国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

トルコの親イスラム与党・公正発展党と世俗主義の最大野党・共和人民党+トルコ軍の対立の行方

2007年08月28日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●トルコ国軍、イスラム色強化をけん制 2007年8月28日 日本経済新聞

 【カイロ=金沢浩明】トルコ国軍は27日、ウェブサイト上で「トルコ内で世俗主義に反する悪の中心がある」との声明を発表した。イスラム色の強いギュル外相が28日に大統領に選出される公算が大きいのをにらみ、イスラム色が強まらないようけん制する狙い。世俗派の軍と政府の水面下のせめぎ合いが今後も続くのは確実になってきた。

 声明はビュユクアヌト軍参謀総長名で、「我々は悪の中心がトルコ共和国の世俗主義を組織的に弱めようとしていることを注視している」との内容。「軍は世俗主義を守り続ける」とも述べ、軍の介入の可能性を間接的な表現で示唆した。

 トルコの政教分離を守る立場を自任する軍は、今春にイスラム系の与党、公正発展党(AKP)がイスラム色の強い大統領候補を出すことを決めた際、軍事介入を示唆する声明を発表した。ただ、7月の総選挙でAKPが大勝し国会議席の過半数を占めた後は、軍は公式には態度を表明していなかった。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070828AT2M2800T28082007.html





●トルコ軍が「強い懸念」 イスラム系大統領選出で 2007/08/28 産経新聞

 トルコ軍のビュユクアヌト参謀総長は27日「邪悪な勢力がトルコ共和国の政教分離の本質をむしばもうとしている」などとする談話を発表した。28日の大統領選投票で、イスラム色が強い与党、公正発展党(AKP)のギュル外相の大統領選出が確実視されており「政教分離の守護者」を自任する軍が「強い懸念」を示した形だ。

 談話は30日の戦勝記念日に向けた体裁をとっているが、トルコ紙ヒュリエト電子版は、記念日前日に通常発表される参謀総長声明が「なぜ3日前に発表されるのか」と論評で指摘。「ギュル外相の大統領選出に向けたメッセージと受け取る以外にない」との見方を示した。(共同)
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070828/wld070828002.htm




●トルコに初の親イスラム大統領誕生 2007年08月28日 朝日新聞

 トルコ国会は28日、国会議員による大統領選の3回目の投票で、親イスラム与党・公正発展党(AKP)のギュル外相を選出した。4月の大統領選が無効とされて以来、与党が野党や軍など世俗主義勢力と対立してきた政治的混乱は、AKPが7月の総選挙での圧勝を背景に、政府と大統領職を占めることで終止符が打たれる。ただ、軍はなおAKPの「独走」を警戒。今後の安定は、イスラム色を薄めた同党が本格的な国民政党に脱皮できるかどうかがカギを握る。

 ギュル氏は339票を獲得。当選ラインはこの日の投票から定数550の過半数に引き下げられており、当選を決めた。

 民族主義者行動党(MHP)候補は70票、民主左派党(DSP)の候補は13票を獲得。最大野党・共和人民党(CHP)は過去2回に続き同日も投票をボイコットし、クルド系民主社会党(DTP)は白票を投じた。

 ギュル氏は同日夕に宣誓し、初代ケマル・アタチュルク氏以来第11代大統領に就任する。世俗主義が国是の近代トルコで、イスラム政党に所属した経歴の大統領が就任するのは初めて。エルドアン首相は保留中の新内閣の閣僚リストを29日にも新大統領に提示し、承認を得る考えを示した。

 同じギュル氏が候補だった4月の大統領選では全野党が投票をボイコット。出席が3分の2未満だったのを理由に憲法裁判所が無効とした。しかし、AKPは総選挙で46%を得票。今回はCHP以外の3野党がボイコット戦術をとらず、投票に参加した。CHPも圧倒的な民意を前に事実上動きがとれなかった。

 AKPは欧州連合(EU)加盟交渉開始を果たした実績や経済改革による発展継続を訴えたのに対し、CHPはAKPがイスラム主義政党の流れをくむことを根拠に「イスラム化の恐怖」を訴えることに終始。民意をくみ取れなかった指導部に支持者の不満も強い。

 AKPは7月の総選挙で公的な場所でのスカーフ着用の禁止解除を公約からはずすなど、国民の「イスラム主義」への懸念ふっしょくに努めた。

 しかし、世俗主義勢力の抵抗感はなお強い。総選挙後沈黙を保ってきた軍が27日、勝利記念日の参謀総長所感の中で、世俗主義堅持のため妥協を拒否することを強調したのもその表れ。AKPがかつて現セゼル大統領に拒否された姦通(かんつう)罪の刑罰化などイスラムに絡む問題に踏み込めば、再び緊張が高まるのは必至だ。
http://www.asahi.com/international/update/0828/TKY200708280436.html







