長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

トゥニファスセンチュリズスキツォイドぬらりひょん ~ぬらりひょんサーガ 第22回~

2011年11月12日 14時22分19秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 「原作テイスト重視」をうたったアニメ第4期『ゲゲゲの鬼太郎』に重要な悪役キャラとしてレギュラー出演したぬらりひょんは、それゆえに原作マンガの空気感とアニメオリジナルの設定との板ばさみに苦しむこととなってしまった。もともと原作マンガにはそんな「巨悪」なんて存在していないのだ!
 第4期での苦悩によって、原作をはるかにしのぐ勢いで1980年代のアニメ第3期発祥のイメージが世間に浸透しているということをはからずも思い知らされたぬらりひょんだったが、いつまでも過去の経歴をなぞっているようでは妖怪としての寿命もたかが知れたものになってしまう……
「よし、またいっちょやったるかい。」
 アニメ第4期も無事に終了し、人類が新しい世紀をむかえたころ。ぬらりひょんの再びの武者修行がはじまった!


 1968年に始まったアニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』は、現時点で最新の第5期にいたるまで日本アニメ界定番の人気シリーズとなっているのですが、各シリーズの放送期間のあいだには、だいたい10年ほどのブランクがあくようになっています。最初の第1期と2期とのあいだだけ約2年なのですが、これはスタッフもキャスティングもほぼ同じ地続きのつながりになっているため、多くのポイントがリニューアルされる他の3期と4期、4期と5期との関係とはちがったものになっています。
 ということは、1990年代に放送されたアニメ第4期の「次のシリーズ」は、おそらく10年後。21世紀に入って00年代のなかばに始まるであろう、ということは想像ができました。実際に高山鬼太郎の大活躍する第5期はそのあたりに放送されることとなったわけなのです。

 さぁ、それではその10年間をどう使っていくことにしようか。
 我らがぬらりひょん先生が選んだ道は、かつてアニメ第3期と4期とのあいだの10年におこなったものと同じものでした。

「とにかく、いろんな作品に顔を出す! そこから妖怪ぬらりひょんとしての新たな可能性をきりひらくんじゃ! レッツゲッツブランニュウトゥモウロウ。」

 さすがは総大将(ときどき)。新世紀に入っても、そのみずみずしいチャレンジ精神が衰えることはいささかもありませんでした。
 こういった決意とともに、あらたなアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』が始まるまでの00年代の前半~中盤、ぬらりひょんはさまざまなメディアに登場することとなったのです。


 まず最初の修練の場に選んだのは、なんと「ゲームの世界」! あったらし~。

『ゲゲゲの鬼太郎 異聞妖怪奇譚』(2003年12月発売 プレイステーション2専用ソフト)

 これは、「水木しげる生誕80周年記念企画」としてコナミから同時発売された3作の『ゲゲゲの鬼太郎』関連ゲームソフトのうちの1作です。

 ファミリーコンピュータが革命的に大流行した1980年代以降、大人気作『ゲゲゲの鬼太郎』を題材にしたゲームソフトは数多く製作されており、「人気マンガ」だからだけでなく「アニメのタイアップ商品」としても魅力的なものとなっていたゲーム版『ゲゲゲの鬼太郎』は、アニメ第3期にあわせたファミコンソフト版から第5期にあわせたWii ソフト版にいたるまで、さまざまなタイトルが販売されていました。
 そしてそのどれもが「当時放映されていたアニメ『鬼太郎』のタイアップ」という面が強かったわけなのですが、発売された時期に「アニメがやってなかった」2003年の3作は、アニメの制約にとらわれていない非常に珍しいものになっていたのです。私ははっきり言ってゲーム業界に関してはずぶずぶの素人なので(ブログのタイトルがこんなんなのに)よくわからないのですが、この2003年だけが「コナミ」の商品で、それに前後したすべての『鬼太郎』ゲームが「バンダイ」である、ということも、何かしら「タイアップ戦略」というものと関係があるのかもしれませんね。

 そんな不思議な位置にある2003年のコナミ版『ゲゲゲの鬼太郎』3作なのですが、他の2作は、アクションRPG の『ゲゲゲの鬼太郎 危機一髪!妖怪列島』(ゲームボーイアドバンス)と、アクションの『ゲゲゲの鬼太郎 逆襲!妖魔大血戦』(プレイステーション)となっています。
 3作あるのに、なぜPS2 の『異聞妖怪奇譚』だけをピックアップしたのかといいますと、このシミュレーションRPG 形式の『異聞妖怪奇譚』だけ、まるまる1本分のアニメ作品なみに豪華なキャスティングによるセリフが楽しめるからなのです!

