お持ち帰りシリーズ
店員「何でも持ち帰りの店。どうですかお客さん」
客「本当に何でも持ち帰りできるのかい?」
店員「はい本当です。こちらが本日の持ち帰りカタログとなります」
巨大な立方体をドンとカウンターに投げるように店員は置いた。
客「すごい厚みだね」
店員「アナログ人間ですので、後ろにあります倉庫の在庫をまるまる紙に置き換えてあります。さあ、何でもご注文ください」
客「生物があるね。さしみ盛り合わせパック。これにしよう。レモンサワーと一緒に頂戴」
店員「かしこまりました」
店員は大きな網を片手に倉庫に消えていった。水の音が聞こえた後、蒼く光る数匹の魚を抱えて帰ってきた。店員は見事な手際で刺身を完成させた。レモンサワーと共にカウンターに用意される。
客「あんたすごいね」
店員「ありがとうございます。わたくし実は包丁一本で海外の三ツ星レストランを転々といたしておりました。帰国してこのお店でやっかいになっております。長い間売り子として働いておりますが、再び包丁を握る機会ができてうれしいかぎりです」
客「持ち帰りの刺身盛り合わせここで食べていいかい」
店員「税率のからみもありますが、一度、お持ち帰った体で私、黙認します」
客「そうかいありがとう。カタログに一刀彫りの仏があるが、これ買って帰ろうか」
店員「その仏ですか……」
客「どうした?問題でもあるのか」
店員「お時間大丈夫ですか」
客「おう、大丈夫だ。どうせ帰っても誰もいねえ」
店員「分かりました。では準備して早速かかります」
店員は真っ白い綿の着物に着替えた。よく乾燥させたであろう丸太にノミの刃先ををなぐりでたたき込む。
店員「実は私、仏師でもありまして。長年、仏を作っております。この職場で再びノミを握ることができるとはうれしいです」
客「あんたすごいな」