◎あらゆる功徳を備えた人は稀であり功徳の全くない者も稀である
サキャ・パンディタは、チベット密教の学匠。オーディンの箴言や、ベン・シラの知恵のように、人間関係、日常の行動指針に悩む人にとって大いに示唆するものがある。
ただしいわゆる冥想修行の進んだ修行者にとっては、どうすればニルヴァーナに到達できるかに関しての直接的な表現はほとんどないので、食い足りない印象はあるように思う。
だが、そうした優れた修行者であってすらも、人生経験は、まま足りないものであり、読んでおいて参考になることはあるのではないか。
翻って普通の人々にとっては、個別の悩み事、困り事、恋愛、病気、貧困、孤独、争いなどの相談について、目先のその場しのぎの回答ではなく、一生涯あるいはその先を見据えた回答が必ず出てくるので、心ある人は一度目を通しておいた方がよい本の一つだろう。例の時間のない世界から書かれた部分が多いのだ。
『210
役に立つなら敵でも師事し
友達でも害になるのは棄てる。
海の宝は金を払って買い
身体の痛みは薬で追い払う。
211
内で少し余裕ができると
外で威張った態度を取る。
水で満たされると
雲はたなびき雷鳴する。
212
あらゆる功徳を備えた人は稀であり
功徳の全くない者も稀である。
欠点と功徳の混ざった中で
功徳の方が多い人に賢者は師事する。
213
最初から敵か味方かは
定かではない。
食べ物も消化できなければ毒であり
毒も分かっていれば薬となる。
214
業の巡り合わせがよければ富み
業がなければ人は貧しい。
ガチョウは家には住まないが
湖には追い出しても戻ってくる。
215
賢者は払って知識を得るのに
愚者は知識を教えても捨てる。
普通は病んで薬を飲むのに
中には生きているのに自殺するのもいる。
216
自由はすべて楽しく
不自由はすべて苦しい。
どちらつかずは葛藤となり
約束は束縛のもととなる。
217
内にあらゆる功徳があっても
外観が悪ければ見下げられる。
コウモリは賢くても毛がないので
すべての鳥から捨てられた、と言われる。
218
気紛れな者は正直でも
自他ともにだめにする。
矢は相手を殺すか
それとも自身を折ってしまう。
219
雨と川は海に流れ
智恵と知識は賢者に集まる。
王は財宝と臣下を集め
森は暖かくて湿ったところに生える。』
(サキャ格言集/岩波文庫P96-99から引用)
※チベットでは、草木の生えない荒れ地が基本であり、森は少ない。