「ここだ、さぁ入って!」
ド・コラルト氏が、フォブール・サンドニに住む自分より良い暮らしをしているであろうとは思っていたシュパンであったが、この控えの間の豪華さは予想を遥かに上回るものだった。天井から吊るされた照灯器具は目を見張るようなものだったし、数脚の長椅子はフォルチュナ氏のソファと同じくらい立派なものだった。
「この悪党は小銭を掠め取るような悪事じゃ満足しないんだな……」とシュパンは思った。「スケールが違うってわけか……だが、こんな暮らしもそう長くは続かないぞ!」
仕事はすべての部屋の花の鉢を庭師が運んできた鉢と取り替えることだった。それからバルコニーの半分を占める非常にお洒落な小さな温室にも、そして絹の布を木枠に張りめぐらした綺麗な小部屋が喫煙室として使われていたが、そこにも運び込んだ。結局のところ、門番と下男はシュパンを監督し、あれこれと指示を出すだけで自分たちは作業をしなかったので、彼はすべての部屋に立ち入ることが出来た。貴重な装飾品で溢れかえったサロン、年代物のオーク材造りの食堂、まるで玉座のように壇に乗せられ一段高くなっているベッドの置いてあるキルティングだらけの寝室、贅沢な革装丁の本で埋め尽くされた大書棚のある書斎風の部屋、そういった部屋部屋をシュパンはうっとりと眺めた。すべてが美しく、豪華で素晴らしいものばかりだった。シュパンは讃嘆したが、羨ましいとも思わなかった。もし自分が正直なやり方でひと財産を手にすることがあったとしても、自分のアパルトマンはこれとは全く違ったものになるであろうと思っていた。自分ならばもっと素朴で、もっと男性的な物を置きたいと願うだろう。天鵞絨やサテン、絨毯や壁掛け、鏡やふわふわした詰め物はもっと少な目に……。しかし、このように感じていたからといって、部屋に入る度に新たに驚きの声を上げることを妨げはしなかった。彼は感嘆の気持ちをあどけなく表現する術を心得ていたので、下男はまるで自分が所有者ででもあるかのように一種の虚栄心をもって彼にあらゆる物を詳しく見せびらかした。
子爵が毎朝一時間もピストル射撃の練習をするとき用いる的を彼はシュパンに見せた。子爵はピストルが一流の腕前だったので、二十歩離れたところから十発中八発を瓶の細長い首に命中させることが出来るというのだ。また子爵が決闘に使う剣の数々も得意げに見せてくれた。彼はピストルと同じぐらいの剣の達人で、パリの武術の名人の一人から毎日一時間の稽古をつけて貰っているとのことであった。彼の決闘は従って常に上首尾に終わっているという。10.18
ド・コラルト氏が、フォブール・サンドニに住む自分より良い暮らしをしているであろうとは思っていたシュパンであったが、この控えの間の豪華さは予想を遥かに上回るものだった。天井から吊るされた照灯器具は目を見張るようなものだったし、数脚の長椅子はフォルチュナ氏のソファと同じくらい立派なものだった。
「この悪党は小銭を掠め取るような悪事じゃ満足しないんだな……」とシュパンは思った。「スケールが違うってわけか……だが、こんな暮らしもそう長くは続かないぞ!」
仕事はすべての部屋の花の鉢を庭師が運んできた鉢と取り替えることだった。それからバルコニーの半分を占める非常にお洒落な小さな温室にも、そして絹の布を木枠に張りめぐらした綺麗な小部屋が喫煙室として使われていたが、そこにも運び込んだ。結局のところ、門番と下男はシュパンを監督し、あれこれと指示を出すだけで自分たちは作業をしなかったので、彼はすべての部屋に立ち入ることが出来た。貴重な装飾品で溢れかえったサロン、年代物のオーク材造りの食堂、まるで玉座のように壇に乗せられ一段高くなっているベッドの置いてあるキルティングだらけの寝室、贅沢な革装丁の本で埋め尽くされた大書棚のある書斎風の部屋、そういった部屋部屋をシュパンはうっとりと眺めた。すべてが美しく、豪華で素晴らしいものばかりだった。シュパンは讃嘆したが、羨ましいとも思わなかった。もし自分が正直なやり方でひと財産を手にすることがあったとしても、自分のアパルトマンはこれとは全く違ったものになるであろうと思っていた。自分ならばもっと素朴で、もっと男性的な物を置きたいと願うだろう。天鵞絨やサテン、絨毯や壁掛け、鏡やふわふわした詰め物はもっと少な目に……。しかし、このように感じていたからといって、部屋に入る度に新たに驚きの声を上げることを妨げはしなかった。彼は感嘆の気持ちをあどけなく表現する術を心得ていたので、下男はまるで自分が所有者ででもあるかのように一種の虚栄心をもって彼にあらゆる物を詳しく見せびらかした。
子爵が毎朝一時間もピストル射撃の練習をするとき用いる的を彼はシュパンに見せた。子爵はピストルが一流の腕前だったので、二十歩離れたところから十発中八発を瓶の細長い首に命中させることが出来るというのだ。また子爵が決闘に使う剣の数々も得意げに見せてくれた。彼はピストルと同じぐらいの剣の達人で、パリの武術の名人の一人から毎日一時間の稽古をつけて貰っているとのことであった。彼の決闘は従って常に上首尾に終わっているという。10.18