ホセ・クーラというと、最近では、ヴェルディのオテロや、レオンカヴァッロの道化師のカニオなど、ドラマティックで激しい歌唱という印象がつよいかもしれません。
もちろん、オペラのなかのドラマ、人間の感情と生き様を表現できるアーティストとして、抜群の力量、独特の存在感があるのはいうまでもありません。
同時に、私にとっては、クーラの声自体の美しさ、歌唱の美しさが、年齢を重ね、声が重く変化しても、大きな魅力のひとつであり続けています。ドラマを表現するためには、「声を歪ませ、醜い音を出すことも厭わない」というクーラですが、その声の力と魅力は圧倒的だと思います。
今回は、ネットにアップされている音源から、クーラの声の美しさが際立つ、美しい歌声を紹介したいと思います。
●1999年ローマ サンタ・マリア・デリ・アンジェリ教会でのコンサート ~ ヴェルディ レクイエムよりテノール独唱「われ過ちたれば嘆き」
教会の荘厳な雰囲気のなかで響く、クーラの美しく、りりしい声。これは何度聴いても、本当に美しく、また高音にかけあがる部分がスリリングで、圧倒的です。(2000年としていましたが1999年でした。失礼しました。)
DVD『ホセ・クーラ/聖なるコンサート』に収録されていますので、興味をもたれた方はぜひ美しい録音でお聞きになってください。
Jose Cura "Ingemisco" 1999
●2007年ウィーン国立歌劇場 ~ グルベローヴァ、ガランチャとのベッリーニのノルマ
エディタ・グルベローヴァのノルマ、エリーナ・ガランチャのアダルジーザ、クーラのポリーネと、夢のようなキャストがそろった舞台。コンサート形式で行われました。
まずは、第1幕から、ガランチャとクーラの二重唱。端正なガランチャの歌唱、クーラの男性的でセクシーな声、魅力的な2人です。
Jose Cura, Elina Garancha Norma Act1 duo
ラストのグルベローヴァとクーラの二重唱と合唱。
Edita Gruberová, José Cura Norma last duo
●1997年ミラノスカラ座 ~ ポンキエッリのジョコンダから二重唱
少し若い時代にさかのぼりますが、クーラのスカラ座デビュー、ジョコンダのエンツォ役。第2幕のエンツォとラウラの二重唱を。
みずみずしく強靭な声、若い頃のクーラの声の魅力を伝える歌唱です。ラウラはルチアーナ・ディンティーノ。
Jose Cura Gioconda 1997 (very beautiful love duet)
●1996年ラヴェンナ ~ ムーティ指揮のカヴァレリア・ルスティカーナから「おお、ローラ」
クーラはまだ33歳頃、青年トゥリッドウの許されぬ恋、切々と歌いあげるクーラの歌がまた切ないです。
José Cura "O Lola ch'ai di latti la cammisa" Cavalleria Rusticana
●2009年ウィーン国立歌劇場 ~ カサロヴァ、キューマイヤーとのビゼーのカルメン
また年代は下って、比較的最近ですが、ウィーンで出演したカルメンから、まずは、第1幕、ミカエラとドン・ホセ(ジョゼ)の二重唱。
キューマイヤーの可憐な歌声、クーラとの二重唱が、本当に美しいです。
Genia Kuhmeier / Jose Cura Carmen act1 duo Micaela / Don José
第2幕、カルメンに会いに来たドン・ジョゼ、そして有名なアリア「花の歌」へ。
奔放で個性的なカサロヴァのカルメンとの掛け合いも魅力的ですし、後半の「花の歌」がまた聴きどころです。
Vesselina Kasarova, Jose Cura Carmen Act 2 Duo & "La fleur que tu m'avais jetée"
●2007年ジェノヴァ ~ プッチーニの妖精ヴィッリ
プッチーニのオペラ第1作ですが、本当に美しいメロディがいっぱいです。
ソプラノのチェドリンスとクーラ、ソリストと合唱、美しい声が合わさって、本当にきれいに響き合っています。
Jose Cura 2007 "Padre mio, benediteci!" Le Villi
もうひとつ、ヴィッリからの二重唱を。
Jose Cura Le Villi 2007 Duo
最後におまけ
●2003年 プラハのコンサート ~ ビートルズのイエスタディ(ギター弾き語り)
クーラは12歳からギターを練習し始めたそうですが、その動機は、ギターの上手な友人が女の子たちに人気だったから、だそうです。
ギターをつま弾きながら歌いだし、途中でオーケストラも伴奏に入ります。アンコールの定番でも。
José Cura in Prague - Yesterday
*********************************************************************************************************************
これまでに紹介したものもありますが、今回は、1996、97、2000、2003、2007、2009年と、クーラのキャリアを通して聴くような形でとりあげてみました。
美しい声、美しい歌というテーマでまとめてみましたが、生まれもっての美しい声という意味だけでなく、年を重ね、経験を重ねながら、誰もが経験するだろう年齢による声の変化、身体的な変化を受けとめながら、歌い手として、技術的にも芸術的にも努力し、発展、進化してきたのだと思います。
同時に、クーラのような魅力ある声は、そうたくさんあるとはいえないと思います。まだ50代半ば、演出や指揮も素晴らしいですが、もっともっと、歌いつづけてほしいです。