ニューズウィークが、一帯一路が岐路に立っていることを詳述していた。一帯一路が、後進国のインフラ整備で。当初は大いに貢献したが、その後、後進国が債務不履行に陥って、後進国を乗っ取りか、狡猾な再建回収を考えだすか、後進国の将来に障害にならないよう、世界が監視する必要があると説く。
いか、記事の引用::::::::::::::::::::::::::
コロナ禍で牙むく中国「債務のワナ」新型コロナ危機のあおりで新興国の対外債務問題が深刻化している。焦点に浮上しているのが中国。最近の研究で、広域経済圏構想「一帯一路」に絡んだ新興国の巨額の隠れ債務に光が当たり、貸し手の中国が他国を圧倒する「新興国のメインバンク」としての姿をあらわにしつつあるからだ。
だが新興国の中国依存は危うさもはらむ。コロナ禍による経済苦で、多くの国は債務返済の負担が増した。コロナ対応が後手に回れば、新興国が感染爆発や債務危機の震源地になりかねない。そこで主要国は債務の減免を探るが、中国は及び腰。むしろ危機で強まる貸し手としての力を背景に、地政学的な野心の実現に動くとの警戒感も広がっている。牙をむく「債務のワナ」に、世界はどう向き合うべきか?
■影響力強める中国
パキスタンのクレシ外相は4月15日、中国の王毅(ワン・イー)外相に電話をかけた。わが国はいかなる時も中国の戦略的友好国だと強調し、新興国の債務救済で中国が積極的な役割を果たすよう要請した。要は自らの債務負担を減らすよう求めたのだ(。
15日は20カ国・地域(G20)の財務相と中央銀行総裁が、電話会議で一部途上国への対外債務の支払い猶予を決めた日だ。クレシ外相もこの決定に言及して中国の決断を促した。パキスタンの切迫感が伝わってくる。
同様の債務救済要請は、キルギスやエチオピア、ガーナといったアフリカ諸国からも寄せられている。危機前から中国に対し多額の債務を負っている国々が多く、その額は2017年時点でパキスタンが国内総生産(GDP)の7%、エチオピアが20%、カザフスタンに至っては40%に達する。
コロナ危機の発生後も、中国への債務を膨らませている国は少なくない。深みにはまるのがスリランカ。2017年、中国の援助で建設したハンバントタ港の債務返済に行き詰まり、99年の長きにわたる港の運営権を中国企業に譲り渡した事件は「債務のワナ」の典型例として批判された。ところが5月下旬、今度はそのハンバントタ湾と同国中心部の工業団地とを結ぶ高速道路を整備するため中国輸出入銀行からさらに約10億ドルを借り入れた(。
ラオスでもコロナ危機下、中国へと延びる鉄道と高速道路の工事が続いている。このプロジェクト向けに借りた資金の返済が絶望的になっているにもかかわらず、だ。プロジェクトを糸口に、中国がラオスへの影響を一段と強めるのは必至とみられている。
コロナ危機下で中国が債権国としての立場を強め、新興国に影響力を及ぼす余地が増している。米欧などで高まる債務減免の要請には、こうした中国の影響力をそぐ狙いもあるとみられ、新興国の債務問題は経済・人道面の問題であるとともに、覇権競争の色彩も帯びつつある。
■コロナ危機前から危険水準
新興国の対外債務は、コロナ危機の前から深刻な状況にあった。所得の低い120カ国を対象とした分析では、政府の歳入に対する対外債務の支払いは10年の6%台から18年には12%台に急上昇していた。
国際通貨基金(IMF)と世銀が今年2月にまとめた報告書も、低所得国のうちすでに半数で対外債務が返済不能に陥ったか、その危機にあると指摘していた。
そこへコロナ危機が直撃し、08年のリーマン危機をしのぐペースで新興国から資金が流出した。通貨が急落して債務の返済が難しくなり、多くの国々は乏しい資金と貧弱な保健インフラで危機に立ち向かわざるを得なくなった。
国連開発計画(UNDP)は途上国が危機の克服に必要とする資金と調達額との差は2兆~3兆ドルにのぼるとはじく。
そこでIMFは緊急融資などで当座の資金を供給するとともに、低所得国に対して6カ月間、債務の返済を猶予した。さらに4月15日のG20会議は80近い国々を対象に、政府間で貸し付けた債務の元本と金利の支払いを20年末まで繰り延べることで合意した。
■不十分な債務救済
ただ合意したのはあくまで一時的な支払いの停止にすぎず、21年以降の道筋は不明だ。民間の債務についても対応を呼びかけるにとどまった。官民が債務の減免などに大なたを振るうかは、これからの課題だ。
