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女性パイロット列伝~ヴァレリー・アンドレ「マダム・ラ・ジェネラル」

2013-10-02 | 飛行家列伝

マージェリー・ブラウン MARGERY BROWN

「自由へと飛んだ女」


この夏訪れた航空博物館のうち「オークランド航空博物館」「ヒラー航空博物館」の二つが、
「女性パイロット」のコーナーを持っていました。
お届けしている写真はすべてそこで撮ったものです。

その中でも特に美しい容貌で目を惹いたのがこのマージェリー・ブラウン

彼女は歴史に大きな名を残しませんでしたが、当時は女性の飛行家の一人として
1930年代、非常に雄弁な「スポークスマン」の役割を果たした女性でした。

旅芸人であった彼女はそのエンターテイメント性と美貌を武器に(多分)発言の機会ごとに
空を飛ぶことは女性に自立と自信、そして自己独立を促すものだという自説を語りました。

「なぜ飛びたいか、ですって?

空と大地の間にいるときに、神様に近づけるように思えるからよ。

そこには壁があったら決して与えられない精神と心の平和と満足があるからよ。

飛行機が飛ぶのを見るとき、わたしはただすべてのものの上にアーチを描いてみるの。

流行だとかスリルとか、プライドのためじゃないわ。

女は自由を求めているのよ。空に。

彼女らは『女性らしさ』の呪縛から高く飛び立つんだわ。

飛ぶことは規制から本当の自由を手にすることなのよ」






ヴァレリー・アンドレ(Varerie Andre)1922~

「エンジェル・オブ・マーシー」(慈悲の天使)
「マダム・ラ・ジェネラル」

ヴァレリー・アンドレはフランス陸軍の軍医でありヘリコプターのパイロット。
先日ヒラー航空博物館のヘリコプターの説明で、
仏印戦争において最初に戦場からへりで脱出した人物、という紹介をしたアンドレですが、
女性男性関係なく、ヘリコプターを使って戦闘による負傷者を搬送した、
つまり史上初のドクターヘリ・ドクターでもあります。

そしてマダム・アンドレ(フランス人なのでやはりこうでなくてはね)は、女性として
初めてフランス陸軍で将官にまで昇進した人物で、あだ名は「ラ・ジェネラル」
「ラ」はフランス語の「女性冠詞」で、階級に「ラ」をかぶせてそれがあだ名になるくらい、
女性の将軍は珍しいということでもあります。

それにしても、神経外科医であり、陸軍の軍医であり、当時最先端のヘリパイロット。
しかもこの写真に覗う限り、実にエレガントな美人。

まさに天が二物も三物も与え給うた稀有な女性であったわけですね。

マダム・アンドレは1981年、それまでの将官から医学監察官に昇進します。
この「監察官」というのは日本にもある制度で、Inspecter general、略してIGといい、
官庁など内部の観察を要する機関に対して置かれ監督を担当する職名です。

ちなみに我が国自衛隊におけるそれは
監理監察官といい、
たとえば陸自と海自におけるその役職には将補が務める「幕僚監部」があり、
空自はどういうわけか陸海とは違って監理監察官という冠称がつきます。


陸軍軍医大尉としてインドシナ戦線に赴いたアンドレは、そこで、
ジャングルに閉じ込められた負傷者の回収の難しさを目の当たりにします。
そこで、彼女はヘリコプターを自らが操縦して彼らを収容することを考えました。

いったんフランスに帰ってヘリコプターの操縦を学んだ彼女は、そのまま単身
インドシナに自分の操縦で戻ってきます。

そして1952年から3年の一年間に、彼女は129回のミッションによってヘリをジャングルに飛ばし、
165名もの将兵救助を行いました。
緊急の手術を要する負傷者のために、彼女は二回、パラシュート降下をしています。

ジャングルに向けて単身パラシュート降下を決行するだけでなく、
その直後負傷者を救うための緊急手術を行う。
この勇気ある軍医はしかも若い(当時アンドレは30歳)女性です。

たとえば彼女の典型的なミッションの一つはこのようなものでした。

1951年12月、Tu Buで起こった戦闘の犠牲者たちは、
一刻も早くブラックリバーのから脱出を必要としていました。

たった一つ使用可能なヘリは、解体されていて組立て直さねばなりませんでした。
当時大尉だったアンドレは、濃い霧と対空砲火にもかかわらずそのヘリに乗ってTu Buに飛び、
たった一人でトリアージと応急手当てを行い、緊急を要する患者の手術と、
負傷者をハノイまで連れ帰るということを二回にわたってやってのけています。


1960年になるとアンドレは、1954年から勃発していたアルジェの独立戦争に、
軍医司令として参加することになります。

このアルジェリア戦争アルジェリアの内戦であると同時に、
アルジェリア地域内でフランス本国と同等の権利を与えられていたコロンと呼ばれるヨーロッパ系入植者と、
対照的に抑圧されていた先住民族
(indigene,アンディジェーヌ)との民族紛争であり、
親仏派と反仏派の先住民同士の紛争であり、
かつフランス軍部とパリ中央政府との内戦でもありました。

まあ要するにアルジェリアを舞台にあっちこっちの戦争となっていたわけです。
が、植民地として支配する側とされる側にこのような紛争が起きない方が不自然なのであって、
それというのも日本という国が白人優位の世界秩序にくさびを打ち込んだ戦争が終わっても、
「戦勝国」(笑)として相変わらずあちらこちらに植民地を持ち続けていたフランスという国は、
この戦争でかなり手痛いしっぺ返しをくらったという面があるのではないでしょうか。


ところで余談ですが、「国連」の正式英語名称をご存知でしょうか。

United Nations Security Councilですね?

