同僚と二人で飲んでいた。
今夜は金曜日。
予定もない二人は行きつけの居酒屋で夕ご飯
代わりに飲んでいた。
話す内容は仕事のグチと相場が決まっている。
共通の上司の悪口。
男二人で飲んでいるのもなんだか味気ないが仕方がない。
何といっても二人には予定がないのだ。
「バー「ep」がすごいんだって」
先ほどから真向かいで飲んでいる女子会が気になってしょうがなかった。
「あー知ってる知ってる。何でも夢が見れるらしいよ」
どうやらその場にいる女子は全員、知っているらしい。
「夢か・・・俺たちも夢見がちだよな」
「そうそう、宝クジ当たんねーかなーとかな・・・」
「行ってみる、そのお店?」
「そうねー、彼女達ともお話したいし、お店の場所聞いてくるよ」
あわよくば今夜の新たな展開も期待しつつ話しかける。
撃沈した。
見事な撃沈。
近年まれにみる撃沈。
バー「ep」の場所は聞けた。
歩いて行ける距離だった。
雑居ビルの5F。
ビル自体も裏路地のさらに裏に立っている。もう一度行ける自信がない。
エレベーターは無く、げんなりしながら階段を二人上る。
廊下の奥、木製のドア。
かろうじて読める「ep」の文字。
確個たる目的無き人間は到底このドアは開けないなと思いつつ二人は目を一度合わせ、ドアを引き開けた。
静かなピアノトリオの曲が店内には流れていた。
外観からは想像できない明るく、真っ白の内装。
受付には一人の老紳士がスリーピースを着こなし、こちら向きに座っていた。
「いらっしゃいませ。初めてですね」
何でもお見通しのような口元の笑み。
「はい」
二人はあわてて返答した。
「ご自分のお好きな夢を見る事が目的ですね」
単刀直入に老紳士は言った。
「はい」
「はい」
「ではこちらに・・・」
店内奥の扉を開け、老紳士はすたすたと歩いていく。
あわてて二人は何だかよく分からないまま付いていく。
次の空間は前室とは真逆、薄青く、足下だけがほのかに光る廊下。
個室のドアが並んでいた。
老紳士は二つのドアを開け、二人を別々に促した。
「御代は終わってからで結構です。なーにびっくりするような金額ではありませんよ。ご安心ください。どうぞごゆっくり」
押し込めるように二人の背中を押し、ドアは閉められた。
壁際にカウンターと椅子。
カウンターの上にはシガーセット一式、ウイスキーとグラスが置かれていた。
(やれやれ何だよ、説明無しかよ)
そう思いつつも、暗にストレートウイスキーを飲み、シガーに火を付けろという意味なのだろう。
そう思いストレートでウイスキーを一口飲む。
体内の管がカッと熱くなる。
シガーの先端をカットして長いマッチで火を付ける。
吸い、口の中でころがした煙を吐き出す。
一口吸っただけの煙なのに、吐き出された煙は生き物のように螺旋を描き、室内を旋回していった。
ウイスキーはよく冷えたマティーニに代わっていた。
隣には美女。
自身は高級そうなスーツを着ていた。
「!」
「ハイ・・・」
そう言うと美女はマティーニのグラスを俺の
口元に持ち上げた。
ゴクリと飲む。
(うまい)
そう思った瞬間、背後で爆発音。
体は勝手に動いていた。
美女の手を取り、破壊された窓からジャンプ。
外に止めてあるアストンに飛び乗り、エンジンをスタートさせた。
背中を押される加速。
後ろには追跡車両が2台。
しばしの逃走の後、敵意を確認した。
コンソールのボタンをポチッと押した。
真後ろに水平発射された2発のロケット。
正確に熱源を捕らえてエンジンが破壊された。
火柱が2本立ち上る。
隠れ家に無事到着し、盗んだ秘密データを本部に送信する。
これで任務は終了。
後は大人の時間だ。
「つれは?」
「お連れ様は先に帰られました」
「そう」
夢見ごちで老紳士に会計をし、家に帰って眠ってしまった。
月曜日、同僚が無断欠勤した。
電話しても出ない。
火曜日、二日目の無断欠勤。
やはり電話には誰も出ない。
仕事が終わってから、アパートを訪ねてみた。
部屋の灯りは付いていない。
インターホンを鳴らしても反応は無かった。
あの金曜日の夜、何かあったのか?
