長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

ヒト型兵器はなぜ踊る ~第7使徒イスラフェル~ グレーのほうが乙です

2011年01月30日 22時30分21秒 | エヴァンゲリオン使徒大行進
《前回までのあらすじ》
第5使徒ラミエル以来、1ヶ月ぶりに日本に上陸した新たなる刺客・第7使徒イスラフェル。なんとヤツは、「分体」するという大技を持っていた。ビックリ!


 エヴァンゲリオン2号機のソニック・ブレードによって真っ二つにされたイスラフェルは、短時間のうちにオレンジとグレーの2体に増えて再生してしまいました。
 仕方なく初号機と2号機はバラバラになって使徒と戦う流れになったのですが、なんとイスラフェルには、さらに恐るべき性質が!
 その名も、「二身一体バックアップ再生機能」! なんかデジタル。

 この性質の具体的なズルッコさは、初戦での分体後の経過が丸ごとカットされてしまったアニメ版ではわかりづらいのですが、貞本義行によるマンガ版(単行本4巻)で詳細に描写されています。
 たとえば、2号機がイスラフェルの片方をもう一回ソニック・グレイブで斬り裂いたとしても、すぐに斬った部分がつながって再生してしまい、「使徒の弱点」であるはずのコア(核)をかち割っても、それもまたすぐに復元してしまうのです!
 「人間型」の使徒に共通している特徴なのか、サキエルとシャムシエル同様、イスラフェルもおなかのど真ん中に弱点であるはずのコアを誇らしげにつけています。弱点でてる! でてるよ!
 しかし、今回の場合はちと勝手がちがうんです。いくらコアを集中攻撃しても、イスラフェルは平気のへいざ! ピンピンして応戦してきます。な、なぜ?

甲「はい! 説明いたしますと、わたくしどもの身体は2体に分裂していながら、身体の情報をおたがいに共有しているのでございます。」
乙「したがいまして、それが弱点であるコアだったとしても、ダメージを受けた瞬間に、もう片方の無傷なバックアップ情報を受信して再生させてしまうというスグレものなのでございますよっ。」

 なんということだ……ということは、さしものエヴァンゲリオンが2体で闘っても、その攻撃法がバラバラになっている限り、イスラフェルには傷ひとつつけることができないということなのか!? ネルフ、ピンチ!

 結局、ネルフはそんなイスラフェルの秘密を解明することができず、戦闘開始後30分もたたない午前11時。2体のイスラフェルによって初号機と2号機が駿河湾からはるか遠くの地点に投げ飛ばされて機能停止におちいってしまい、ネルフは作戦指揮権を国連軍にゆずって撤退してしまいます。
「おっしゃあ、俺たちの出番がまわってきたぞ! 今度こそ、やったんでぇ!」
 と言ったか言わずか、第3使徒サキエル戦以来およそ2ヶ月ぶりに作戦のメインをしきることになった国連軍。間髪入れずに最新兵器「N2航空爆雷」の投下を決行します。

 「N2航空爆雷」とは? これは、サキエル戦のなかで山ひとつ吹き飛ばす勢いで炸裂し、サキエルを半日動けない状態にしたという国連軍の最終兵器「N2地雷」を、上空から大型戦闘機で地上に投下できる形にアレンジした最新兵器である。はっきり言って、国連軍の持っている兵器の中で使徒に通用するものは、これだけなのだ!!

 ズズ、ズドドォ~ン……

 盛大なキノコ雲をあげるN2航空爆雷。数分後、爆心地には炭のように真っ黒焦げになった2体のイスラフェルが。

甲「ゲホッゲホッ……な、なかなかの火加減でございましたわね。」
乙「今日のところはヤケドの治療に専念することにいたしますが……今に見ておれでございますよ。」

 N2兵器は、今回も使徒に通用した! またしても殲滅することはかなわなかったのですが、ネルフの分析によるとイスラフェルは全身の約28%を損傷、回復して動き出すまでには6日間かかるという予測が報告されました。
 やったぜ国連軍。前回のサキエルは半日だったのに、今回は6日間の足止めに成功だ! まぁ、代償として駿河湾がなくなっちゃったけど……
 サキエルにくらべてイスラフェルの回復速度が遅すぎるという点が気にかかるのですが、それはまぁ、N2航空爆雷がN2地雷にくらべて格段に強力なものになっていたからなのかもしれないし、2体に分裂したことでイスラフェルの回復能力が多少おちていたからなのかもしれない。
 いずれにしろ、イスラフェルは先ほどにあげた特異な再生能力を持っているわけなので、回復速度の差をもって「サキエルよりもイスラフェルの方が弱い」と判断してはいけないと思います。