●トルコのEU加盟を容認、仏大統領が方針修正 2007年08月27日 朝日新聞

 フランスのサルコジ大統領は27日、各国駐在の仏大使を集めた会合で外交方針について演説し、これまで反対を公言していたトルコの欧州連合(EU)加盟に向けた交渉を容認する姿勢を示した。

 大統領は、欧州のあり方を協議する賢人会議をEUに設置するよう提言。この場でEUの将来像を検討することを条件に「EUとトルコとの新たな交渉に反対しない。そのうえで加盟か、加盟以外の密接な連携かを選んだらいい」と述べた。

 サルコジ氏は「トルコは欧州でないから」と大統領就任前からEU加盟反対を明言。トルコを加盟候補国と位置づけるEUと仏の立場が異なる状態にあった。大統領は「意見を変えたわけではない」と弁明したものの、現実に合わせた修正と受け止められている。
http://www.asahi.com/international/update/0827/TKY200708270318.html



●Sarkozy in U-turn on Turkey's EU bid - Turkish Daily News Aug 28, 2007

トルコ政府はサルコジ大統領の発言を進展と受け止めている。特に、彼が「EUへの執着」に言及したことは会員資格を暗示すると考えられ、かつて彼が使った「特権的な友好関係」という排斥を意味する言葉とは対照的であることから、外交筋は歓迎している。
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=81991







●中東TODAY: No.686 トルコ大統領選挙の行方 投稿者: 佐々木良昭 日時: 2007年08月27日

 トルコの大統領に誰を選ぶかをめぐって過去数ヶ月、熱い戦いが展開されてきた。
 与党AKP(開発公正党)のギュル候補が、他を抜いて独走態勢にあったのだが、野党の反対があり、最初の議会での選出には成功しなかった。
 その後、議会での再選挙、憲法を変更しての国民による直接選挙など、大統領選出をめぐり、種々の考えが出されてきた。
 与党内部や与党支持の知識人の間からは、エルドアン首相が強硬なイメージを持ち、指導力に優れているのだから、大統領は形式的な存在だとし、場合によっては女性の大統領を擁立する案も出ていた。
 しかし、実際にはすでにギュル氏の擁立から、時間が経過していたこともあり、彼に対する国民の支持もあることから、ギュル氏がセゼル大統領の後継大統領になることは確実であろう。
 今週の火曜日に投票が行われる予定だが、保守系野党のMHPも、ギュル氏が大統領になることに、積極的な支援を送らないとしても、邪魔をするとは思われない。
MHPのメンバーのなかには、ギュル氏に投票する者も出てきそうな勢いだ。したがって、ギュル氏が大統領に選出されると予想するのが、現時点では確率が高いといえよう。
 そうなれば、現在の与党AKPから、大統領と首相が出ることになり、トルコの国家権力は与党に集中し、ますます力を発揮することになろう。同時にそれは、トルコ軍部の政治への影響力が、大幅に弱まるということでもあろう。そうなれば、トルコの経済は現在の右肩上がりを継続していくことが期待される。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/08/no_73.html







