ニューズウィークが『新型コロナが握る米大統領選の行方──トランプの再選戦略は」と解説記事を掲載していた。ネガティブ宣伝になると予測している。たとえば、民主党が、トランプ政権の新型コロナ対策が遅すぎたという主張に対し、新型コロナ災害は中国発信で、民主党は中国べったりの主張をしたと、政策論争ではなく、泥試合になるのではとみているようだ。
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<コロナ危機への対応でトランプの支持率は自己最高に、この勢いが秋まで持つかは今後の感染の展開次第>
秋の米大統領選で再選を目指すドナルド・トランプのある選挙CMは、思い出せないほど遠い昔に戻ったような内容だ。
CMのタイトルは「ファイター」。黒人の女性有権者(「アメリカを再び偉大に」と書かれた赤い野球帽をかぶっている)が、トランプ政権下での経済の好調ぶりを絶賛する。
「この国の経済を見て。彼が成し遂げたことを見て。大統領を支持しないなんて選択肢はないでしょう?」
このCMには、トランプ陣営が選挙戦でやろうとしていることが凝縮されていた。低い失業率、賃金の上昇、好調な株式市場をアピールするというものだ。
同時に、非白人の支持率を高めようという狙いも見えた。前回2016年の大統領選でトランプが得た黒人票は全体の8%。これが10%台前半に増えるだけでも民主党候補に圧勝できると陣営は考えていた。
選挙戦で最も強調すべきポイントは「平和と繁栄をつかさどる大統領」だった。「ドナルド・トランプの名と彼が残した輝かしい業績ほど、全てのアメリカ人にとって『勝利』を象徴するものはない」と、選挙対策本部責任者のブラッド・パースケールは語っていた。
ところが、状況は一変。今年の大統領選は「新型コロナウイルス選挙」になった。目下の危機にトランプがどう対処するかが、結果を大きく左右する。
いずれネガティブ広告に走る
パースケールは、テレビとネットの広告費として10億ドルを確保したと言う。前回選挙とは比べものにならないほど潤沢な額だ。
今後打ち出される新しいCMは、即座に作り変えられた。既に編集が終わった「最高司令官」と題するCMは、危機に際しても冷静で力強い指導力を発揮する「戦時大統領」としてトランプを描く。危機管理室に大統領とウイルス対策チームが集まった光景を捉えたモノクロの映像に、「決断力を備えたリーダー」というナレーションが流れる。
もう1本のCMは、トランプが1月31日に中国からのアメリカ入国禁止措置を打ち出したとき、今は民主党の大統領候補に事実上決まったジョー・バイデン前副大統領が「外国人排斥」と非難したことに焦点を当てている。「専門家によれば、あの決断は数千数万のアメリカ人の命を救った」とナレーションが入る。
どちらのCMもまだ公開されていないが、トランプが新型コロナウイルス関連の会見を毎日行うようになってから、彼の支持率は急上昇している。3月24日に発表されたギャラップ社の世論調査では、トランプの仕事ぶりを支持すると答えた人が49%に上り、彼にとって過去最高の数字となった。さらに60%がトランプの危機対応を支持すると答えた。
トランプの定例会見は大変な注目を集めている。3月23日の会見をケーブルテレビで見た人は実に約1220万人。さらに主要ネット局で数百万人が見ている。
危機的な状況が進むにつれてトランプ陣営は、選挙専門家が言う「アーンド・メディア」(自陣営の発信ではなく、既存メディアによる発信やSNSなどを通じた市民のメディア活動)の大きな恩恵にあずかっている。陣営では会見の視聴者が減り始めない限り、わざわざ選挙CM(こちらは「ペイド・メディア」と呼ばれる)を出さなくてもいいと考えている。
さらにトランプ陣営は、トランプがホワイトハウスから長時間にわたって熱弁を振るえば、コロナ禍のために集会も開けないバイデンが自宅の地下室から動画で支持を訴える姿とは全く対照的に映り、自陣営に有利に働くとみている。バイデンの戦いぶりは「笑えるほどお粗末だ」と、あるトランプ陣営関係者は言う。
だが方針転換したトランプ陣営の戦略も、長くは持たない。選対本部では、今後打ち出す予定だった多くのネガティブ広告を使うのか、それともポジティブな「最高司令官」というイメージを強調するのかが議論の的になっている。ネガティブ広告のテーマは単純明快。バイデンは大統領に適任ではない、今のような危機のただ中ではなおさらだ──。
昨年流れた選挙CMを焼き直すことにもなりそうだ。医療保険に不法移民の加入を認めるかどうか民主党の大統領候補たちに挙手で答えさせた場面を使ったものだが、新CMではおずおずと手を挙げて賛成の意を示すバイデンに焦点を当てるだろう。
トランプがいずれネガティブ広告を認めるのは間違いない。なにしろ民主党系の特別政治活動委員会(スーパーPAC)が、新型コロナウイルス問題への対応について一斉攻撃を仕掛けている。例えばスーパーPACのプライオリティーズUSAアクションは、主要な激戦州で600万ドルを投じ、トランプが当初ウイルス問題を軽視したことを批判した。
そこでトランプ陣営は3月26日、プライオリティーズのCMを流すテレビ局を訴えるという脅しを掛けた。大統領は新型コロナウイルスのことを「でっち上げ」などと言っていないというのが、その理由だ。
秋には空気が変わっているか
トランプ陣営は、バイデンが自分なら新型コロナウイルス危機にどう対処するか語った内容について、その多くは既にトランプがやっていると主張する。「バイデン案は二番煎じで、遅過ぎる」と、陣営の広報担当アンドルー・クラークは言う。じきにCMでもそう主張するだろう。
トランプ陣営は激戦州を狙い、中国からの入国禁止に早い時期に踏み切ったことを強調するはずだ。その頃、民主党とメディアはウクライナ疑惑による大統領弾劾に躍起になっていたとも付け加えるだろう。
仮に投票日までまとまった日数を残した段階でコロナ危機が収束すれば、トランプ陣営は中西部の激戦州に照準を合わせる。前回はトランプがこれらの州で勝利したが、今回はバイデンが有利とみられている。
一方で、トランプ陣営がバイデンの弱みと考えているのは「中国」だ。この選挙戦でバイデンは、中国の競争上の脅威を過小評価する発言を繰り返してきた。新型コロナウイルスが中国発であることから、中国に甘いバイデンの姿勢はマイナスになるかもしれない。トランプ陣営はコロナ危機の展開次第で、バイデンが中国政府の手先であるかのように描く広告を何本か作りそうだ。
しかし、選挙関係者は口をそろえる。今年の大統領選を支配するのは新型コロナウイルスだ、と。「去年のうちに多くの計画を練ったのに、今はもう全く役に立たない」と、あるトランプ陣営関係者は言う。
トランプ陣営は、秋になれば「最高司令官」による危機対応をたたえるCMを流せるよう願っている。同時に、移民や貿易、医療などの主要論点でバイデンをたたくつもりだ。
トランプ陣営は赤い帽子をかぶった黒人女性のCMを、また引っ張り出してくるだろうか。本選が近づけば、そんなことができる空気に戻っているだろうか。ある政権顧問は言った。「それは、あなたにも私にも分かるはずがないだろう?」
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