今バイト中。
無音の部屋にいる。
先輩から聞いたバイトだ。
今年、音大の3年生になる。
小さい頃からピアノを習っていて、ゆくゆくは国際的なピアニストになるという野望がある。
しかし、現在は遺伝子上の才能というものを恨んでいる。
どうやら僕には人を感動させる才能が無いらしい。
出来るのは、だれかの表現した手癖の寄せ集め。
いずれ表現者としての道をあきらめる日が来るのだろう。
そんな予感にも似た確信が頭から離れない。
そんな時、先輩からバイトの紹介を受けた。
絶対音感が特に必要らしい。
「僕、自信ありますよ」
指定された場所は郊外だった。
電車とバスを乗り継ぎ、やっと到着した。
5階立ての真四角なビル。
窓は全く無く、ガラスのドアが一つだけあった。
外から中は見えない。
インターホンを鳴らした。
ドアは音もなくスライドして玄関ホールが見えた。
「どうぞこちらへ」
玄関ホール奥よりあまり日に当たっていない感じの色白なおじさまが現れた。
薄茶色のレイバンサングラスをかけていた。
案内された部屋には机、ソファー、ベッドが置かれていた。
12畳ほどの部屋。
床は板張り。
さまざまな本、雑誌、ゲーム、そしてドリンクバー、スナックなども置かれていた。
「ここで契約された時間をすごしてください。
基本的に何をしていただいてもかまいません。
唯一、音楽は御法度です。
ゲームも消音でおたのしみください
では失礼します」
レイバンの男はそう言うとあっさり退室した。
この部屋の最も特徴的な点。
それは壁だ。
壁は規則的な山で一面が覆われている。
この構造は、まるで無音室だ。
最初の一時間はその場にある雑誌を読んだ。
シーンという音が聞こえてきそうなほど静かだ。
不意に・・・
曲のイメージがわいてきた。
あわててコードを書き留める。
何だろう。
不思議と、無音のこの部屋にいるとアイデアが浮かぶ。
早く帰ってピアノにさわりたい。
次々と曲が沸き上がってくる。
これは・・・
音楽の世界で生きていけるのかもしれない。
喜びにふるえる自分がいた。
「部長、うちのレコードスタジオは変わってますねえ。
へんなバイトを呼んできては、あの部屋に入れてますねえ。
あれは何なんです?」
薄茶色のレイバンをかけたさきほどの色白男が聞いた。
「ふふふふ。このCD不況の今、うちだけが一人勝ちしてるのはどうしてだと思う。
あのバイト君たちのおかげというか、ゲンカツギというか・・・」
ミラーグラスのレイバンをかけた色黒部長が言った。
「あのバイト君の部屋は無音だろう」
「はい」
「実は無音じゃあないんだよ。
マスター音源からCDデータを作るときにカットされる周波数の音源を流しているんだ。
人間には聞こえない周波数だからカットされてもOKって事になっているけどそういうもんじゃあないんだなあ。
やっぱり耳のいい人に聞いてもらって成仏してもらわないと。
ほらあのバイト君見てみぃ。
わかってるよあの子は。
アーティストに触発されて作曲をはじめるなんてな。
デモテープ提出してもらおうか。
いい音だったら、ウチからデビューでガッポリ儲けさせてもらおう」
無音の部屋にいる。
先輩から聞いたバイトだ。
今年、音大の3年生になる。
小さい頃からピアノを習っていて、ゆくゆくは国際的なピアニストになるという野望がある。
しかし、現在は遺伝子上の才能というものを恨んでいる。
どうやら僕には人を感動させる才能が無いらしい。
出来るのは、だれかの表現した手癖の寄せ集め。
いずれ表現者としての道をあきらめる日が来るのだろう。
そんな予感にも似た確信が頭から離れない。
そんな時、先輩からバイトの紹介を受けた。
絶対音感が特に必要らしい。
「僕、自信ありますよ」
指定された場所は郊外だった。
電車とバスを乗り継ぎ、やっと到着した。
5階立ての真四角なビル。
窓は全く無く、ガラスのドアが一つだけあった。
外から中は見えない。
インターホンを鳴らした。
ドアは音もなくスライドして玄関ホールが見えた。
「どうぞこちらへ」
玄関ホール奥よりあまり日に当たっていない感じの色白なおじさまが現れた。
薄茶色のレイバンサングラスをかけていた。
案内された部屋には机、ソファー、ベッドが置かれていた。
12畳ほどの部屋。
床は板張り。
さまざまな本、雑誌、ゲーム、そしてドリンクバー、スナックなども置かれていた。
「ここで契約された時間をすごしてください。
基本的に何をしていただいてもかまいません。
唯一、音楽は御法度です。
ゲームも消音でおたのしみください
では失礼します」
レイバンの男はそう言うとあっさり退室した。
この部屋の最も特徴的な点。
それは壁だ。
壁は規則的な山で一面が覆われている。
この構造は、まるで無音室だ。
最初の一時間はその場にある雑誌を読んだ。
シーンという音が聞こえてきそうなほど静かだ。
不意に・・・
曲のイメージがわいてきた。
あわててコードを書き留める。
何だろう。
不思議と、無音のこの部屋にいるとアイデアが浮かぶ。
早く帰ってピアノにさわりたい。
次々と曲が沸き上がってくる。
これは・・・
音楽の世界で生きていけるのかもしれない。
喜びにふるえる自分がいた。
「部長、うちのレコードスタジオは変わってますねえ。
へんなバイトを呼んできては、あの部屋に入れてますねえ。
あれは何なんです?」
薄茶色のレイバンをかけたさきほどの色白男が聞いた。
「ふふふふ。このCD不況の今、うちだけが一人勝ちしてるのはどうしてだと思う。
あのバイト君たちのおかげというか、ゲンカツギというか・・・」
ミラーグラスのレイバンをかけた色黒部長が言った。
「あのバイト君の部屋は無音だろう」
「はい」
「実は無音じゃあないんだよ。
マスター音源からCDデータを作るときにカットされる周波数の音源を流しているんだ。
人間には聞こえない周波数だからカットされてもOKって事になっているけどそういうもんじゃあないんだなあ。
やっぱり耳のいい人に聞いてもらって成仏してもらわないと。
ほらあのバイト君見てみぃ。
わかってるよあの子は。
アーティストに触発されて作曲をはじめるなんてな。
デモテープ提出してもらおうか。
いい音だったら、ウチからデビューでガッポリ儲けさせてもらおう」