電柱わきでデジカメの画像を見ていた。
散歩中の犬が立ち止まる。
上目使いの犬の視線から心理を感じる。
「その電柱はぼくのマーキング場所なんだワン どけて欲しいワン」
私はその場を速やかに移動しました。
こだわる男
俺はこだわる男だ。生活感を出さないのがこだわりのポイントだ。部屋の中にはリモコンや掃除機、歯ブラシ、洗剤などの生活道具を置かない。引き出しか扉の向こうに隠す。物が何も無い空間を維持しつつ生活が営める。当然生活には不便が伴う。あるべき物が隠れている不便さだ。
自炊はしないと決めた。キッチンの生活感は消せないと判断した。お風呂も自室では入らない。スポーツジムですます。とても他人とは共同生活など出来ない。
俺の至福の時は帰宅時。玄関に一人たたずみ、電気をつける。新居の様に何もない部屋が目前に広がる。
「美しい」
思わず声が漏れる。
今夜はお酒も飲んだので、休日前のくつろぎ空間をつくる。まずテレビを押入からだす。液晶テレビになって本当に良かった。俺ほど恩恵を感じている人間はいないと断言出来る。四十型ブラウン管テレビの出し入れは最悪の重量だった。
一人用折りたたみソファーを出す。そして折りたたみローテーブルを出す。買ってきた缶ビールを開ける。
ハードディスクレコーダーを取り出しテレビにつないだ。普段は収納されているが全番組を録画している。つまりテレビ線と電源をつないだまま収納している。
しばし鑑賞。しばし飲酒(サワー)しばし飲酒(ワイン)しばし飲酒(再びサワー)続く。
午前三時
俺の周囲は大量の空き缶、空瓶、おつまみの空ふくろ等が散乱している。
俺の酔いはそこで一気にさめる。ごみを片づける。掃除機をかける。雑巾で水拭きする。道具をかたづける。
午前五時
テレビ、ソファー、テーブルも隠す。
何も無い空間が目の前に再び降臨する。俺は再び喜びに満ちる。しかし、この幸福も一瞬だ。舌打ちをして寝る準備を始める。準備といっても寝袋を出すだけだ。速やかにもぐりこむ。ミイラになる。
客観的に自分の性格を見つめると自分の存在が一番じゃまなのではないかとも思う。自分の存在もない、何もない「無が」理想なのかもしれない。