 さて、イスラフェルの再侵攻までに6日の猶予ができたネルフ側。しかし、イスラフェルに投げ飛ばされて機能停止になった初号機と2号機も、修理完了までに6日かかるというギリギリスケジュール。
 ならば、他にこの貴重な6日間を使ってネルフにできることは?
 むろん、回復したイスラフェルは当然のように第3新東京市に侵攻してくるでしょうから、急ピッチでラミエルの遺骸をかたづけて市街地の迎撃体制を復旧させる必要があります。
 そしてもう一つ。映像などによる解析によってイスラフェルの「二身一体バックアップ再生機能」を理解したネルフ作戦本部は、2体に分裂したイスラフェルに対しては、2体のエヴァンゲリオンによるまったく同じタイミングで同じ部位を攻撃する共同作戦が有効であり、最終的には2つのコアに同時に致命的なダメージを与える「二点同時荷重攻撃」しか通用しないという結論に達します。

 そこで採用されたのが! 「62秒の楽曲にあわせて2体のエヴァンゲリオンが寸分たがわない振り付けで踊りながらイスラフェルを殲滅する」という作戦。正気か!?
 うーん……しかし、パイロットが1週間前に会ったばかりの、しかも性格の合いそうにない2人である以上、手っとり早く同じ振り付けをおぼえるという作戦がいちばんマシなのではあるのでしょうが。
 人類の命運が、華麗にステップを合わせながら舞い踊る2体の身長40メートルの巨人にかかっているとは! 頭がクラックラするようなステキな展開です。

 そんな流れから生まれるのが、「明るいロボットヒーローアニメ(ロボットじゃないけど)」の大傑作として記憶されるべき中期『新世紀エヴァンゲリオン』を象徴する名場面、初号機パイロットとドイツ娘の汗ひかるダンスレッスンなんですなぁ!
 今現在、『エヴァンゲリヲン新劇場版』3部作のうち『序』と『破』が公開されている時点では、TVアニメ版でのドイツ娘こと「惣流=アスカ=ラングレー」が大活躍するこの「エヴァンゲリオン中期」の明るくむちゃくちゃなノリは、なんとなくなかったことにされているような気がします。具体的には、TV版の第6~11使徒戦あたりがその「中期」にあたるんでしょうが、私はそれが哀しくてしょうがありません!
 もちろん『新劇場版』はおもしろいです。はっきり言って作品のクオリティは全ての面においてTV版とは比較にならないほどアップしているし、謎のばらまきがとっちらかり過ぎて収拾がつかなくなった(ように見えた)TV版に対して、見間違えるほどスマートな展開になった新劇場版は格段に観やすくなっています。

 でもさぁ、1990年代のフワフワした熱っぽさをそのまんま作品に投影している中期の雰囲気もいいんだよなぁ。あのまま、ドイツ娘が元気なままで進んでいたら、いったいどんな物語になっていたのだろうと時々夢想してしまいます。
 『新劇場版』で、どこからどう見ても「惣流さん」な彼女が「式波大尉」になっていたのは、まことに慧眼だと思います。別人だものねぇ、あの2人。惣流さんはあんなにオトナじゃないからねぇ!

 初号機パイロットとドイツ娘の涙ぐましい努力の日々は、ぜひともアニメでごらんになっていただきたいと思います。様々な表情を見せる『新世紀エヴァンゲリオン』の中でも、とびっきりハイで楽しい一面を目の当たりにすることができるはずです。
 ちなみ、のちに中期エピソードのほとんどをカットしてしまうという哀しい展開におよんでしまった貞本義行のマンガ版『新世紀エヴァンゲリオン』も、この「対イスラフェル戦」だけはアニメ版以上に力を入れて描写しており、特にこのダンスレッスンのくだりは、その並はずれた画力もあいまって、さまざまなレギュラーキャラが表情豊かに生き生きと活躍する素晴らしい物語になっています。マンガ版は、とにかく初号機パイロットの中学生男子が人が違ったようにしっかりした「自分」のある子になってるから、初号機パイロットとドイツ娘がしだいにその精神的距離を近づけていくあたりはもう感動的でねぇ……はずすことができない名場面です。

