三年前、観閲式を執り行ったのは菅直人でした。
言われるまで自分が自衛隊の最高指揮官であることを知らなかったそうです。
そんな人間が一国の軍隊である自衛隊を閲兵した、
歴史にも類を見ない観閲式について三年前記事にしました。
そのときの菅の訓示は、勿論代々そうであるように官僚の書いたもので、
「わが国周辺の安全保障環境は、ミサイルや核兵器の開発が懸念される北朝鮮、軍事力の
近代化を進め海洋における活動を活発化させている中国に見られるように厳しさを増している」
「自衛隊は多様な事態に実効的に対処し得る態勢を常に取っておく必要がある」
という至極真っ当で常識的な内容に終始したわけですが、わたしはこの政権のこの男の日頃の態度から、
おそらく直前まで観閲式で自分が訓示する内容については全くノータッチで、
「官僚の文章を渡されたから(ルビ付きで)読んだだけ」なのだと今でも思っています。
しかし、そんな仏つくって魂入れずの訓示に対して、中国政府が、尖閣事件の最中だったこともあり
「軍国化」を懸念している!
と中国のスポークスマンと化している日本の新聞が、親切にも解釈してこれを報道していました。
今回の観閲式、民主党から政権を取り戻し、憲法の改正に意欲を燃やす安倍総理が、
集団自衛権の問題で大きく意味を持つ「戦力」としての自衛隊員に対し、
どのような訓示を行うのか。
そして、それを各マスコミが、どう色をつけて報じるのか(笑)
菅直人の訓示すら「軍国化」として伝えるこの手法、安倍首相だと果たしてどうなるのか(笑)
わたしの興味は、報道でカットされない首相訓示をこの耳で聞くことにありました。
取りあえず、首相訓示の前の閲兵、じゃなくて巡閲を待つ隊員たち。
台の上の旗ふり係も待機。
空自女性部隊。
延々とお話ししてきましたが、今までは「観閲部隊の入場」。
つまり、まだ何も始まっていません。
まず、観閲官の臨場。
これが式次第の一番最初に行われるのです。
観閲官臨場に対し、旗を振る陸自部隊の旗手。
この旗はずっと掲げているだけでも結構な力が必要そうです。
女性自衛官ならこの旗手のような立派な体格をしていないと無理かも。
儀仗隊の入場。
観閲官に対し、栄誉礼を行います。
栄誉礼とは栄誉礼を受ける有資格者が自衛隊を訪問またはする場合行われ、
その後栄誉礼を受けるものは儀仗隊を巡閲するというしきたりです。
儀仗隊はこのような喇叭の奏楽とともに入場してきます。
わたしの席からは遠くてちょうど見えないところに(観閲官の右翼)いたので、
儀仗隊が何をしていたのか全く分かりませんでしたが、
栄誉礼とはすなわち「捧げ銃」を行うことがメインです。
栄誉礼を受けるときの観閲台。
肉眼では豆粒のようですが、写真を拡大するとちゃんと安倍首相、小野寺大臣、
そして後ろの団体の中に防衛大学校の校長である国文良成氏が認められます。
国分氏は中国情勢が専門の学者ですが、夏前あちらこちらで講演を行っていました。
この人物が一体どんなことを語るのか非常に興味があったのですが、
ついに聴く機会がないままでした。
そして続いては国旗掲揚。
来賓の各国軍人はほとんどが国旗掲揚の間敬礼をしています。
そして巡閲が始まりました。
観閲部隊の前を車の上に立ち、心臓をシルクハットで押さえたポーズで、まずは観閲部隊の前を閲兵。
自分が動く形で閲兵することを巡閲と言います。
観閲部隊は観閲官が前に来たときには前列の指揮官および旗手は敬礼、
後は頭を観閲官に向けて見送ります。
取りあえず一番向こうまで巡閲したら、今度は帰ってきます。
このとき、音楽隊は「巡閲の譜」を演奏し続けています。
その後、自衛官に導かれたマスコミの一群が、まさにぞろぞろといった感じで入場。
