映画「ハワイ・マレー沖海戦」、いよいよ最終回、
マレー沖海戦部分についてです。
真珠湾攻撃とマレー沖海戦を作戦的に見ると、真珠湾でアメリカと開戦し、
その翌日、連合国である英艦隊のフネを沈めたということになります。
真珠湾を受けて翌日の仏印基地。
シンガポールを出た敵主力艦を日本の潜水艦が発見したという報を受け、
索敵に立つ我が海軍攻撃隊。
ざっざっと土を踏みしめる搭乗員たち。
ここは全くセリフも音楽もなく進行しますが、
却ってそれが緊迫感を盛り上げます。
エンジンをかける九六式陸上攻撃機。
腕を後ろに回して見ている整備員たちが実に本物っぽい。
この司令部は、実物大のセットであろうと思われます。
帽振れのあと飛び立つ96式。
実機を6機登場させ、全ての離陸シーンを収めています。
ところで、この映画の前半に主要人物として登場していたのは、
真珠湾攻撃に艦攻のパイロットとして参加した友田義一、そして、
彼が海軍に入るきっかけとなった同じ村の兵学校卒業士官である
立花忠明でした。
「もうお前とは会うこともないかもしれないが」
故郷で語り合ったときに立花はこのように友田に言いますが、
彼もまた奇しくも開戦のとき、マレー沖の開戦に臨むべく、
この96式陸攻の隊長としてここにあったのでした。
「センスイカン テキヲ ミウシナウ」
部下からのメモを受け取り眉を曇らす立花隊長。
友田役の伊東薫もそうですが、この忠明役の俳優、中村彰も、
飛行服でいる姿が最も凛々しく男前に見えます。
今公開中の「永遠の0」の評判は上々で「超ヒット」なのだとか。
空挺団の降下始めに行ったとき、後ろの若い女性二人が
「永遠の0、観た?」
「観た」
「どうやった?」
「よかったで・・岡田准一かっこよかった」
という会話をしていましたが、わたしは「図書館戦争」で主演した
この俳優さんの感じから、あの主人公宮部久蔵は適役だろうなと思っていました。
理由の一つは身長。
「図書館戦争」でもやたら「チビ」と言われていた岡田ですが、
当時の搭乗員が背が低いという傾向にあったことを考えると、
180センチくらいのイケメン俳優がやるよりずっとそれらしいのではないかと思われます。
いずれにせよ、この飛行服を着ると、どんな日本人俳優でも男っぷりがあがる。
背は低いがイケメンの岡田准一がこの衣装を着て格好よくない訳がない、
とまだ観ていませんがそのように思った次第です。
ちなみにこのシーンの陸攻内はセットが作られそこで撮影されています。
12月9日、この日は伊65潜水艦のZ部隊発見の報を受け、
潜水艦隊旗艦の軽巡洋艦「由良」などから艦載機が捜索を続けましたが、
見つけることはできませんでした。
このとき「由良」からの水上艇が索敵の際、未帰還となっています。
その夜の司令部。
「やっぱりシンガポールに引き返しているらしい。
あそこに逃げ込まれるとことだなあ」
「シンガポールならまだいいですが、
スラバヤ辺りに逃げ込まれたらもう手が出ません」
ちなみに「Z部隊」の陣容とは以下の通り。
- 戦艦:プリンス・オブ・ウェールズ
- 巡洋戦艦:レパルス
- 駆逐艦:エレクトラ、エクスプレス、テネドス、ヴァンパイア(オーストラリア籍)
明朝も出撃のために整備員が朝もまだ明けぬうちから
飛行機の整備をします。
このとき時間は3時半という設定。
待機する飛行隊の隊長たちに伊潜からの報告が。
「サイゴンから真南へ逃走中であります!」
「本当か!」
しかし、またすぐに「逃げられた」との報告。
シンガポールに向かい南下中、ということで、
つまり史実通りなかなかZ艦隊を補足することができなかったのですが、
ここでいきなりこの命令が下されます。
「敵主力艦隊を撃滅せよ」
え・・・・・?
うーん・・・・これは、つまりとりあえず行くだけ行って、
索敵機の報告受けながら攻撃してこいと、こういうことでしょうか。
しかもこのときの司令の命令というのが、
「敵がどこにいるのかわからないので帰ってこられないかもしれないが、
十分自重して適宜なる処置を取るように」
「自重して適宜なる処置」ってどういうことかしら。
さすがにこういう命令で
「生きて帰ることは諦めて任務を完遂せよ」
などとは、さすがの帝国海軍も言えないし、そこは空気読んで下さい、
というような言い回しですね。
索敵機は放射状に捜索網を張り、Z艦隊を探しました。
画像は索敵機三番機の谷本少尉。
この人、お猿さんを肩に乗せて「坊さん」と言われてた人です。
あのときの「おっさん臭い」様子と、この姿が全く一致せず、
わたしはコメント欄でこの俳優について知るまで同一人物だとは思っていませんでした。
谷本少尉はおっさんじゃなくて、しかも予備少尉。
士官たちから
「変わった奴ですよ。
坊主の大学に行っていたのに飛行機に夢中になって
大学に飛行機部を作ってしまったんだそうです」
などと言われていたことからも、まだ学生上がり、という設定だったのに。
ですからこの場面で初めて出て来たキャラだと最初は思っていました。
その後、こんなことがわかりました。
実際にマレー沖海戦で索敵三番機に乗って艦隊を発見したのは
帆足正音予備少尉です。
この帆足予備少尉の履歴というのが、
「浄土真宗光琳寺の住職の息子に生まれ、龍谷大学を卒業、
海軍予備航空団で教育を受け、卒業して僧籍を取り、航空予備学生に」
つまり、劇中の谷本少尉は帆足少尉をモデルにしたということです。
実は帆足少尉はこのマレー沖海戦のわずか三ヶ月後、
このときのほとんど同じクルーとともに台湾方面で消息を絶ち、戦死認定されています。
この映画が制作された頃、谷本少尉のモデルとなった帆足少尉は
すでにこの世にいなかったということです。
一時は帆足少尉のことは、教科書にも載っていたといいます。
映画製作時、スタッフと海軍はこの若くして戦死した(享年23歳)
マレー沖の殊勲者に特に餞としてこの配役をしたのだと思われます。
そしてここで流れ出すワーグナーの「ニーベルングの指輪」より「ワルキューレの騎行」。
映画の最初もワーグナー(ローエングリン前奏曲)で始まっています。
「ワルキューレ」の流れる中、鋭い目で索敵しながら操縦する
谷本予備少尉こと柳谷寛の演技が素晴らしい。
彼が操縦桿を握る機内には、窓にお守りの人形が揺れていて、
こんなシーンからもこの作品の細やかさを感じることができます。
こちらは、捜索機の「敵発見」を待たずに攻撃に出された陸攻。
義一のおさな馴染みである立花大尉が隊長を務める機です。
「索敵機から電報ないか?」
「ありません」
下手するとそのまま燃料切れで帰ってこられないかもしれないのに、
索敵機の報を待ちながら飛ばなくてはなりません。
このシーンはおそらく実機だと思うのですが、
それにしてもこれだけの96式をこのご時世にどうやって飛ばしたのか・・・。
もしかしたら、模型ですか?
敵の姿を追い求めながらも、時間は刻々と過ぎてゆき、
そして燃料もどんどんと減っていきます。
司令が言うところの「自重して適宜なる処置」を決定するときが来ました。
そのとき部下から「もう燃料が基地に帰る分しかない」と聴いた立花隊長は・・・
続きます。(最終回とかいいながら終わらなかった・・・)