 ゲームソフトのデータ容量が、ファミコン時代から劇的に拡大していったのは申すまでもなく、新世代ゲームソフトとして当時脚光を浴びていたPS2 のかたちで製作された『異聞妖怪奇譚』は、鬼太郎ファミリーとなみいる凶悪妖怪たちとが激突するといった筋書きで数多くのキャラクターが語るシーンがふんだんに用意されていました。人間の肉声を長時間、膨大に収録できるゲームソフトなんて、『いっき』のころには考えられなかったことよねぇ~。他の『危機一髪!妖怪列島』はかけ声のみで、『逆襲!妖魔大血戦』は純然たるアクションゲームのため声はありません。

 デザインをあわせるべきアニメ作品が無いということで、『異聞妖怪奇譚』のキャラクターは全面的に水木しげるの原作マンガ・イラストを利用しているものとなっています。
 ただし、内容的に鬼太郎にやる気がなければちっとも話が進まないものであるため、原作の見た目の鬼太郎がアニメ第3期なみのヒーローになっているという不思議な味わいがありますね。

 コナミ版の3作すべてが「鬼太郎サーガ」の歴代強敵キャラクター総出演の中、我らがぬらりひょん先生はといいますと、大ボスの1人として『異聞妖怪奇譚』と『危機一髪!妖怪列島』に登場しています。

 ちょっとこの、『異聞妖怪奇譚』のスゴすぎる声優キャスティングをご覧ください。


 ゲゲゲの鬼太郎……松本梨香(35歳)5代目の声優となる
 目玉の親父  ……熊倉一雄(76歳)初代&当時現役中の田の中勇より年上
 ねずみ男   ……野沢那智(65歳)のち2008年に『墓場鬼太郎』で再々登板した初代の大塚周夫に次ぐ年長
 猫娘      ……宮村優子(31歳)5代目の声優となる
 ぬらりひょん ……滝口順平(72歳)のち2010年に『ぬらりひょんの孫』で登板した大塚周夫に次ぐ年長
 ドラキュラ伯爵……大塚明夫(44歳)『ゲゲゲの鬼太郎』に出演したドラキュラ声優としては3代目
 バックベアード……小林清志(70歳)2007年にアニメ第5期で再登板した柴田秀勝にならぶ最年長
 吸血鬼エリート……八代駿 (70歳)同年の6月に逝去しているため、この作品が遺作となる


 スッゲ~!! こ、これでTVシリーズが観てみたかった。
 5代目の鬼太郎声優はコナンくんじゃなくて『ポケットモンスター』のサトシだったんだ。バケモンゲットだぜ!!

 総じて、「これがシリーズになったらギャラの問題で打ち切りになるんじゃないか」といらぬ心配をしてしまうほどの豪華さになっていることがおわかりかと思います。1回こっきりのゲームだからこそできるぜいたくですよね!
 また、基本的に「キャラクターの静止画に声をあてる」という形式となっているため、アニメのようにキャラの動きやカット割に制約されない、実力派声優のみなさんおのおのの「本来の語りの魅力」が堪能できるといった点でも素晴らしい作品になっているわけです。

 ぬらりひょん声優としては通算5代目となった滝口さんが、かつてアニメ第3期のオリジナル劇場版で衝撃の問題妖怪「チンポ」を演じていたことはすでに触れましたが、憎めないコミカルさを持ちつつも、ちょっと声を低くしただけでドスのきいた冷徹な悪人になることもできるという滝口さんの芸の幅は、まさしく「妖怪総大将ぬらりひょん」にふさわしいものだったのではないでしょうか。1回だけっていうのは、いかにも惜しかった! ドクロベーさま~。
 ちなみに、このゲームをプレイされた方はご存じかと思うのですが、ここでのぬらりひょんは多少「不本意な役回り」で登場しており、バトルアクションに向かないためか、朱の盤の姿は影も形もありません。終始アウェー感がぬぐえない仕事でしたなぁ~。


 さてさて、ゲームだからこそのTVシリーズを超えかねない豪華キャスティングが実現したコナミ版『ゲゲゲの鬼太郎』に出演を果たしたぬらりひょん先生でしたが、お次はそうとう久しぶりの「実写版」! しかも、『ゲゲゲの鬼太郎』の作品世界にまったく影響されない場所での出演とあいなりました。


実写特撮映画『妖怪大戦争』(監督・三池崇史)2005年8月公開

 これは「角川グループ60周年記念作品」と銘打たれた文字通りの大作映画! タイトルが同じ『ゲゲゲの鬼太郎』のエピソードや1968年公開の怪談映画とは直接の関係はないのですが、日本妖怪軍団と西洋からやって来た古代バビロニアの邪神ダイモンとの死闘を描いた1968年版の『妖怪大戦争』の興奮を現代に復活させようという企画当初の意気込みがひしひしと伝わってくるものとなりました。

