ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「頭上の敵機」Twelve O'clock High~アメリカの正義

2013-10-06 | 映画

グレゴリー・ペック主演「頭上の敵機」について昨日から連続でお話ししています。

思いっきりフランク・サベージ准将の心神喪失状態をネタにしてみましたが、
この原作の小説でサベージのモデルとなったフランク・A・アームストロング大佐も、
実際の作戦を行った「ジェネラル・エーカーのアマチュア」であるキャッスル准将も。
こんなことになったわけではなく(キャッスルはベルギーで戦死)、まったくの創作です。

918部隊の士気が上がり、戦果も上げて、「不幸がとりついた部隊」
という汚名を返上したところで、プリチャード少将はサベージ准将をもとの配置に戻そうとします。
しかし、部下の死は自分の指揮能力の不足ではないかと思い悩むサベージ准将はそれを拒みます。

「君が解任した男の名前はなんだ」
「何とは・・・キース(ダベンポート大佐)ですか?」
「彼の失敗とはなんだったんだ?
君は彼のように隊員のことを考えすぎていないか?」
「そう思われますか?」
「隊員と苦難を共にすれば情だって移る。彼らを保護してやりたくなる。
それにしても君の出撃回数が多すぎる」

そういう「オヤジ」の言葉に逆らってまたもや次のミッションに参加したサベージ。

この時の空戦シーンですが、すべて独米両軍の機から撮影されたものだそうで、
これらのフィルムを挿入するためにテクニカラーの出回っていた当時にもかかわらず
白黒フィルムで撮影されたといういきさつがあるそうです。



















最後の火を噴くフォッケウルフは凄いですね。
これを撮るためにカメラマンが同行していたのでしょうか。
生きて帰れるかどうかも分からないのに、カメラマンも凄い。


ところで、この部隊で使われていたB-17のような大型爆撃機にはどうやって乗るかご存知ですか?



ちょっとわかりにくい写真ですが、こうやって頭の上の高さにあるハッチのヘリに手をかけて、
逆上がりするように脚を蹴り上げて脚から入ります。
頭上の敵機ならぬ頭上のハッチ。

背の低い人や体の重い人、鈍くさい人は入ることもできなさそうです。



最初にサベージ准将が異常を気づいたのはこのハッチでのこと。
荷物を投げ入れるところから異変を感じたのですが、
さらに乗り込むときになって「あれ?体が持ち上がらない」



「むきーーー!」

どうしても腕に力が入らず手が震えてしまいます。

エリス中尉の診断は「心身症」。
何らかの身体的な疾患が、精神の持続的な緊張やストレスによって発生することです。

部屋の真ん中で真っ黒になって拳を握りしめているサベージを囲んで
皆「あんなに張り切ってたのに」「電球が消える前に明るくなるようなもんです」
などとひそひそ言い合います。

待ち時間の合間にダベンポート大佐は、

「第一目標はやった 成功だ」
「みんなお前のおかげで成長したんだ」

一生懸命語りかけるのですが、相変わらずのサベージ准将。
と、ダベンポートはいきなり気分を害し、

「なんだその態度は 聞く耳持たないんだな
自分一人で好きなだけ自分を責めてろ!」

と怒り出したりします。
いやだからその人病気なんですってば。


そして彼の部隊が帰還してきます。

「15機・・・・・16機・・・・・・・・
19機帰還です!成功ですよ!」

サベージはそれを聞くや急にまともになり、

「19機もいる・・・・・」

そして、傍らのベッドに身を横たえるなり深い眠りに落ちるのでした。

うーん。
それでも2機やられてるわけで、10人乗りのB‐17二機ってことは
総勢20人の若者が戦死したってことなんだが。



さて、今日はこのサベージ准将の攻撃隊が行ったアイラ・エーカー少将
「白昼攻撃」についてお話しします。


劇の最初のほうに、部隊の三人が「ホーホー卿」(Lord Haw-Haw)
の放送を聴くシーンがあります。

ホーホー卿とは、日米における「東京ローズ」のドイツ版で、
本名ウィリアムズ・ジョイスという、ドイツに帰化したイギリス人です。
ドイツから英米軍に向けて降伏を即し、威嚇し、また嘲笑する、という
プロパガンダ放送を、宣伝相ゲッベルスの元で行い、戦後には
英国を裏切った大逆罪で逮捕され、絞首刑になっています。

この放送でホーホー卿が言うには、 

「 ドイツ軍の潜水艦が在英米軍の偵察をしている。
それにしても無茶な白昼爆撃は誰の考えだね?
きっとイギリス軍からの悪知恵だろう。
かれらは自分でやらないで君たちにやらせる方が得だと思ってるからな。
損害は甚大だったみたいだね。

916部隊は爆撃機を今日5機も失った。そうだな?1グループで5機だ。
このままでは長持ちしないよ。
明日の出撃までによく考えてみたまえ。
キース・ダベンポート大佐よ。明日もまた同じことになるぞ」
それではいい夢を。
わたしの「さまよえる(miss guided)友人よ」 


前回お話ししたストーリーで、若いビショップ中尉はこういいます。

「死者も出ているのに白昼爆撃にこだわる意味があるのですか」

そして、総合作戦本部からの司令による作戦を説明するプリチャード将軍は
(このプリチャードのモデルは、アイラ・エーカー)
戦闘機の援護なしで敵地深くを爆撃するという作戦を

