2022年6月のブログです
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井伏鱒二さんの『徴用中のこと』(2005・中公文庫)を再読する。
井伏さんは直木賞作家であったが、1941年、太平洋戦争開戦直前に旧日本軍に徴用されて、マレー半島侵略軍の宣伝班として現地に赴く。
いやいやながらの徴用であろうが、当時は断わることなどできない情勢。
書く文章の大部分が軍に不採用になるような状態で、しかし、軍に過度に媚びることなく書き続ける。
軍事体制下における小説家のあり方の一つを見る。
やがて日本軍はシンガポールを占領、昭南市と改名して、占領政策を進める。
アジアの人たちを米英の支配から解放する、といううたい文句は、今のロシアと一緒だ。
そんな中で大事件が起きる。
日本軍によるシンガポールの華僑の大虐殺。
イギリス軍の発表で3万人、日本軍の発表でも6千人という虐殺。
軍隊による侵略ではこういうことが起こるのは必然のようだ。
南京大虐殺を否定する人たちがいるが、シンガポールの日本軍による虐殺事件を見ると、日本軍の侵略による虐殺事案は否定できないだろうし、表に出ない虐殺も数多くあったのだろうと思う。
これは、ロシアによるウクライナ侵略でも事情は同じであろう。
侵略戦争では、周りがみんな敵に見えて、敵の兵隊と一般人を見分ける余裕などないのだろうと想像する。
侵略する側の兵士もまた怖いのだ(と思う)。
そういう中で、国家の都合で戦争に駆り出される民衆は不幸だ。
戦争に訴えない、民主的な国家を作りあげる努力がいかに大切であるかを思い知らされる。
いろいろなことを考えさせられる貴重な一冊である。 (2022.6 記)
ここのところ、戦争関連の本を相次いで読んでいます。
井伏鱒二は、うっかりして、読んでいませんでした。
これから読んでいこうと思います。
ご紹介をどうもありがとうございました。
戦争関連の本を読んでいるのですね。
すごいです。
じーじは、一人の狂気による戦争よりも、国民全体が狂気になったような戦争が怖いような気がしています。
いずれにしても、奥が深い現象で、人間の業のようなものを感じます。