 この映画は『ゲゲゲの鬼太郎』ワールドとは基本的に関係がなく、かつて1960年代末に起きた昭和の「第1次妖怪ブーム」にのって大映が製作した『妖怪3部作』から始まる「妖怪映画」の気風を受け継いだものとなっています。
 とはいえ、海外のホラー映画やスプラッタ映画に押された日本の妖怪映画は「恐くない」「古くさい」ということで衰微していき、1990年代後半以降に『リング』や『呪怨』の大ヒットによって巻き起こったいわゆる「Jホラーブーム」隆盛の時期に、特殊メイクアップアーティストとしても著名な映画監督の原口智生(ともお)が手がけた2000年の『さくや 妖怪伝』(主演・安藤希)や2004年の『跋扈妖怪伝 牙吉』(主演・原田龍二)といった意欲作はあったものの、制作費や公開規模の問題、それ以上に作り手と受け手とのあいだにあった「妖怪映画」観のズレ(ハード路線かファミリー路線か?)から、さほどのヒット作になることも残念ながらありませんでした。

 ところが、制作費13億円というとてつもない規模で作られた平成の『妖怪大戦争』は、いい意味でもよくない意味でもそういったジメジメした日本の妖怪映画のイメージを超越したものがあり、これはやっぱり当代きってのエンタメ監督・三池崇史の個性によるところが大きいのですが、老若男女が単純に楽しめるどこまでも「陽気」なお祭り作品になっているのです。

 この作品の大筋は、かつて日本列島にいたさまざまな先住民族を滅ぼして現在の繁栄を築いた日本国家の転覆・滅亡をはかる魔人・加藤保憲(演・豊川悦司43歳)がそうとう久しぶりに復活し、みずからの手勢となる機械妖怪を錬成するために日本全国の妖怪たちを拉致する加藤と、それに対抗して決起した妖怪軍団との大戦争が勃発するといったものになっています。主人公は、日本妖怪軍団に救世主「麒麟送子(きりんぞうし)」だと唐突に選ばれることになってしまったふつうの小学生・稲生タダシ(演・神木隆之介12歳)。

 魔人・加藤がラスボスという点から見てもおわかりのように、この作品の脚本プロデュース・ノベライズは『帝都物語』シリーズで有名な小説家・荒俣宏が手がけており、ご自身も京極夏彦、そして水木しげる御大とともに作品のクライマックスに特別出演しています。

 だがしかし!! あの旧帝国陸軍の軍服・マント姿で有名な魔人が復活!? と血沸き肉躍った全国の加藤ファンの期待にもかかわらず、21世紀に復活した加藤を演じたのはなぜかおしゃれな黒コート姿のトレンディなトヨエツさん。
 なぜ!? なぜ嶋田久作さんじゃないの? 嶋田さんだって加藤の役ができないほど老けちゃったわけじゃないでしょ! 嶋田さんは2005年当時で50歳。外見だって若々しいし、『妖怪大戦争』の劇中でも加藤が激しいアクションを演じるシーンはそれほどありませんでした。

 当時は私も「なんで嶋田さんじゃねぇんだよ!?」と思いながら映画館に向かったし、映画館を出てからも「なんで嶋田さんじゃなかったんだよ……」とぷりぷりしていたのですが。

 でもね、今となってよくよく考えてみると、ここが三池監督の『妖怪大戦争』を端的に象徴している采配なんですよねぇ。
 もちろん、嶋田さんがオファーを断ったという可能性もありますが、三池監督の作品に「ガチの」加藤保憲が出ちゃいけなかったんですよ。

 要するに、『妖怪大戦争』はどこまでも「お祭り」じゃなきゃいけなかったんです。
 12歳という、明日には声が変わって大人になっていそうな微妙で繊細な時期の神木くんを主人公に設定してフィルムにおさめることもそうだし、近藤正臣に菅原文太に竹中直人に阿部サダヲ、お笑いからは宮迫博之に岡村隆史といったにぎやかなキャストが一堂に会するといったあたりもまさにお祭り。
 私が観るかぎり、「このタイミングでやらなきゃもうやれない!」といった瞬間をおさえることに生き甲斐を見いだしていると思われる三池監督の作品である以上、『妖怪大戦争』は「日本妖怪史上のナントカ」とか「特撮映画史上のナントカ」という歴史年表におさめられるようなふつうの映画じゃなくなっているのでした。

 いろいろ言いたいことはあるのですが、乱暴にまとめてしまえば、

「三池映画は何回あけてもおもしろいおもちゃ箱! でも、おもちゃの1つ1つに深い意味やこだわりはない。」

 これですねぇ~。妖怪にさほど興味もなさそうな三池監督がプロフェッショナルに最高の妖怪映画を撮ろうとしているからいいんですよ。「適度なテキトーさ」が、お客さんの肩の力をぬいてくれるんですね。
 妖怪が大好きで『帝都物語』が大好きな誰かがメガホンを撮っていたら、それはそれでマニアックないい映画にはなっていたのでしょうが、三池監督の『妖怪大戦争』ほど多くのお客さんが笑って楽しむ映画にはなっていたかどうかははなはだ疑問です。そこが三池監督の世に希なる才能なのよねぇ!


