エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IX-12

2023-10-11 15:46:49 | 地獄の生活
お前が死ぬまで後悔し続けるような罪から、今回免れられたのは神様の御加護だよ。お前の雇い主は今のところ善良な気持ちを持っているけれど、お前にそのマダム・ダルジュレの後をつけるよう命令したときは邪な気持ちだったんだ。気の毒なご婦人じゃないか! 息子さんのため、ご自分を犠牲になさってたんだよ。息子さんの目に触れないよう隠れておられたのに、お前はその方を裏切るようなまねをした! お気の毒に……どんな苦しみをお耐えになければならなかったか。それを思うとわたしは堪らないよ! 今のあの方の境遇、しかも自分の息子から軽蔑されるなんて! わたしは何の身分もない女だけれど、わたしなら恥ずかしくて死んでしまうよ……」
シュパンは窓ガラスを震わせるような大きな音を立てて洟をかんだ。気持ちが高ぶって涙が出そうになるとき、彼はいつもこうやって気持ちを抑えるのだ。
「おっ母さんは心のまっすぐな母親だから、そんな風に言うけど」とついに彼は叫んだ。「おっ母さんが立派な貴婦人でパリ一の金持ちだったとしても、俺は今のおっ母さんの方をずっと自慢に思うよ。だっておっ母さんほど心が綺麗で徳のある人は他にいないからさ……。だからもし俺が誰かを陥れるような悪さに片足を突っ込んだとしたら、もう片方の足を切って貰っていいさ。でも、今回だけは……」
「今回だけは行っていいよ、トト、わたしは何も心配していないから……」
彼は心も軽く、出ていった。そしてすぐに頭の中は託された任務だけになった。彼が着替えをしたのは単なる気まぐれではない。前夜、ブレバンの店で彼はつい軽はずみな行動を取ってしまったので、彼の顔はド・コラルト子爵の記憶にしっかりと刻み付けられた筈であった。調査を開始するに当たっては、出来る限り自分が嗅ぎ回っていることを知られないようにするのが肝要なのだ……。
とは言え、ダンジュー・サントノレ通りに到着するや、彼は果敢に調査を始めた。最初のうちはなかなかうまく行かなかった。すべての家でド・コラルト子爵を知らないか、と尋ねたのだが、答えはすべて否であった。
既にこの通りの半分に当たってみた後、大層綺麗な家の一軒の前まで来ると、花の鉢を一杯積んだ馬車が停まっていた。庭師が用いる車高の低くて平らな馬車だった。一人の老人が、シュパンにはこの家の門番に見えたのだが、赤いチョッキ姿の召使の一人と一緒に花の鉢を下ろし、馬車の通れる正門の下に一列に並べていた。馬車は空になると走り去っていった。すぐにシュパンは進み出て、老人の方に話しかけた。
「ド・コラルト子爵のお宅は?」と彼は尋ねた。
「それはここだが……あの方に何の用かね?」
この質問を予期していたシュパンは答えを用意していた。10.11
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