自衛官たちの背筋ののびた緊張の姿勢による行進を見た目には、
この一団は正直言ってかっこわるく、わたしの周りからは、明らかに彼らに対し
「揶揄」とか「嘲笑」といったニュアンスを含んだような忍び笑いが上がりました。
わたしの周りは前後左右、全て漏れ聴こえてくる会話から察するに、
多少なりとも関係のある人たちばかりでした。
たとえば前の中年女性たちは、いずれも息子が自衛官。
後ろのおじさんたちは、自衛官の知り合いに頼んでチケットをわざわざ譲ってもらった組。
(券をくれた自衛官にお礼をしてきた、というセリフあり)
斜め上の一団は、まさに海上自衛隊の観閲部隊に家族がいるらしい人々。
そんな人たちが、日頃からこの国のマスコミというものに対して
決して良い感情を持っていないであろうことは想像に難くないのですが、
この時の彼らに対する空気は、それに加えて
「安倍首相の訓示をいかに軍国主義への傾斜であるかのように報じて、
中国韓国に『御注進報道』をする気なんだ?」
という冷ややかなものであったという気がした、というのは穿っているでしょうか。
いよいよ観閲官の訓示が始まりました。
訓示を聞く通信科部隊。
高等看護学院学生隊。
航空自衛隊部隊。
海上自衛隊部隊。
さて、この日安倍総理の訓示をどのようにメディアは伝えたか。
まず、産經新聞です。
「力での現状変更許さぬ」 首相、観閲式で中国牽制
安倍晋三首相は27日、陸上自衛隊朝霞駐屯地で行われた自衛隊観閲式で訓示し、
力による現状変更は許さないとの確固たる国家意志を示すため、
警戒監視などさまざまな活動を行っていかねばならない」
と述べ、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺などで挑発を強める中国を牽制した。
同時に「防衛力は存在だけで抑止力となるといった従来の発想は捨て去らないといけない」
と強調。
「防衛体制を強化し、集団的自衛権や集団安全保障に関する事項も含め
安全保障の法的基盤の検討を進める。世界の平和と安定の確保は私たちの問題だ。
『積極的平和主義』こそわが国の21世紀の看板だ」と訴えた。
お次ぎは、共同通信。
首相「現状変更許さず」 自衛隊観閲式で中国けん制
安倍晋三首相は(略)「現状変更を許さないとのわが国の国家意思を示す。
そのために警戒監視や情報収集の活動を行っていかないといけない」と述べ、
沖縄県・尖閣諸島付近で海洋活動を活発化させる中国を強くけん制した。
同時に「防衛力は存在だけで抑止になるとの考えは捨て去ってもらいたい」と強調。
「集団的自衛権や集団安全保障の法的基盤の検討を進める」と語り、
安全保障政策を見直す姿勢を重ねて示した。
ふむ。
タイトルが全く同じ、ってどういうことですかね。
というか、内容がほとんど同じではないですか。
これ、皆で示し合わせているとしか思えないほど似ていますね。
もう一つ、日経新聞。
「集団的自衛権、集団安全保障の法的基盤の検討を進める。
国民のための自衛隊であり続けるための改革だ」と強調。
「力による現状変更は許さないという確固たる国家意思を示す」とも述べ、
沖縄県の尖閣諸島周辺での動きを活発化する中国をけん制した。
首相は「安全保障環境は厳しさを増している。
防衛力はその存在だけで抑止力になるという従来の発想は完全に捨て去ってもらわなければならない」
と指摘。そのうえで「戦略的に取り組むための見取り図が国家安全保障戦略だ。
厳しい現実を踏まえればこれ以上立ち止まっている余裕はない」と述べた。
これもほとんど同じですね。
ネットでは見ることの出来ない朝日新聞、毎日新聞もほぼ同じ。
「そりゃそうだろう、安倍総理はそのように訓示したのだろうから」
そう思われますか?