 ここでぐぐっとお話を本題に戻しますが、この『妖怪大戦争』に登場した妖怪ぬらりひょんこそが、数ある妖怪軍団の中でも最も作品の「お祭り」要素を体現したキャスティングになっているのでした。

 1980年代に作られた『月曜ドラマランド』版とオリジナルビデオ版に続いて実写版3代目のぬらりひょん俳優を演じることとなったのはなんと、

忌野清志郎54歳!!

 異様に大きなはげた頭という部分は特殊メイクがほどこされているのですが、顔はそのまんま忌野清志郎。演技もそのまんま忌野清志郎。ほぼおじさんのフリートークに近い無責任なセリフしか言いません。
 この作品での妖怪ぬらりひょんは、まさしく江戸時代の『画図百鬼夜行』にあるにやけ顔の「ぬうりひょん」のみをベースとしたキャラクターとなっており、その後の「妖怪総大将」「ウソが得意な凶悪妖怪」といった諸要素はまったく排除されたのんびりフワフワした存在となっています。衣装も、同じ和服とはいいつつ「鬼太郎サーガ」で定番の地味でカタい印象の羽織姿とは真逆で、アゲアゲで遊びまくっているお大尽といった感じの錦の長羽織(ひざ下まである大きな羽織)姿となっています。これも「ぬうりひょん」のあかしですよね。

 そのとおり。この『妖怪大戦争』での忌野ぬらりひょんは、あの『大映妖怪3部作』での、「ただ百鬼夜行にまざって歩いているだけのモブぬらりひょん(かぶりものをかぶった子役)」の直系の子孫だったのです!
 だから、悪くもないけど存在意義もない。
 劇中、堂々と登場した忌野ぬらりひょんは終始、魔人・加藤との全面戦争には消極的で、前半にめんどくさがって退場したあとには、クライマックスにちらっと顔を出すだけでほとんど活躍しませんでした。ほんとに役に立ってない!

 ここですよ。こんな泡沫な役を忌野さんがやっていることが『妖怪大戦争』のスゴさと楽しさなんです。
 これを「ふざけてる」とか「もったいない」とか言ってるようでは粋じゃないわけなんですなぁ。

 ちなみに、この『妖怪大戦争』のテーマソング『愛を謳おう』を歌唱していたのは、その忌野清志郎さんと井上陽水の超ビッグデュオだったのですが、陽水さんのほうが『妖怪大戦争』に妖怪役として特別出演することはありませんでした……
 これは実に残念なことだったのですが、私としては、シルエットがそっくりなのでぜひとも「バックベアード」の役で顔だけ出演してほしかったです。
 ま、そこでおいそれと出てこないのが妖怪・井上陽水であるわけでして……

 ところで、何度も言うようにこの『妖怪大戦争』は『ゲゲゲの鬼太郎』との世界観の直接のつながりは無いのですが、登場した河童(演・阿部サダヲ)のセリフに「ゲゲゲの鬼太郎がどこかに存在しているらしい」内容の文言が出てくるのが非常に興味深かったですねぇ。
 無論のこと、これも三池ワールド一流の「おあそび」なのでしょうが、今となっては2007年の実写劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』への布石になっていたような気もしないではありません。観たかったねぇ、「加藤保憲 VS ゲゲゲの鬼太郎」!!

 ただ、これはまた次の機会にしますが、実写映画版『ゲゲゲの鬼太郎』2作があらゆる点で『妖怪大戦争』を大きく下回るものであったことは残念でなりません……

 参考までに、鬼太郎ファミリーとして有名な妖怪からは、砂かけ婆(演・根岸季衣51歳)と一反木綿と塗り壁が『妖怪大戦争』に登場しています。


 まぁこんなわけでして、21世紀に入っても、「鬼太郎サーガ発祥の凶悪ぬらりひょん」と「それ以前のわけわかんないぬらりひょん」という分裂状態は続いているというわけだったんですなぁ。

 次回は、ついに満を持して京極夏彦の妖怪小説『京極堂シリーズ』に登場したぬらりひょん先生の大活躍から~。
 ……え? 『ふんどし』? たった60ページの短編?
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