自分自身、雲の上を歩くようなおぼつかない足取りで帰るのがやっとだった。
話を聞いてみよう。
どうしてもバー「ep」にたどり着けなかった。
それらしい建物は見つけたが、5階の廊下の突き当たりには部屋が無かった。
老紳士と女子達が話していた。
「これでシガーが沢山作れたね」
「ああ、ざっと10年は楽しめる」
「もう一人、生かして帰しても良かったの」
「10年後にもう一度、罠をはって、次の10年分のシガーの原料にする」
今夜は金曜日。
予定もない二人は行きつけの居酒屋で夕ご飯
代わりに飲んでいた。
話す内容は仕事のグチと相場が決まっている。
共通の上司の悪口。
男二人で飲んでいるのもなんだか味気ないが仕方がない。
何といっても二人には予定がないのだ。
「バー「ep」がすごいんだって」
先ほどから真向かいで飲んでいる女子会が気になってしょうがなかった。
「あー知ってる知ってる。何でも夢が見れるらしいよ」
どうやらその場にいる女子は全員、知っているらしい。
「夢か・・・俺たちも夢見がちだよな」
「そうそう、宝クジ当たんねーかなーとかな・・・」
「行ってみる、そのお店?」
「そうねー、彼女達ともお話したいし、お店の場所聞いてくるよ」
あわよくば今夜の新たな展開も期待しつつ話しかける。
撃沈した。
見事な撃沈。
近年まれにみる撃沈。
バー「ep」の場所は聞けた。
歩いて行ける距離だった。
雑居ビルの5F。
ビル自体も裏路地のさらに裏に立っている。もう一度行ける自信がない。
エレベーターは無く、げんなりしながら階段を二人上る。
廊下の奥、木製のドア。
かろうじて読める「ep」の文字。
確個たる目的無き人間は到底このドアは開けないなと思いつつ二人は目を一度合わせ、ドアを引き開けた。
静かなピアノトリオの曲が店内には流れていた。
外観からは想像できない明るく、真っ白の内装。
受付には一人の老紳士がスリーピースを着こなし、こちら向きに座っていた。
「いらっしゃいませ。初めてですね」
何でもお見通しのような口元の笑み。
「はい」
二人はあわてて返答した。
「ご自分のお好きな夢を見る事が目的ですね」
単刀直入に老紳士は言った。
「はい」
「はい」
「ではこちらに・・・」
店内奥の扉を開け、老紳士はすたすたと歩いていく。
あわてて二人は何だかよく分からないまま付いていく。
次の空間は前室とは真逆、薄青く、足下だけがほのかに光る廊下。
個室のドアが並んでいた。
老紳士は二つのドアを開け、二人を別々に促した。
「御代は終わってからで結構です。なーにびっくりするような金額ではありませんよ。ご安心ください。どうぞごゆっくり」
押し込めるように二人の背中を押し、ドアは閉められた。
壁際にカウンターと椅子。
カウンターの上にはシガーセット一式、ウイスキーとグラスが置かれていた。
(やれやれ何だよ、説明無しかよ)
そう思いつつも、暗にストレートウイスキーを飲み、シガーに火を付けろという意味なのだろう。
そう思いストレートでウイスキーを一口飲む。
体内の管がカッと熱くなる。
シガーの先端をカットして長いマッチで火を付ける。
吸い、口の中でころがした煙を吐き出す。
一口吸っただけの煙なのに、吐き出された煙は生き物のように螺旋を描き、室内を旋回していった。
ウイスキーはよく冷えたマティーニに代わっていた。
隣には美女。
自身は高級そうなスーツを着ていた。
「!」
「ハイ・・・」
そう言うと美女はマティーニのグラスを俺の
口元に持ち上げた。
ゴクリと飲む。
(うまい)
そう思った瞬間、背後で爆発音。
体は勝手に動いていた。
美女の手を取り、破壊された窓からジャンプ。
外に止めてあるアストンに飛び乗り、エンジンをスタートさせた。
背中を押される加速。
後ろには追跡車両が2台。
しばしの逃走の後、敵意を確認した。
コンソールのボタンをポチッと押した。
真後ろに水平発射された2発のロケット。
正確に熱源を捕らえてエンジンが破壊された。
火柱が2本立ち上る。
隠れ家に無事到着し、盗んだ秘密データを本部に送信する。
これで任務は終了。
後は大人の時間だ。
「つれは?」
「お連れ様は先に帰られました」
「そう」
夢見ごちで老紳士に会計をし、家に帰って眠ってしまった。
月曜日、同僚が無断欠勤した。
電話しても出ない。
火曜日、二日目の無断欠勤。
やはり電話には誰も出ない。
仕事が終わってから、アパートを訪ねてみた。
部屋の灯りは付いていない。
インターホンを鳴らしても反応は無かった。
あの金曜日の夜、何かあったのか?
自分自身、雲の上を歩くようなおぼつかない足取りで帰るのがやっとだった。
話を聞いてみよう。
どうしてもバー「ep」にたどり着けなかった。
それらしい建物は見つけたが、5階の廊下の突き当たりには部屋が無かった。
老紳士と女子達が話していた。
「これでシガーが沢山作れたね」
「ああ、ざっと10年は楽しめる」
「もう一人、生かして帰しても良かったの」
「10年後にもう一度、罠をはって、次の10年分のシガーの原料にする」