わたしは、この日初めて首相訓示をこの耳で聴き、改めて思いましたね。
「マスコミは、マスコミの報じたいことしか報じない」
確かに新聞記事に書かれた発言はありました。
しかし、「我が国を取り巻く状況」「世界の平和の危機的状況」は、
北朝鮮初め全般的に述べられ、決して中国だけを対象にしたものではありませんでした。
訓示は自衛隊員を頼もしく思うこと、その国防に対する気構えに
首相として心から期待しているといったような激励で始まりました。
「事に臨んでは危険を顧みず、身を以て責務の完遂に務め、
もって国民の負託に答える」
という自衛隊員服務の宣誓文からの引用を交えたその内容は、
「訓示という命令」
というよりは、すでにそのような気概で職務に当たっている自衛隊の、
隊員一人一人を労っているように思われました。
そして、最後に安倍首相はこの会場に多く訪れ、我が子の晴れ姿に
声援を送っている彼らの父、母、家族に呼びかけるような調子で、
任務を全うしようとしている自衛隊員一人一人に、彼らの身を案じ、安全を見守る、
その気持ちを最高指揮官として常に重く感じている、そして、彼らが
任務を遂行する事が出来るよう万全を期す事を約束する、と述べました。
安倍首相は、実はその前日の26日、市ヶ谷の防衛省で行われた
自衛隊員殉職者の慰霊祭に出席しています。
トラックの整備中にタイヤの破裂事故で亡くなった女性陸士長=当時(20)=ら、
新たに9柱(防衛医科大学校1柱、陸自5柱、海自3柱)の名簿が慰霊碑に奉納された。
殉職隊員は昭和26年度以降、今回を含めて計1840柱となった。(産經新聞)
総理は
「御霊の尊い犠牲を無にすることなく、そのご遺志を受け継ぎわが国の平和と独立を守り、
世界の平和と安定に貢献し、よりよい世界を作るため全力を尽くす」
とこのように追悼の辞を述べたそうです。
この両日の予定は、常に連続して行われるわけではありませんから、
追悼式に続いて観閲式に出席したのは勿論安倍首相に取っても偶然でしょう。
しかし、この日の新聞が報じなかった訓示の部分が、前日の慰霊祭における
殉職隊員への感謝とねぎらいに重なります。
勿論、どちらの文も官僚の作成によるものだとは思いますが、
菅直人のそれとは違い、この部分には特に安倍総理の意向が反映されていたはずです。
わたしは、もしこれだけに終始したら、マスコミはこの観閲式の「色付け」というか、
落としどころを失ってさぞかし慌てるだろうな、と、
あり得ない事ながらそうなったら面白いのになどと考えつつ聞いていました。
しかし、やっぱりそれだけではなく、さっそく最初に
「北朝鮮のミサイル始め我が国を取り巻く国際関係の厳しさ」
という文言が現れ、さらに
「座して平和は得られるものではない。
防衛さえしていれば即抑止力になるという考えは捨て去ってほしい」
と、いかにもマスコミの喜びそうな言葉もありました。
これすなわち、産經新聞しか報じなかったようですが、
「積極的平和で日本が世界の中心となる」
ということにつながるわけです。
わたしはこの足並みそろえたがごとき同じ文章の新聞記事を読んで、
マジで不思議なのですが(笑)、安倍首相が
「中国を牽制した」
というのはどの辺りのことを言うのでしょうか。
「積極的平和」が、たとえば「無人機を撃ち落とすというようなこと」
も含むとすれば、どんな抱負も今中国が積極的に尖閣を取りにきている限り
「牽制」と解釈できなくはありませんが、なんと言うか、
たとえ安倍首相が何を言ったとしても、マスコミは無理矢理こじつけて最初から
「中国を牽制」
と言うつもりだったのじゃないか?とつい突っ込みたくなります。
それからもう一つ。
そこにいる隊員たちの家族に向けて、
「自衛隊員の命に責任を持ち、先頭に立って進むつもりだ」
という内容であったことを報じたメディアは一つもなかったことは、
まあ、この国の所詮マスコミですから不思議だとは思いませんが、
安倍首相ははっきりと
「年末までに防衛大綱を見直します。
勿論過去の延長線上の見直しではありません」
と言ったんですよ?
これはすごいことを聞いたなあ、とわたしは思い、そこにいるメディアが
一斉にそのことを記事に書くのだと思っていたのですが、「今年中に」というのは
なぜか記事になってないんですよね。
あまり報道的には意味がないってこと?
それとも、これもあまり報道したくない範疇のこと?
いずれにせよ、あの訓示が「中国への牽制」一言でまとまってしまうとは
マスコミってどれだけ中国のことしか考えてないんだよ、って感じです。
これらをしてやはり「中国への御注進報道」とはあながち間違いではないと思いました。
さて、明日からはまた色々な話を並行させながらダラダラと参ります。
次回は自衛隊装備であるところの車両部隊の事などを・・・。