※2020年3月21日追加
大変残念なことになりました。欧州でも急速に拡大する感染症への対策のため、ウィーン国立歌劇場は、公演キャンセルを延長し、4月13日までとすることを公表しました。これによって、4月4日のクーラのサムソンのライブ放送もキャンセルになります。
※2020年3月10日追加
なんと、新型コロナウイルス対策のため、ウィーン国立歌劇場は3月末までの全公演をキャンセルという情報が入ってきました。オーストリア政府が屋内では100人以上のイベント中止を求めたことによるそうです。4月から再開されるのかどうか、4月4日のクーラのサムソンのライブ放送がどうなるのか、今後の推移によると思われますか、早く事態が改善されることを願うばかりです。
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ホセ・クーラが、来年2020年の3~4月、ウィーン国立歌劇場でサン=サーンスの「サムソンとデリラ」に出演することが、劇場の2019/20シーズンプログラム発表でわかりました。
クーラのウィーンへの出演は、2016年12月のプッチーニ「西部の娘」以来、3年半ぶりです。1996年にトスカのカヴァラドッシでハウスデビューしてから、20年間、ほぼ毎年のようにウィーン国立歌劇場に出演し、KS(宮廷歌手)の称号も得ています。
→ クーラのウィーンデビューから20年の歩みは以前の記事で紹介しています。
久しぶりのウィーン出演、サムソンはクーラの18番というべき役柄のひとつですが、手元の記録では、ウィーンでは、このサムソンに出演したことがないように思います。間違いかもしれませんが、もしそうなら、ウィーンでのロールデビューになります。クーラのサムソンのオペラ出演は、2018年5月のサンクトペテルブルク以来。トップの画像は、その時のコンサート形式の舞台中継からのものです。
そして本当に嬉しいことに、このサムソンもライブ・ストリーミングが予定されています!楽しみです。
≪日程・キャスト≫
Camille Saint-Saëns
SAMSON ET DALILA
CONDUCTOR Frédéric Chaslin
DIRECTOR Alexandra Liedtke
SET DESIGN Raimund Orfeo Voigt
COSTUMES Su Bühler
CHOREOGRAPHY Lukas Gaudernak
LIGHTING Gerrit Jurda
Dalila Anita Rachvelishvili
Samson José Cura
Oberpriester des Dagon Clemens Unterreiner
Abimélech Sorin Coliban
2020年3月29日、4月1日、4日、7日
- サムソン:ホセ・クーラ
- デリラ:アニタ・ラチヴェリシュヴィリ
- 指揮:フレデリック・シャスラン
アニタ・ラチヴェリシュヴィリは、黒海に面したジョージア出身34歳のメゾソプラノ。クーラとは、ベルリンのカルメンで共演したことがあります。指揮者のフレデリック・シャスラン氏はフランス出身、新国立劇場には何回も登場したことがあるようです。
このプロダクションは、昨年2018年、サムソンをロベルト・アラーニャ、デリラをエリーナ・ガランチャで初演されたようです。クーラとアラーニャ、ラチヴェリシュヴィリとガランチャとでは、個性も雰囲気も、正反対といっていいほど違い、観客の好みも分かれるところだと思います。パワーと迫力では圧倒的な、このクーラ、ラチヴェリシュヴィリの2人、どんな舞台になるでしょうか。
――ウィーン国立歌劇場2019/20シーズンプログラム(PDF)より。画像をクリックするとプログラム全体にリンクしています。
≪ライブストリーミングの予定≫
ライブ・ストリーミングは、2020年4月4日の公演です。事前に登録して1公演だと14ユーロのチケット購入が必要です。もちろんウィーンとは時差がありますが、あらかじめ自分の見やすい時間帯を指定して視聴できます。
私は、前回クーラのストリーミングがあった2016年の西部の娘の際に、初めて登録して視聴しましたが、スムーズに、比較的良い画質で観ることができました。
→ 2016年ウィーン「西部の娘」ライブ中継についてのブログ記事
→ 初めての方は、劇場のライブストリーミング説明ページを(日本語)
≪ホセ・クーラのサムソン≫
クーラは1996年にサムソンでロールデビューしていますが、その後、世界各地で歌うとともに、2010年にはドイツ・カールスルーエで、クーラが演出・舞台デザインを行い、主演したプロダクションを大きく成功させています。DVDにもなりました。
その作品に関して、クーラが作品解釈を語ったインタビューや動画などを以前の記事で紹介しています。
ーーいくつかクーラの言葉を
●セックスと権力、宗教の名による殺りく
セックスと権力との関係は、このオペラの心理的な構造だ。サムソンは全男性と同様に、本能に従い、動物のように行動する。これが全体を非常に普遍的にしている。彼がなんらかの内省を示す唯一の場所は、第3幕冒頭のアリアだけだ。
サムソンは内省するが、しかし回復した後、再び強くなる。そして彼は、自分が神の代理として行動していることを信じて、他の人々を殺す。この点において、世界は、残念ながら今日も何ら変わっていない。
●強欲さと富への渇望の象徴
演出にあたって、私は放棄された油田のキャンプに全体の舞台を置いた。現在は留置施設として使用されている。オイルは強欲さと富への渇望を示す。これらは現実に、民族間の紛争の背後にあるものだ。人々は特定せずに、単に2つの民族としてのみ示した。
●子どもたちに希望を
課題はメッセージをもたらすことだ。神の名による殺人――特定の宗教に関わりなく、野蛮な時代錯誤だ。
私は子どもたちに、愛と希望のメッセージを託す。紛争に関与する2つの民族の子どもたち。彼らは、民族や宗教に関係なく、一緒に遊び、そして友人を守る。
――サンクトペテルブルクのサムソン
2018年、コンサート形式ですが、サンクトペテルブルクでオリガ・ボロディナと出演したサムソンの舞台を。ありがたいことに劇場の公式チャンネルに全編がアップされています。現在も視聴可能です。
久しぶりのウィーン国立歌劇場への出演、そしてライブ・ストリーミング、とても楽しみです。
サンクトペテルブルクでクーラのサムソンを鑑賞した記事にも書きましたが、クーラの声は年々重くなっています。現在、56歳、このライブ放送の頃には57歳になっているわけですから、若い頃に比べれば、やはり体力も声のコンディションが変化していくのは当然だと思います。
しかしマリインスキー劇場で生のクーラのサムソンを鑑賞した実感としては、この物語において、神から授けられた巨大な力をもつサムソンの、そのカリスマ性、エネルギー、存在感を存分に表現できるのは、まさにクーラだ、と思います。コンサート形式だったにもかかわらず、クーラが登場しただけで舞台上の空気が一変したように感じました。
もちろん他にも、多くの歌手がサムソンを歌っていますし、より滑らかな歌唱、美しい歌唱、きれいな声という点では、他にたくさんの選択肢があるでしょう。しかし、サムソンのキャラクターを舞台上に再現し、その圧倒的なパワーとエネルギーを感じさせるという点では、クーラは過去も現在も、抜きんでた存在だと確信しています。
ぜひ多くの方がライブストリーミングをご視聴いただけるとありがたいです。また、もし現地でご鑑賞されましたら、ご感想など教えていただければうれしいです。キャンセルなく、良いコンディションを保ってくれることを願っています。