみて、
龍之介は戦いの場もわすれて声をかけてしまった。



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