「単なる疑いではなかったのだ」
「ああ、それは!」
「シャルース伯爵の小間使いのマダム・レオンから聞いた確かな話だ。この年寄り女は役に立つ情報を手に入れようと、私が送り込んだのだが、マルグリット嬢を密かに見張っているうち、彼女に宛てられた手紙を一通発見したというのだ……」
「はぁ、それはそれは……」
「いや、確かにマルグリット嬢が顔を赤らめねばならないようなことは書かれていなかった。その手紙は私が持っている。明確な証拠として。しかしその手紙には、彼女よって引き起こされた感情と思われるものが披歴されている。彼女もまた同じ感情を共有していると思われる。しかし……」
フォルチュナ氏の視線は次第にじっとしていることに耐えられなくなってきた。
「私の心配の理由がよくお分かりなのではないですか……」と彼は言った。
ヴァロルセイ侯爵は激怒し、勢いよく立ち上がったので、その拍子に肘掛け椅子が倒れた。
「いいか!違うのだ!」彼は叫んだ。「違うと言ったら違う! あんたは間違っている。なぜなら、現在、マルグリット嬢が心に思っている男は破滅させられているからだ。そういうことだ。我々がここに居る間、今のこの瞬間にも、その男は一巻の終わりを迎えている。徹底的に、容赦なく。その男と私が結婚したいと思っている女性、いや私が結婚しなければならない女性との間に、私は深い深い溝を掘っておいた。どんな愛情でも埋められないような深い溝を。一思いにその男を殺してしまうよりも、その方がもっと悪く、もっと良いのだ……。死んでしまえば、その男を思って泣くことになろう……。ところが、こうなれば、どんな女も、どれほど堕落した女でも、奴から顔を背ける。恋人も愛を誓うことはしなくなる」
物に動じないフォルチュナ氏も、心を乱された様子であった。
「そ、それでは、あなたは」と彼は口ごもった。「あの計画を実行に移したのですか……いつぞやあなたが興奮して口走っていたあの計画を……私は、単なる口から出まかせだと思っていました、ただの冗談だと」
侯爵はゆっくりと頭を下げた。
「そのとおりだ」
フォルチュナ氏は一瞬凍り付いたようになったが、突然叫んだ。
「何という!あんなことを、あなたはやったのですか……貴族たるあなたが!」
興奮に身を震わせながら、ヴァロルセイ侯爵は部屋の中を無茶苦茶に歩き回った。自分の形相を鏡で見たとしたら、自分で自分のことが怖くなったであろう。
「貴族か!」彼は怒りを抑えながら繰り返した。「貴族! きょうび人はその言葉しか知らんようだな。貴族とは何だ?フォルチュナ君、君はどういう意味だと思っている? ひょっとして、人生を重々しい足取りで歩く英雄的で愚かな人間か、気を滅入らせるような襞飾りの服に身を包み自分の主義の中におさまり、ヨブのように禁欲的で、殉教者のように運命を甘受する人間か、それともドン・キホーテのように融通のきかぬ美徳を説き、自らもそれを実践する輩か?