「もしこれに成功すれば、白昼攻撃の効果を証明できる

と説明しています。
この映画は「白昼攻撃」をやたらと強調しているんですね。

一般に白昼に攻撃を行うということは、それだけ迎え撃つ側にも視認しやすく、
待ち伏せして迎撃しやすいわけですが、エーカーが白昼にこだわったのは
ひとえに精密爆撃を成功させるためでした。

爆撃の目的は市民殺戮ではなく、工場と軍事施設の破壊なのですから。

科学的に戦争を遂行するのであれば、目標を破壊する以外の攻撃は
全く時間とお金と戦闘員の命の無駄としか言いようがありません。

よく言われるように、「非戦闘員を殺戮しない」ことを目的としていた
アメリカ軍は人道的だった、などという甘っちょろい理由などではなく、
あくまでもアメリカはこのころ合理性を重んじていたというだけのことです。

 「非戦闘員」と言いますが、そもそも工場で働いている工員たちは
全て非戦闘員なのですし、女性だっていたかもしれないんですからね。

しかし、これを以て「正義」を気取るアメリカは、我が海軍の重慶爆撃はもとより、
ナチスのゲルニカ爆撃、同盟国であるイギリスの無差別爆撃さえも、
表だって「非人道的」だと非難していました。

映画「メンフィス・ベル」でも、工場を爆撃するために行ったミッションで、
「隣に学校があるから」(ありえない!)決してそこには落とすなと言ったり、
さらには「なんでもいいから早く落として帰ろうぜ、どうせみんなナチなんだ」
と爆撃をせかすクルーを機長が叱りつけたりします。

戦争という非人間的な道義無き悪行の中でも、我々アメリカは正々堂々と攻撃を行い・・・、
という調子でこれらの「爆撃もの」は描かれているのです。

しかし参加したメンバーには悪いけど、アメリカって、そんないいもんじゃなかったでしょ?

だって、東京大空襲を昼間の精密攻撃で行おうとした司令官は首になって、
東京を「逃げ場をふさいでじゅうたん爆撃」したルメイに変えられてますし。
そして、ピンポイントでもれなくすべての非戦闘員、どころか自国の捕虜まで
面倒くさいから一緒に殺戮しちゃった国ですよ?

いったいどこにアメリカの「正義」はあったのかと。

アメリカに言わせれば、合理的だと思った白昼爆撃ではやはり自軍の損害が大きすぎる、
というのが、第一の理由でしょう。

ヨーロッパで「東京大空襲」に相当する市民殺戮は、なんといっても1945年2月の
ドレスデン爆撃です。 
さしたる軍事施設もない、美しい歴史的な街並みのこの住人は、
決してここが空襲を受けることなどないと思っていたといいます。

しかし、この英米軍合同で行われた爆撃は4度にわたる空襲で総数1300機の重爆撃機が
3900トンの爆弾をくまなく市街地にまき散らした例を見ない市民殺害で、
イギリス国内からすら批判の声が上がったというものでした。

そしてそのわずか1か月後、米軍単独による市民殺戮、東京空襲が行われます。
わざわざ日本家屋を想定して「火が付きやすい」焼夷弾を開発して臨み、
しかも、地形を研究して東京を取り囲むように周りから火をつけ、
市民の逃げ道を防ぐという鬼畜ぶりでした。

東京を燃やし尽くし、
そしてその5か月後、
人類史上最悪のジェノサイトである、原子爆弾投下によって、
完全にアメリカは「人道的良心」を失うことになるのです。



戦闘員である部下の一人一人の死に心を痛め、心身症になってまで
命の重圧と軍人としての責務を担った、「頭上の敵機」のサベージ少将。
あくまで精密爆撃にこだわったエーカー将軍や彼が、
自軍がやってのけたこれらの大量殺戮にどのような反応をするのか知りたいところです。

そしてこの映画について、もう一つだけ、我々日本人にとっては微妙な感慨を抱かせる
出演者の実在のモデルについてのトリビアをお教えしましょう。

当初からフランク・サベージ准将がその腕を信頼し、
飛行隊長としてサベージを支えたジョン・コッブ中佐には、実在のモデルがいます。

ポール・ティベッツ

1945年8月6日、広島に原子爆弾「リトルボーイ」を投下した「エノラ・ゲイ」の機長で、
アメリカ合衆国では戦争を終わらせた英雄として扱われています。
ティベッツは、終生自分が原子爆弾を落としたことについて軍人として当然のことをしたとして
後悔や謝罪の念を表明しませんでした。

しかし、元帝国海軍搭乗員坂井三郎が、原爆投下をどう思うか本人同席の場で聴かれ、

「もし彼を同じことを命じられたら、やはりそれに従っただろう。
なぜなら私もまた彼と同じ軍人だからだ。
原子爆弾の投下の責任を問われるのは軍人ではなく、大統領である」

と答えたとき、ティベッツはその言葉に涙を流したと伝えられます。


遺言によって彼の遺灰は海に撒かれました。
死後、自分を恨むものによって墓を荒らされたくない、というのがその理由でした。