●中東TODAY: No.689 トルコ第11代ギュル大統領に軍は? 投稿者: 佐々木良昭 日時: 2007年08月28日

 トルコのセゼル大統領の後任として、第11代大統領選出をめぐり、いままでトルコ国内では賛否両論が飛び交った。結果的に大幅な遅れを示したが、当初の予想通り、与党AKP(開発公正党)のギュル外相が選出された。
 AKPがギュル外相を大統領に推した時点で、トルコの軍部はギュル外相の夫人がスカーフを着用していること、ギュル外相自身がイスラーム保守派であること、AKPがイスラーム保守党であることなどを理由に、トルコがケマル・アタチュルクの世俗主義路線から、イスラーム保守の国家に戻るとして、ギュル外相の大統領就任に反対してきた。
 トルコ軍の内部からは、ギュル外相の大統領就任が実際に決まるようであれば、クーデターも辞さないという立場を示す、ギュル外相の大統領への擁立に対する、強硬な反対意見がネットを通じて流されもした。
 トルコの野党、なかでも、CHPなど世俗路線を採る社会主義政党などは、ギュル外相の選出に反対し、議会での大統領選出討議にはボイコットも行ったし、イスタンブール、イズミール、アンカラなどでは、100万人集会も行った。しかし、冷静に見ていると、その参加者は全国から集められたものであり、一都市の住民が集まったものではない、人為的なものであることがわかった。
 今回のギュル大統領誕生という結果は、国会議員選挙でAKPが47パーセントも得票した後でもあり、ほぼ予測できるものであったといえよう。しかも、AKPに加え民族派のMHPも、相当ギュル大統領の誕生に貢献したようだ。つまり、今回の選挙結果は、大半のトルコ国民の意思であったといえよう。
 日本の一部の新聞には、この大統領選出の結果を受けて、トルコ軍がクーデターに向けて動くのではないか、という予測記事が出ているが、その可能性はきわめて低いのではないかと思われる。
 若手将校が決断して、彼らだけでことを行うのであれば別だが、軍のトップであるブユカヌト参謀総長は、既に汚職の証拠をエルドアン首相に握られており、クーデターを起こせる立場にはないという情報もある。
 大統領の権限には、軍のトップ人事を決定する権利もあることから、ブユカヌト参謀総長が留任したいのであれば、クーデターを起こすことはあるまい。また残留を希望せず、あくまでも世俗主義を守りたい、ということで行動を起こそうとすれば、トルコ軍は国民の支持を完全に失うことになろう。
 今回、トルコ軍のネットで流されたという「世俗主義を守る」という軍の立場は、ギュル大統領誕生に向けた軍の一部将校による、ささやかな抵抗ではなかったのか。国民は世俗主義も大事だが、多少イスラーム保守色があっても、確実に経済を改善してくれる政党を選択しようし、その期待が持てる人物を、大統領に選択するということではないのか。
http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2007/08/no_76.html






●2007年7月の総選挙での世俗主義の最大野党・共和人民党の得票率の分布




●2007年7月の総選挙で世俗主義の最大野党・共和人民党の得票率が一位になった五県の分布



●トルコの県区分地図







【私のコメント】
トルコで世俗主義の軍+最大野党・共和人民党と親イスラムの与党・公正発展党政権の間で対立が深まりつつある。公正発展党は大統領と首相の両方のポストを手に入れ、トルコの世俗主義勢力は大打撃を受けた。更に、このタイミングでフランスのサルコジ大統領が方針を修正してトルコのEU加盟交渉を容認すると発言している。EUはトルコのEU加盟に際して従来は世俗主義を求めていたと考えられ、サルコジ大統領の方針修正は世俗主義勢力にとって新たな打撃とも言える。

しかし、EUが現状のトルコの加盟を承認することは考えられない。トルコは余りに人口が多く、EUの平均と比較して余りに貧しい。それ故、トルコがEUに加盟するとEU加盟国は膨大な経済援助をトルコに対して実行せねばならず、それをEU加盟国の市民が認めることはあり得ない。経済的問題から見ても、トルコでEU加盟可能なのはイスタンブールやイズミルなどの富裕地域だけだろう。そして、その富裕な人々は世俗主義であり、肌の色の白い人々なのではないだろうか。

7月の総選挙での世俗主義政党・共和人民党の得票率分布は興味深い。イスタンブールより西側の3県とエーゲ海岸のイズミル県、ムーラ県の5県のみで共和人民党は得票一位になっている。一方、アナトリア半島の大部分では非常に低い得票率である。イスタンブールとアンカラでも得票率は比較的高いが一位になっていないのは、アナトリア半島の親イスラム住民の大都市への移住によるものと思われる。

以前からの予測の通り、私は近い将来にトルコで世俗主義とイスラム主義の間の内戦が起きると想像する。それは軍によるクーデターの形を取るかもしれない。そして、世俗主義住民の多いイスタンブール・イズミル両地区がトルコから分離し、アナトリア半島との間で大規模な住民交換が起きると想像する。それによって、EU加盟を許される富裕な肌の白い住民の住む小国が誕生することになるのだ。その小国は、共和人民党の得票率(約2割)から考えて、人口1400万人程度になるだろう。
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2 コメント

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敗戦国トルコ (ブルーコスモス)
2007-08-29 12:06:15
トルコを「脱イスラム・カリフ制廃止」させる事で「国際社会」に復帰させたのが、

共和国初代のケマル。第一次大戦の敗戦処理内閣だ。



まあ日本だと、

ケマル→吉田茂

世俗主義→護憲派‥なんて感じだね。
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Unknown (Aletheiajp)
2007-08-30 00:58:51
>以前からの予測の通り、私は近い将来にトルコで世俗主義とイスラム主義の間の内戦が起きると想像する。それは軍によるクーデターの形を取るかもしれない。そして、世俗主義住民の多いイスタンブール・イズミル両地区がトルコから分離し、アナトリア半島との間で大規模な住民交換が起きると想像する。それによって、EU加盟を許される富裕な肌の白い住民の住む小国が誕生することになるのだ。

→これはあり得るシナリオである思われる。
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