 さて! 無惨な敗戦を喫してしまってから6日後。ネルフの予測通りに回復したイスラフェルは侵攻を再開し、やはり予測通りに芦ノ湖の南を東に回ってから強羅温泉を通って北上し、第3新東京市にその姿をあらわします。

 イスラフェルが市街地に侵入したタイミングを見はからって、ネルフ本部から射出口をつうじて文字通り地上へとおどり出る初号機と2号機。前回は敗れた2体でしたが、今回は気合いの入り方がちがっていた!
「62秒で決着をつける!」
 62秒の曲に合わせて見事に息のあったアクションを展開する2体のエヴァンゲリオン。
 第3新東京市の迎撃体制もある程度は復活したようで、ミサイル攻撃や装甲シールドなどで2体を援護します。

甲「あらっ、見間違えるような的確な攻撃! やりますわね。」
乙「これはいけません。わたくしたちも本気を出さなければならないようですね!」

 対するイスラフェルも、目(らしい部分)からのビーム、手の先の鋭利なツメ、ちょっとだけ空を飛ぶなどの手段を駆使して反撃します。
 どことなくサキエルに似た攻撃をくり出してくるイスラフェルなのですが、やはりサキエル同様、N2兵器によるダメージからの回復後に攻撃力などの面で進化しているような様子がうかがえます。

 しかし、ピッタリと完璧な一心同体攻撃を続ける初号機と2号機にはついに勝てなかった。
 たまらず、甲乙の2体が合体して1体にもどってしまうイスラフェル。
「今だっ。てやぁーっ、」
 一瞬のスキをついて中空に跳び上がる初号機と2号機!

「ダブル・エヴァンゲリオン・キーィッック!!」
 ドゴぉ~ン!!
 きまった! イスラフェルのコアに同時にヒットする2体のキック。あまりの勢いに、イスラフェルは蹴られたまま市街地から近隣の山まで吹き飛ばされてしまいます。どんだけ~!?

「ぐバハぁア~ッ!! や、やられましたわ……ムラサキと赤のおふたり、これからも、そのコンビネーションを忘れずにお幸せに……」
 コアにヒビがはいった! ドッカ~ン。
 こうして、第7使徒イスラフェルは山ひとつを消すほどの大爆発とともに華々しく散っていったのでした。もうちょっとでネルフ本部に行けたのになぁ~。でも、グッジョブ!

 グッジョブと言うのならば、蹴りながらイスラフェルを、市街地に爆発の影響のない山あいまでもっていったエヴァンゲリオンパイロット両名もグッジョブです。
 というか、登場人物たちのセリフによると、どうやらイスラフェルが姿をあらわした翌日にその対策法を考案して、それにぴったりの楽曲と振り付けを用意したらしいネルフ本部がいちばんグッジョブですよ! だって、イスラフェルがビームをはなったりちょっと空を飛ぶってことも予測できてたってことでしょ? これは使徒側にとっては恐るべき脅威ですよ。
 ネルフ本部の頭脳ともいうべき、すべての作戦の案出とシミュレーションを一手に引き受けるスーパーコンピュータシステム「MAGI(マギ)」は、2010年に赤木ナオコ博士(物語に登場するリツコ博士の実母)が完成させたものなんですが……ナオコさん、天才すぎ。もしかしたら、あの楽曲を作曲したのも、MAGI? やりかねません。さすがは特務機関ネルフ。総司令の外見のあやしさはダテじゃありません。

 さきほどあげたように、マンガ版でも重要なエピソードとして取り上げられていた対イスラフェル戦だったのですが、残念ながら『新劇場版 破』ではみごとにカットされてしまっております……
 ま、「惣流さん」の登場しない『新劇場版』である以上、しかたのない処置なのでしょうが、要するに、『新世紀エヴァンゲリオン』の中期は惣流さんのあの性格とその成長がなくては成立し得ない物語になっていたんですなぁ。
 しみじみと、惣流さんと惣流さんのいた1990年代に想いをはせる「対イスラフェル戦」なのでした……いや、惣流さんがいたのは2015年だけどさ。


《ほんとに蛇足ながら》
 本来、イスラフェルはイスラム教で音楽をつかさどる天使の名前なので、アラブ語読みにしたがって「イスラフィール」と表記したいところだったのですが、一般的な呼称のとおりとしました。ひとりだけちがう語感なのもかわいそうですし。
 でも興味深いことなんですが、キリスト教の天使もイスラム教の天使も、上司はいっしょなのね! 天使にもカブッてる方がいて、ガブリエルがジブリールだったり。宗教はホントに深いわ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする