我輩も猫である。
我輩は足が三本しかない。
人間の読む自己啓発本によると、「三本しかない」と言うのはネガティブな言い方で、ポジティブに言うには「三本もある」と言うらしい。
どっちにしても、我輩は三本脚の猫である。
このあたりの猫は、もともとノラである。
梨畑など自由に歩き回り恋をして一家を成し、子猫も成長してノラで過ごす。
ノラだけでは、生きてゆけないので愛嬌を振りまいてスポンサーを見つけ半ノラ、半飼い猫のような人生?(猫生)を送る。
猫だって老後のこと考えてお抱えの方が安心だ。
しかし犬のように繋がれるのはいやだ。自由は失いたくない。
最近のニュースでは、郵便配達猫として二軒の飼い主に二股かけて行き来して、それぞれの家で別々の名前で呼ばれ首につけたメールで二軒を結ぶつわものも現れたと聞く。
で、我輩はと言うと。
良くぞ聞いてくれました、これからお話いたします。
我輩が子猫のころ、親から離れて冒険したくなり国道に少し足をかけたとたんに、車のタイヤに足をつぶされた。
ショックでその時の事は、何もおぼえていない。
親切な近くのお婆さんが、抱えて動物病院へ連れて行ってくれた。
緊急手術の結果、足一本失うだけで、無事に生きながらえた。
あれから、もう二年半にもなるかな。
その「オンジン」は、我輩のことを毎日 朝昼晩と欠かさず養ってくれている。
テレビ番組の所さんの「笑ってこらえて」に出て来そうな老婆の「オンジン」は、番組のスタッフに「今、何してるんですか~」と聞かれたら「猫に餌やりに行くとこだんべ」と返ってきそうな感じ。
我輩はその「オンジン」の名前は知らない。
老婆は、潰れかけた家作を二軒持っているが、誰も住んでないので、そこにも猫が二匹住まいにしている。
自宅には、ペットのマロンと言う犬もいるが、犬も猫可愛がりされている。
我輩は、そこから200メートルほど離れた梅林に手術後からノラを決め込んだ。
どうしても家に寄り付かない我輩のために、雨露が凌げるようにと毛布や、シートで難民テントを張ってくれた。そして毎日餌を欠かさず運んでくれている。梅林の持ち主も、もう何があっても、黙認して立ち退きを要求したりしないようで、助かっている。
今年になって、中型の犬小屋を運んできて耐震性と暴風雨にも強いので、特養ホームとなり、三食昼寝つきで、肥満が心配だ。
古い家作を壊す時期に来ているのだが、取り壊す費用と、我輩の手術費用と同じくらいだったと、あとから聞いて我輩は「オンジン」に足向けて寝られない。
猫とは言え、生き物の命はお金に代えられないということを、知っている近頃の人間には稀な存在だ。
何時の日か「猫の恩返し」を夢見て、梅雨空を見上げている。
(三本脚の猫のハナシはサミット終わっても、続きますよ。)