エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IV-12

2022-11-19 07:49:53 | 地獄の生活

通常ならばウィルキー氏をベッドから引きずり出すことは至難の業なのだが、召使が発した名前の効果は奇跡に近いものがあった。彼はぴょんとベッドから飛び降りると急いで着替えをした。

「あの子爵が、こんな時間に、家まで訪ねてくるとは」と彼は呟いていた。「凄いことだ! ひょっとして決闘でもしようっていうのかな。で、俺に介添人になってくれとでも? こりゃいいぞ! それで俺の評判もちっとは上がるってもんだ。何にせよ、ただごとじゃないことは確かだ……」

彼がこのように推論するのに大した洞察力は必要なかった。ド・コラルト氏は深夜の二時か三時より前にベッドに入ることは決してなかったので、起きるのはいつも非常に遅かった。もし彼が通りで朝の九時前に青い箱馬車に乗ったその姿を見せるとすれば、それは無粋の最たるもので、何か深い理由があるに違いなかった。

彼の理由というのは確かに非常に深刻なものであった。数か月前、この目端の利く子爵はマダム・ダルジュレの秘密の一部を知るところとなり、彼はそのことを誰にも話していなかった。彼が口外しなかったのは思い遣りの心からでは全くなく、話しても彼には何の得にもならなかったからである。しかしド・シャルース氏の突然の死が状況を一変させた。彼がその悲劇を知ったのは翌日の夕方であり、大変衝撃を受けたのでバカラのゲームが始まったばかりであったが、それに参加することを断ったほどであった。

「なんてこった!」と彼は思っていた。「ちょっと考えてみよう……マダム・ダルジュレは相続人なわけだ。彼女は莫大な相続財産を受け取るために名乗りをあげるだろうか? 俺の知っている彼女の性格からすれば、その可能性はまずない。自分の素性を明かすことはしたがらない筈だ。ウィルキーに会いに行って、自分、マダム・ダルジュレがシャルースの一族であり、ウィルキーという私生児を生んだことを認めるなんて、あり得ない。そんなことをするくらいなら、自分のためにも息子のためにも、そんな財産は放棄するだろう。あの女は古くさい時代遅れの女だから!」

それから、彼の知り得た事実をどのように利用できるかと考え始めた。というのは、現在とても口に出せないような恥ずべき嘘の上に危うくバランスを取っているような生活をしている人間に共通したことなのだが、ド・コラルトという男は将来に大きな不安を持っていた。今のところは贅沢な上辺を保つのに必要な三万か四万フランを手に入れる技は持っていた。しかし蓄えは一文もなかった。そして金の出どころはいつ枯渇するかもしれなかった。11.19

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