国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

クルド人問題・アルメニア人迫害問題・キプロス問題:トルコが抱える三つの時限爆弾

2007年10月21日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
●BBC NEWS | Middle East | Kurds 'will fight Turkish raids'  Friday, 19 October 2007
イラク北部のクルド人地域のMassoud Barzani大統領は、トルコ軍が侵入した場合には反撃すると表明。トルコに対し、自分達と交渉することを繰り返し要求した。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7052566.stm

●N. Iraq vows to resist - Turkish Daily News Oct 20, 2007
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86427





●Turkey fears claims - Turkish Daily News Oct 20, 2007
本国に召還されているNabi Şensoy駐米トルコ大使は10月18日、トルコ議会外交問題委員会で、「米国下院でのアルメニア人虐殺非難決議は、欧州の国々の議会での同様の決議を引き起こす危険がある。その場合、この問題が国連の場に持ち込まれ、補償問題と領土要求が続くことになる。トルコは米国下院での決議を回避するために強力なユダヤロビーの力を借りる必要がある。また、米国の世論は『トルコは数日たてば決議のことを忘れるだろう』と考えており、トルコはそのイメージを払拭する必要がある。下院が決議に取り組む前に何らかの対米制裁は絶対に必要だ。」と述べた。米国のゲイツ国防長官も10月18日に「米国下院でのアルメニア人虐殺非難決議案に関するトルコの姿勢は虚勢ではない。トルコは決議の結果、アルメニア人が賠償金や領土を要求することを恐れている。」と述べた。
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86465




●'Time is running out for solution' - Turkish Daily News Oct 20, 2007
北キプロス・トルコ共和国のMehmet Ali Talat大統領は、北キプロスの孤立が終わらない限り分断されたキプロスの再統合に前進はない、と述べた。ギリシャ系キプロス人はEU加盟を目指すトルコがキプロス問題で譲歩すると考えているがそれは不可能だと考える、トルコは北キプロスの孤立を解除することとキプロスを二つの平等な国家から成る連邦制国家にすることに執着している、と彼は述べた。また、ギリシャ系キプロス人とトルコ系キプロス人は共に生きることについて日に日に反対となっている、これは非常に危険なことであり、時間切れが迫っている、と警告した。
http://www.turkishdailynews.com.tr/article.php?enewsid=86390





【私のコメント】
トルコの英字紙 Turkish Daily Newsは10月20日に北イラクのクルド地域への越境攻撃問題、米国下院のアルメニア人虐殺非難決議案問題、北キプロス問題に関する三本の記事を載せている。この三つの問題ではトルコは非常に強硬であり、一切譲歩の姿勢を示していない。それどころか、米国に対しては制裁を検討している。イラク情勢混迷で弱体化したとは言え超大国である米国に制裁を行うとは夜郎自大も甚だしいのだが、トルコ政府は姿勢を変更するつもりはないようだ。トルコ国民も恐らく対米制裁に賛成していることだろう。

イラク北部のクルド人地域への越境攻撃問題でもトルコの姿勢には問題がある。トルコはイラク北部のクルド人自治地域を承認しておらず、バグダッドのイラク政府だけを相手に交渉している。しかし、バグダッドの中央政府がクルド人自治地域に行使できる影響力は限界があると考えられる。クルド人自治地域の大統領がトルコ軍が侵入したら反撃すると述べたことはTurkish Daily NewsとBBCが報道しており、情報の信頼性は高いだろう。トルコ軍の侵入は確実に、トルコ対クルド人の全面戦争を引き起こすのだ。それによって、従来はトルコの国内問題であったクルド人迫害問題は一挙に国際問題に格上げされてしまう。トルコにとっては本来決して有利とは言えない事態である。

北キプロス問題でも、北キプロス・トルコ共和国のMehmet Ali Talat大統領は非常に強硬であり、常にEU側、キプロス共和国側の譲歩を要求している。これはトルコ政府の意志の反映と見て間違いないだろう。しかし、トルコ側にはEU側を譲歩させるための交換条件が何もないのだ。トルコ側が強硬姿勢を貫けばEUは折れてくるという甘い考えは実際には成り立たないであろう事は賢明な人なら理解できると思うが、トルコ国内ではそれに気付く人は少ないか、いても気付かない振りをしているのだろう。そして、政府の強硬姿勢に国民は大喝采を送っているのだろう。米国下院でアルメニア人虐殺非難決議案の審議が延期されたことはトルコの強硬姿勢の勝利でありトルコ国民は「超大国米国でもトルコが脅迫すれば譲歩するのだから、EUにも強硬姿勢を貫けばきっと譲歩してくるだろう」と考えているのかもしれない。