最も動きが読めないのが中国だ。経済協力開発機構(OECD)メンバー国を中心につくる「パリクラブ(主要債権国会議)」に加盟していないこともあり、どんな債務をいかなる形で救済するか不透明なのだ。中国がとりあえずG20の合意に名を連ねたことを各国は歓迎したが、これを米外交問題評議会(CFR)の国際経済ディレクター、ベン・スティール氏は「茶番」だと切って捨てる。
最大の理由は、中国が一帯一路の関連プロジェクトで貸し付けた債務の救済に応じるつもりがないからだという。
実際、G20会議の翌日、中国商務省傘下のシンクタンク国際貿易経済合作研究院(CAITEC)の幹部は、共産党系の英字紙グローバル・タイムズに寄稿し、国外のインフラ開発などに提供した優遇ローンについて「債務救済の対象外だ」と述べ波紋を呼んだ。
スティール氏の分析によると、中国開発銀行などが一帯一路の初年度にあたる13年以降に融資した関連プロジェクトは67カ国で1800案件、金額で1350億ドルに達する。それが、すべて救済の対象外になるという。
しかも、これら融資の金利は世銀などに比べはるかに高い。スティール氏は中国が今も世銀融資の主要な借り手だと指摘し、「世銀から安くお金を調達して新興国にまた貸しししている」とも批判した。
■「隠れ債務」浮き彫りに
中国の対外融資の実体はベールに包まれている。融資の多くが国営企業や特別目的会社を通じて提供され、その内訳も明らかになっていないためだ。IMF、世銀や国際決済銀行(BIS)の報告制度から漏れた融資も多くあるとされる。
これにメスを入れようと、ここへきて活発に研究が進んでいる。中心的な役割を果たしたのが、5月に世銀の首席エコノミストに任命されたカーメン・ラインハート米ハーバード大教授だ。ドイツのシンクタンク、キール世界経済研究所の研究者らとともに、個別の借り入れ契約や国家間の協定、政府の報告書、学術研究など多くの情報源から幅広くデータを集め分析を行った。
この結果、新興国が中国に対して負う債務のうち約50%、額にして2000億ドル相当が、表に出ていない「隠れ債務」であることが判明したという。
これらを含めた新興国の対中債務の総額は3840億ドル。13年と比べて2倍近くに膨らんでおり、1カ国でパリクラブに加盟する22カ国の合計(2460億ドル)を超えるという。世銀(3000億ドル強)をも上回り、中国は名実ともに世界最大の貸し手の地位を確立している。
中国から新興国への融資総額3840億ドルに対し、外交評議会のスティール氏がはじいた一帯一路向けの融資額は1350億ドル。基準が異なるので厳密な比較はできないが、大まかには中国の新興国向け融資の約3分の1が一帯一路関連ということになる。
■中国融資の特徴は
ラインハート氏らの研究は、中国の融資の特徴にも切り込んでいる。
第1に、企業などを通じた民間の形態をとっていても、資金の出どころをたどると国やその関係機関が背後におり、ほぼすべてが実質的に公的な融資だという。
第2に、融資条件は必ずしも借り手に有利ではない。世銀がゼロか年1%程度の低い金利を適用しているのに対し中国は民間銀行並みで、年6%も珍しくない。返済までの期間は短く、多くの融資には天然資源や対象事業の収入、国有資産といった担保が設定されていると分析する。
第3に、返済が難しくなった場合も、債務を減らすことはまれで、返済期限の延長で対応する例が多い。しかも米欧日などパリクラブの国々が多国間で明確な基準を決めて債務のリストラを進めるのと対照的に、借り手と相対で交渉し内容もほとんど明らかにしないという。外交評議会のスティール氏は、これに関し「一帯一路の国々を分断しておきたいからだ」との見方を示している。
■噴出する不満
もともと中国の融資姿勢には「互恵的な経済発展よりも戦略、安全保障上の目的が優先されている」と疑念をもつ国が少なくない。
多額の債務を負った割に雇用面などで自国への恩恵が小さい。中国企業がインフラ建設を一手に受注していることも問題視されており、コロナ禍で経済の苦境が深まるなか不満が増幅されている。
ナイジェリアの議会は5月中旬、00年以降の中国からの融資を調査することを決めた。事業の実現性を精査し、条件を再交渉する狙いだ。他のアフリカ諸国、そしてマレーシアなど東南アジアの各国でも似たような動きが出てきた。
中国は難しい立場にある。新型コロナをまん延させた中国への不満は根強い。債務救済への要請を拒否すれば、火に油をそそぐことになる。露骨に担保資産の差し押さえなどに動こうものなら、食料にも困っている国の弱みにつけ込むのか、と国際的な批判も噴出するだろう。
他方、安易な債権放棄などに応じれば、経済の落ち込みで不満をためた自国の国民から突き上げられかねない。中国自身、板挟みの状況だ。
英紙フィナンシャル・タイムズは一帯一路向けの融資を担う中国開発銀行の研究員に匿名で内情を聞いている。研究者は「一帯一路向けの融資は援助ではないので、少なくとも元本と若干の金利はとる必要がある」と指摘している。「ポートフォリオの20%に問題が起きてもなんとかなるが、半分が貸し倒れになると耐えられない」とも明かし、救済は返済期限の延長や金利引き下げにとどめたい意向を示した。
記事はまた中国の政府系シンクタンクの見方として、中国開発銀行などが中国に友好的な国に対しては金利減免と若干の元本削減をするかもしれない、との声を紹介している。救済の可否や度合いも中国政府との関係次第というわけだ。
■中国融資の強みは
中国が債務の減免に消極的との見方は必ずしもあたらない、と主張する専門家もいる。北京に拠点を置く開発問題のコンサルタントで、ケニア出身の元外交官ハンナ・ライダー氏だ。
同氏らの研究によると、中国は00年から18年の間に世界で38億ドルの債権を償却した。融資全体に占める額こそ大きくないが、同じ期間中の米国の23億ドル、英国の8億ドルよりは多いという。低所得国が経済発展に伴って中所得国に分類されると国外からの援助が6割近くも減るため、中国に頼る国が相次いでいるとも指摘する。
米シンクタンクの開発専門家らが世銀と中国の融資を比べた最近の研究も、中国が多くの新興国にとって魅力的な貸し手となっていることを示している。
世界157カ国を対象に00年から14年までの15年分のデータをもとに、支払いの猶予期間、金利、返済期限などを分析したところ、中国の融資条件は世銀より厳しいものの、民間よりは有利だった。また中国の融資は1件あたり平均3億ドル強と世銀の2倍強の規模があり、大規模なインフラ事業などに向いていることも分かった。さらに世銀が対象としていない30カ国に融資しており、特にデフォルト(債務不履行)の危険がある国々への新規の貸し出しは、半分近くを中国が占めていた。
■金融混乱の火種に?
これは裏を返せば中国が大きなリスクを抱えていることも意味する。コロナ危機による打撃が広がるにつれ、経済基盤の弱い国々で融資の焦げ付きが増えるのは避けられない。その最大の貸し手となった中国が透明性を欠いている現状は、国際金融における適正なリスク評価や政策対応を妨げ、きわめて危険だとラインハート氏は警鐘を鳴らす。見えにくい中国の融資と対応が、金融市場を混乱させる火種になりかねない。
一帯一路への影響に目を向ければ、中国が目先は融資に慎重になり、関連事業が一時的に滞る可能性も指摘される。
それでも「中国が債権国に対してもつ影響力は増す」との見方は少なくない。とりわけ戦略的に重要な国や事業に対しては、背に腹は変えられず手綱を引き締める可能性があるからだ。中国が地政学上の要衝と位置づけるスリランカやラオスの事業に追加融資しているのは、まさにその兆候と言えるだろう。
ケニアでは中国の融資で整備されたモンバサ港が債務不履行に陥り接収されるとの懸念もくすぶる。「返済が滞ることによる悪影響は加速度的に前倒しで起きるだろう」との悲観的な見方もある。
■警戒強める米国
米国は、中国の動きに警戒感を強めている。
16年の米大統領選でトランプ大統領と共和党候補指名を争ったテッド・クルーズ氏ら16人の上院議員は、ムニューシン財務長官とポンペオ国務長官に書簡を送った。新興国が中国に対して抱える債務が金融面、地政学面でもたらす影響を注視するよう求める内容だ。
議員らが警戒するシナリオは2つ。一つは中国の国内経済が悪化、期限が来た融資の借り換えに応じなくなり、新興国の資金繰りを逼迫させる事態。もう一つは、中国が戦略的に重要とみて巨額の資金を投じたインフラ事業が行き詰まり、資産の差し押さえや政治的な影響力行使への誘惑に駆られる展開だ。
議員らは米国や同盟国の納税者が結果として中国の金融機関を救済し、しかも「債務のワナ」を使った外交を手助けする事態は断じて避けねばならない、と主張している。
具体策として中国への債務返済に苦しむ国々に目配りし、必要ならIMFや世銀を通じて支援するとともに、支援にあたっては対象国が中国に対して負うすべての債務や法的な義務を開示するよう求めるべきだと訴えた。
■米中対立の前線に?
こうした動きに呼応したのか、ポンペオ国務長官は最近「中国共産党がアフリカ諸国に対して巨額の債務を課している」と批判し、厳しい融資条件を見直すよう中国に求めるべきだとけしかけた。債務問題が米中対立の新たな戦線になる可能性が出てきた。
そうでなくとも債務の見直しは、米中関係の悪化で複雑化する見通しだ。中国が最大の債権国になった今、その存在抜きに実効性のある債務減免は難しい。ただ米国も中国も、相手が主導する債務減免の取り組みには乗りたがらない。また両国とも自らが債権放棄などで負担した資金が、相手への支払いに使われるのを嫌がるから、結局にらみ合いになって対応が暗礁に乗り上げる――。そんな可能性をIMFも懸念している。
そうこうしている間に格下げや債務不履行が同時多発的に起こり、金融市場が混乱する事態も視野に入ってくる。
では、どうしたらいいのか。何よりもまず中国を債務救済の枠組みに引き入れよ、多くの専門家は口をそろえる。
米保守系シンクタンクのハドソン研究所は、米国主導でパリクラブを拡大するか、さらに大きな債権国の国際的な枠組みを創設せよと説く。そこで主要国や国際機関、国営企業に対し、「低所得国で9割」といった大胆な債権放棄を呼びかけよと提唱する。相対での交渉にこだわる中国は反対するだろうが、「中国の融資慣行を変えるには避けて通れない道だ」という。
■一帯一路の多国籍化
パリクラブの見直しや拡大に加えて、一帯一路構想そのものを多国籍化し、世銀やその他の国際金融機関を関与させるべきだとの声もある。これにより融資の基準や契約を透明化できるとの見立てだ。
一帯一路の関連事業は、もともと融資よりも長期投資になじむプロジェクトが多い。そこで債権を株式に転換する「デット・エクイティ・スワップ」を実施し、一帯一路構想を巨大な政府系ファンド事業に衣替えしてはどうかとの意見もある。資金を受け入れる側の国にも土地などを提供する見返りに株式を割り当てるのがポイントで、これにより十分な発言権を与えるとのアイデアだ(With the coronavirus imperilling belt and road borrowers, China must not simply write off debt)。
一方、先の北京在住のコンサルタントで元外交官のライダー氏は、むしろ必要なのは、貸し手の集まりのパリクラブとは対極の、借り手によるクラブだという。これにより中国が提示する金利や返済期限などの条件について債務国どうしが情報交換し、有利に交渉できるようになるとみる。
■問われる新たなガバナンス
もっとも仮に債務の軽減策が実現したとして、浮いたお金が無関係な用途に流用されては元も子もない。そこでUNDPは新たな国際組織を立ち上げて、資金が感染症対策や経済の下支えに効果的に使われるよう監視することを提唱する。
同様の構想は開発金融や債務問題の権威からも提案がされており、こちらは新機関でなく、世銀やアジア開発銀行など既存の機関が監視の機能を担うことを想定する。実現した場合、中国は当然これらの枠組みで中心的な役割を果たすことになろう。
中国が巨大な債権国として台頭した新たな世界に、今の国際金融のガバナンス(統治)が対応できていないのは明らかだ。新興国にとって国外からの融資は、経済発展になくてはならない糧である半面、他国への依存を強め、政治的な圧力も招きうるもろ刃の剣だ。不意の金融不安や国際秩序の動揺をまねく債務の悪用を防ぐためにも、中国の存在を前提にした透明性の高いルールとチェックの仕組みは不可欠。コロナ禍を奇貨として、その体制を早急に検討する必要がありそうだ。