飲む行動の考察
またやった。昨夜の記憶はない。一人家で飲んでいたはずが、いつの間にか外にいた。自販機で買った酒をその場で飲んだ。そこから後は思い出せない。その代わり財布にあった十万円は綺麗になくなっている。
私の身体にあるのは二日酔いのだるさ、苦しさだけだ。この苦しみから逃れる方法は一つ。床を這い、転がって冷蔵庫に到達した私は扉を開ける。手を延ばしてドアポケットにある発泡酒を手に取る。よく冷えたうまそうな温度が手に伝わる。まず半分を一気に飲む。残り半分をトマトジュースの中にそそぎ込み、それもまた飲む。連続飲酒が始まってはたして何日になるだろうか。危険だとは分かっていてもやめられない。
まだ会社に行っている間はよかった。歯車が狂いだしたのはあの時で間違いない。私は当たってしまったのだ。サマービック宝くじに。
私は四十代半ばの独身男。先の人生もたかが知れていた。降ってわいた幸運。会社は換金した当日やめた。無気力な病人のふりを演じた。何を言われても相手にはしなかった。上司にはまるで子供だなと罵られた。退職の本当の理由は当然ふせておいた。面倒はごめんだ。
あり余るお金を魚に毎日飲んだ。
よくできたものであの日から十年の月日が経過しようとしていた。預金通帳の残高は百万を割り込んだ。私は完全なアルコール中毒となっていた。シラフでは手は震え、酒を飲んでも手が震える。
お金は現実問題として使ったはずなのだが、まったく記憶が無い。私の人生は何だったのか。そう思ったとき、私は雑居ビルの非常階段から飛び降りた。頭がアスファルトに当たる直前。
私はサマービック宝くじ売場に並んでいる自分に気づく。年表表示付きの腕時計を見た。日付は十年前。私は逃げるように売場を後にする。使った実感の無い億のお金はいらない。