私は、トルコ外交に見られるこれらの強硬姿勢はトルコを破滅的大戦争に突入させ滅亡させることになると想像する。そして、自国を滅亡させることで北キプロスのトルコ系住民・イスラム原理主義的で所得の低いアナトリア高原のトルコ人・所得の低いトルコ東部のクルド人などの不良資産を一挙に切り捨てて、世俗主義的で所得の高いイスタンブール地区やイズミル地区に住む支配階層だけから成る小国を成立させることをトルコ政府は狙っており、その為にマスコミを通じて対外強硬論を国民に植え付けているのではないかと想像する。この事態は、事大主義的で集団の利益のために自己犠牲を払うという精神のない朝鮮人や、国際金融資本の支配に迎合するばかりの漢民族といった大東亜共栄圏の不良資産を敗戦によって一挙に切り捨てて日本人だけから成る国家を作るためにマスコミを通じて対米・対中強硬論を国民に植え付けた(と私は想像している)第二次大戦直前の日本とそっくりである。「強硬姿勢をとれば米国は譲歩する」と主張した当時の松岡外相と、「強硬姿勢をとればEUは譲歩する」というMehmet Ali Talat大統領の主張(北キプロスがトルコの傀儡国家であることを考えると、トルコの主張とも言える)はあまりに似通っている。また、イラク北部クルド人国家の存在を認めず、従って交渉相手としても認めないトルコ政府の姿勢は、1938年1月16日に「爾後国民政府ヲ対手トセズ」と宣言して日中戦争での交渉相手を失うことになった第1次近衛文麿内閣の再現である。そして、第二次大戦での日本の悲惨な敗北と、近未来のトルコが被る破滅的敗北もまた似通ったものになるだろうと私は想像する。日中戦争が英国から米国への世界覇権の移動時期に当たっていたのと同様に現在は米国からEUへの世界覇権の移動時期であることも類似点であろう。
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4 コメント

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エルドアンは「ご乱心 (Aletheiajp)
2007-10-22 00:02:35
>米国に対しては制裁を検討している。イラク情勢混迷で弱体化したとは言え超大国である米国に制裁を行うとは夜郎自大も甚だしいのだが
返信する
エルドアンは「ご乱心」か? (Aletheiajp)
2007-10-22 00:05:27
>米国に対しては制裁を検討している。イラク情勢混迷で弱体化したとは言え超大国である米国に制裁を行うとは夜郎自大も甚だしいのだが

→「怖い者無し」ですから、「対米制裁」を宣言し、
イラク戦争開戦直前のときと同様に、基地の使用を拒否するでしょう。

→NATOから脱退せざるを得なくなるか、除名されるでしょう。もう、共産主義ソ連が崩壊し、ロシアが脅威で無くなった今、冷戦時代に比べて、トルコの重要性は格段に低下しています。
返信する
PKKがトルコ軍と交戦、40人死亡 民間バスも襲撃 (Aletheiajp)
2007-10-22 00:12:47


http://www.asahi.com/international/update/1021/TKY200710210157.html

 バルザーニが、トルコが侵入した場合は応戦する、と言っています、米国は立場上バルザーニを支援せざるを得なくなりますから、トルコ対米国の対立は決定的になります。
→トルコ国内の世論は沸騰し、クルド問題でイラクへ越境攻撃・侵攻するのは時間の問題です。
→共和党の中にもアルメニア決議に賛同する者が出てくるでしょう。


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トルコ軍とクルド武装組織が交戦、44人死亡 (Aletheiajp)
2007-10-22 00:41:28
トルコ軍とクルド武装組織が交戦、44人死亡(産経新聞)
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 トルコ南東部のイラク国境に近いハッカリで21日、トルコ軍部隊と非合法武装組織クルド労働者党(PKK)との交戦があり、軍は兵士12人とPKKメンバー23人の計44人が死亡したと発表。民間テレビNTVは軍兵士16人が死亡したと報じた。過去数年で最大規模の交戦。

 PKK幹部はロイター通信に対し、複数の軍兵士を人質に取ったと語った。トルコ軍は人質の存在を確認していない。

 トルコ国会は17日、PKKが拠点を置くイラク北部への本格的越境軍事作戦の実施を承認したばかり。トルコの世論は軍に対する襲撃などを繰り返すPKKへの反発を強めており、情勢は緊迫している。

 AP通信によると、トルコ軍は交戦後、イラク北部との国境地帯を砲撃、死傷者はなかった。エルドアン首相は「われわれの怒りと憎しみは深い」と述べ、21日夜(日本時間22日未明)に緊急治安会議を招集すると表明した。

 交戦は、軍の車列が渡ろうとした橋が爆破されたのを機に始まった。

 同首相は19日、PKK対策で「イラク駐留米軍が行動を起こすと思う」と語り、11月5日に予定される訪米でブッシュ大統領とPKK問題を協議する意向を表明。トルコ国内では、それまでは越境作戦は行われないとの見方があるが、今回の交戦で、強硬な対応を求める世論の圧力が強まるのは必至だ。

 また、交戦後、現場付近を通行中のミニバスの近くで爆発があり、地元メディアによると14人が負傷した。(共同)
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