2018年のブログです
*
佐伯一麦さんの『空にみずうみ』(2018・中公文庫)を読みました。
読売新聞夕刊に2014年6月から2015年5月まで連載されたとのことで、震災4年目の日常生活がていねいに描かれます。
佐伯さんはじーじより五つ年下の仙台出身の作家さん。
じーじは、高校生の夫婦を描いた『ア・ルース・ボーイ』(1994・新潮文庫)を読んでファンになり、以来、寡作な佐伯さんの小説を時々、読んできました。
時々、というのは、小説の主人公が仕事のアスベストで健康を害し、生活に苦しみ、離婚を経験するという流れがじーじには少し辛くて、読めない時期もあり、小説の中で主人公が再婚をしたあたりから、少し穏やかな生活になって、その頃のお話から安心をして読めるようになったといういきさつがあるからです。
もちろん、本作でも、震災の影はいたるところにあって、決して安穏ではないのですが、主人公夫婦は周囲の友人たちと一緒に落ち着いた生活を送り、その落ち着きが読者のこころの落ち着きをも誘います。
庭の草花、虫たち、公園の木々、動物、猫や犬、そういったささいなものたちが人々とともに暮らしていることがわかります。
その「普通」さがとても平凡ゆえに、震災の経験を経ると、それらがとても貴重なものに思われてきます。
大きな事件は起きませんが、不思議とこころが落ち着く、良質な小説です。
とくに、人生のいろいろな経験を経てきたやや年配の人たちには頷けるところが多い小説だと思います。
そして、経験の中で見落としてきたかもしれない「普通」の良さ、大切さを再確認できるかもしれません。
いい小説が読めて、幸せだな、と思います。 (2018.8 記)
『空にみずうみ』が出ました時に拝読して以来ですが、佐伯一麦ファンの一人です。
何冊か遡って氏の小説に触れ、エッセイも好きで手元にあります。
こちらに寄せていただき、とても嬉しく共感しました。
沢木耕太郎の『246』、そして今日ご紹介の柴田よしきさんの作品は読んでみたいと思います。
自分の感じたことを披露するのはややはずかしいものですが、いろいろなご意見をいただけるのは、とても励みになります。
スペシャルでなくてもいいので、「普通」のおじいちゃんの感覚を大切にしていきたいなと思います。
長い間忘れていた大好きだった作家「佐伯一麦」
ぽつぽつと発表される作品は、同じようにつらくて暗い気持ちになった記憶があります。
思い出させてくれてありがとうございます。
あれからずいぶんの月日が経っていることを確かめるべく、早速読んでみるつもりです。
おっしゃるとおり、ぽつぽつと発表される作品が暗くて、切なかったですが、年を経てだんだんと穏やかで、しっかりしたものになってきた感じがします。
年を取ることもいいな、と思わせてくれるようです。
>庭の草花、虫たち、公園の木々、動物、猫や犬、そういったささいなものたちが人々とともに暮らしていることがわかります。
その「普通」さがとても平凡ゆえに、震災の経験を経ると、それらがとても貴重なものに思われてきます。
とても大切なことだと思いますので、私もぜひ読ませていただきたく思いました。ご紹介に感謝です。
何気なく書いた文章をほめていただくことは、とてもうれしいものです。
わたしもこんなコメントを書けるように努力したいと思いました。