時々雑録

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箱根駅伝のせいで?

2011年01月05日 | 
箱根駅伝、もちろん米国では観られないわけですが、ウェブ情報でレースの状況をけっこう詳細に追いかけることができました。ところで、「駅伝のせいで日本の(男子の)長距離が強くならない、とくに箱根は問題」という意見が前々からあるようです。今日はちょっとそれについて書こうと思います。

問題を、「駅伝が問題」、「箱根が問題」、「『男子の』長距離が強くならない」、の3点に分けます。まず「駅伝」。たぶん、特に若いうちは駅伝を含めたロードよりトラックやクロカンをやるべきでしょう。でも、これは技術的で、私には難しすぎるので措きます。

次に「箱根」。問題点とされるのは、全員20Km以上と距離が長すぎること。5000m28分台がぞろぞろいて、その代わり27分台がめったに出ない日本。27分を切って初めて勝負になる世界の現状と比べると、スピード不足で距離を伸ばしたときに勝負にならないと。これは事実ですが、箱根を目指すことが原因なのか、私には分かりません。ちなみに、距離の長さはおそらく人気が出た一因。というのは長いから失敗したら最後まで持たずに潰れるランナーが出るから。ヘロヘロになった人間を(かわいそうねえ~とか言いながら)見るのが楽しいという、残酷な趣味は間違いなくある。

確かに強化に影響があると思うのは、これもよく指摘される「選手が箱根で燃え尽きがち」という点。問題は、それが悪いかどうか。日本で長距離をやって、これ以上目立つ機会があるか。せいぜい五輪の人気種目で、かつ伝統的に強いマラソンくらいでは。選手個人の競技人生を考えたとき、キャリアで最も目立てる機会を与えてくれる団体を目指し、そこをキャリアのハイライトと考えて全力を傾けるのは、当然だろうと。人生設計上でも、その後陸上を続けて得られる名声・収入と比べたら、箱根を集大成として陸上競技は打ち切り、(可能ならその栄誉も利用して)他の世界で身を立てるべし、と考えても全くおかしくない。人生の選択は人それぞれですが、どんな向きの力が働くかは明らかだろうと。

最後に「男子長距離の強化」。「女子に比べて男子の成績が劣る」という含みがあり、ということは、まあ、マラソンの話をしてるんでしょう。そこでは女子は世界トップレベル、男子がそのレベルに及ばない、と。ここに少々疑問を差し挟みます。たしかに、谷口、森下、中山の時代を頂点として、力は落ちてきた。では、駅伝の弊害等を是正して、強化ができたとして、「女子レベルの活躍」に達するかというと、それは難しいのではないでしょうか。理由は現在の男子マラソンのレベルにあります。

北京五輪の男子マラソンは私には衝撃でした。5Km15分以下でぶっとばし、後半になってもさほど落ちずに2時間6分32秒。陸上長距離の真の花形競技は5000m、10000m。ケニア、エチオピアの国内の競争のレベルがあまりに上がって、そこからあぶれた人の参入で、マラソンの高速化が始まっていましたが、ついに夏の五輪まで。これはもう二度と日本選手は勝てないんじゃないか。実際、現在のマラソン歴代10傑もエチオピアが一位(ゲブレセラシエ)で、あとみんなケニア。だから、これは日本だけの問題じゃなくて、世界のどこも東アフリカの高地の国に勝てない、という状況が続くだろうと。

ということで、ミもフタもない話になりますが、マラソンで強国に返り咲くのが目標ということなら、もうちょっと遅いだろうと。男子のこの状況は、女子でいえばラドクリフみたいなのがこぞって参入し、争っている状態。逆に言えば女子はまだそこまで競争が激化してないわけで、だからチャンスがあったのだ、と思います。北京五輪では女子マラソンにも愕然としました。新たに強い選手が全然参入してきてない。力が落ちたヌデレバがまだ2位。故障するほど無理しないで、選考レースの力をそのままもってきたら、野口さん楽勝だったじゃん、なんてもったいない、と。だからまだ女子にはチャンスがあるかもしれない、男子ほどは競技レベルが上がってきてないんですね。この先は分かりませんが、だから、男子と女子を同じ土俵で比較するのは無理があるだろうと。サッカーなんかとも同じで。

以上長くなりましたが、まとめると。
1. 駅伝とくに箱根駅伝には強化上の問題はあるかもしれない。
2. けど、それが是正されても、男子が、ことマラソンで世界トップに返り咲くには、
   世界の競争レベルが上がりすぎてしまって、無理。
3. そこまで競争が厳しくない女子と比較してはちょっとかわいそう。

ということです。ということで箱根に関しては以前は批判的だったんですが、ほとんどの人の利害が一致してるみたいだし、まあいいのかも、と思うようになりました(内向な考え方ですけど)。最後まで読んでくださった方ありがとうございました。