この「ユナイテッド・ネイションズ」、日本では「国連」と訳していますが、
実はなんのことはない、「連合国」なんですよ。
第二次世界大戦における日本、ドイツ、イタリアの「枢軸国」に相対する「連合国」が、
「戦勝者グループ」として常任理事国に収まっている「安全保障委員会」。

つまり、第二次大戦の終戦処理の際に打ち立てられた世界秩序に基づいて
この国連というのは組織されているのです。

ですからよく言われますが、日本は世界で二番目に多い拠出金を
唯々諾々と払わされているのにいまだに「敵国条項」から外されていません。
ドイツもです。
今や世界でも常に「いい影響を与える国」のトップを競り合っているこの元枢軸国が
(枢軸国にもう一か国あったような気がしますが、それは置いておいて)
国連的には「敵国」なんですね~。

そして別に勝ったわけでもない中国が、常任理事国という不可思議な地位を得ているのも、
つまりは東京裁判で日本を裁いた側だったからなのです。

フランスが、親独政権のおかげでドイツに占領されるがままで、
「フランス軍って何やってたの?そもそもいたの?」みたいな状態だったのに
現在国連常任理事国であるのもまったくこれと同じ。
つまり「連合国側」にいて、やはり報復裁判で両国を罰した側だったからです。

ついでに言うと、常任理事国にロシアなんちゅう国が入っているのも、
日ソ不可侵条約をガン無視して、火事場泥棒のようにぎりぎりになって参戦してきて、
これも「戦勝国」の立場で東京裁判をしたからなんですね~。


まったく、ふざけんなよ(怒) 


・・・・・・・・・・・・・・・。

えー。

話をアルジェリア紛争のドクターヘリに戻します。
この戦争中にアンドレは通算365回目、飛行時間320時間のミッションを果たします。

そして、その功績を称えられて7つもの「クロワ・ド・ゲール(戦争の十字架)」勲章を与えられました。



傷ついた兵士たちの目には、天から降下してくるこの女性が「天使」に見えたに違いありません。
そして、フランス軍の将兵から、彼女は「慈悲の天使」というあだ名で呼ばれることになります。



ここに語った二人の「飛ぶ女性」には、時代の違いだけでなく大きな違いがあります。
マージョリーの時代、女性は「飛ぶこと」そのものが自由への逃避でもありました。
「なぜ飛ぶか」
ということに女性の人権解放の意味すら重ね、まさに飛ぶことが「目的」であったわけです。

しかし、それから30年の間に、航空機のあり方も、女性の地位も大きく変わりました。

少なくともマダム・アンドレのように優秀であったり、並みの男性より巧みに戦闘機を駆り、
「エース」と呼ばれたソ連空軍のリディア・リトヴァク中尉のような女性パイロットすら出現しています。

「何のために飛ぶのか」

マージェリーがスポークスマンとなって熱く語った「飛ぶ理由」は、マダム・アンドレにとっても
リディア・リトヴァクにとっても考える必要もないことだったに違いありません。

彼女らにとってすでに「飛ぶこと」は目的ではなく、単なる「手段」となっていたからです。


並み居る女性パイロットのなかでもこのヴァレリー・アンドレは、その飛行によって
医師である自分の価値を最大限に生かしたという点で、最もその業績を称えられており、
フランスでは最高殊勲賞であるレジオン・ド・ヌール勲章を持つ8人の女性の一人です。
彼女は2013年8月現在、91歳でまだ健在だそうです。



ところで、これが本題みたいになってしまいますが、国連の常任理事国についてもうひとこと。

現在常任理事国入りを希望している国は、4か国。
日本、ドイツ、インド、ブラジルです。

この4か国の常任理事国入りに反対しているのは、
いずれも

その国の周辺諸国

なのだそうです。
立場上、「4か国全部反対!」とは言っていますが、実は、

日本には中国と韓国、
ドイツにはオランダ、スペイン、ポーランド、チェコ、オーストリア、イスラエル、
インドにはパキスタン、
ブラジルにはアルゼンチン、コロンビア、メキシコ

が反対しているんですね。
隣同士のと仲のいい国はない、とよく言われますが、まさにそれを表していて、
なかなか面白い結果ですね。 

それにしても、韓国は何かというと日本に「ドイツを見習え」と言ってきますが、
これ、ドイツの周辺諸国やイスラエルにしたら噴飯もの(本来の意味の)なんだろうな。