長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

ぬらりひょん京極夏彦ワールドにあらわる!? ~ぬらりひょんサーガ 第23回~

2011年11月16日 13時51分00秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 『長岡京エイリアン』あいかわらずの流れで2ヶ月におよぶ長期シリーズとなってしまったこの「ぬらりひょんサーガ」も、いよいよ残す大きなヤマはアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』と『ぬらりひょんの孫』の2つだけとなった。
 瀬戸内海でのぷかぷかライフ、百鬼夜行のエキストラ、爆弾テロを生き甲斐とする孤独老人、巨乳小学生になんでもおごってやるペテン師、2億年の時を長生きして生還、いつも朱の盤といっしょ……
 さまざまな艱難辛苦を乗り越えて全国的な知名度を得るにいたったぬらりひょんは、果たして21世紀の日本に妖怪総大将として名乗りをあげることができるのだろうか~!?


 前回は2003年のゲーム版『ゲゲゲの鬼太郎』に登場した滝口順平ぬらりひょんと、2005年の映画『妖怪大戦争』に登場した忌野清志郎ぬらりひょんを紹介しました。同じ妖怪でありながらも、「鬼太郎ワールド」と「それ以外」とでこんなにキャラクターが違うのかとびっくりしてしまうような二重人格ぶりを発揮していましたねぇ。どっちが「ほんとうのぬらりひょん」なのか。いやいや、どっちもほんとうであり、ほんとうじゃないんですね。おそろしい妖怪です……

 さて、ここまで来てしまえば、冒頭にあげたように2007年からスタートするアニメ第5期『ゲゲゲの鬼太郎』での青野ぬらりひょん堂々の復活まであと少しという感じなのですが。

 その前に! どうしても触れておかなければならない作品があるんですねぇ。
 ラストスパートの前に寄り道、みたいなちょっとした短編小説なのですが、これは見逃せないんだなぁ~!


『ぬらりひょんの褌(ふんどし)』(作・京極夏彦 集英社『週刊プレイボーイ』2006年12月~07年1月掲載)


 な、なんと、ふんどしとな!?

 京極夏彦と言えば、もう何度となくこの「ぬらりひょんサーガ」にもその名が出てきた希代の妖怪小説家。
 古本屋にして陰陽師の「黒っぽい人」中禅寺秋彦をはじめとして、推理せずに事件を解決する私立探偵や廃人すれすれの小説家などといったマンガみたいな面々が所狭しと大暴れする『京極堂シリーズ(百鬼夜行シリーズ)』(1994年~)や、江戸時代を舞台にして必殺仕事人みたいな特攻野郎Aチームみたいなミッションインポッシブルな集団が悪人どもをこらしめる『巷説百物語シリーズ』(1999年~)などが特に有名で、『嗤う伊右衛門』(1997年)や『覗き小平次』(2002年)といった江戸時代の古典怪談のアレンジワークも高い評価を得ている当代一の幻想作家といってよろしいでしょう。

 彼が小説家としての活動を開始したのは1994年9月刊行の『京極堂シリーズ』第1作『姑獲鳥(うぶめ)の夏』からで、そのタイミングから見てもおわかりの通り、「平成妖怪ブーム」の中心的存在となっていたことは間違いありません。
 ただ、ほぼ同時期に巻き起こっていた日本映画界の「Jホラーブーム」との直接のリンクはあまり多くなく、なぜか生前からお岩さんの顔がこわかった映画版『嗤う伊右衛門』(2003年 監督・蜷川幸雄)や、あの実相寺昭雄監督による「満を持してのわりには……」の残尿感はなはだしい映画版『姑獲鳥の夏』(2005年 主演・堤真一)とそれに続く『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』(2007年 監督・原田真人)、2000年にWOWWOWで放送されたドラマ版『巷説百物語』第1シリーズ全4話(主演・田辺誠一)くらいが映像化されたものの中では有名なところでしょうか。
 ほかにアニメ化やコミカライズされた作品もあるにはありますけど、私そうだいの個人的な実感としては、内容時間やセリフ量の制約からか、京極作品のあの「情報量の多さ」からくる眩惑作用を文章以外の方法で再現することはやっぱり至難の業なんじゃないでしょうか。そこが作家・京極夏彦の専売特許なのよ~、たぶん。
 あのセリフ量を、部分的とはいえ各シーンで果敢に映像化していた映画『姑獲鳥の夏』なんて、ものすごい睡眠促進作用か「堤さんのセリフ記憶力、スゲ~。」感しかもたらしてなかったからね。だめだ、こりゃ!

 余談ですが、私がいちばん大好きな映像化された京極作品は、1997年にテレビ朝日の土曜深夜枠で放送されていた30分のオムニバスホラードラマシリーズ『幻想ミッドナイト』で12月に放送された『目目連(もくもくれん)』(主演・白井晃)です。
 これは大好きですね~。よく真面目な常識人やおしゃれな粋人を演じていることの多い白井さんなのですが、ここでは、

「あっ、『ヘビみたいな眼つき』って、こういうことなんだ。」

 と思わず納得してしまう狂気の熱演を見せてくださっています。こえぇ!
 また、原作になった小説『目目連』(1996年9月発表)が短編でしたからね。シンプルなものをストレートに映像化したという感じで雰囲気もとってもよかったです。


 さて、そんな希代の妖怪小説家である京極夏彦先生がアニメ第4期『ゲゲゲの鬼太郎』の1エピソード『言霊使いの罠!』の脚本を手がけ、そこで我らがぬらりひょん先生が彼ならではの活躍を見せ、そのために死んだはずのアニメ第4期にまた復活する運びとなってしまった、というあたりはすでに以前にふれました。

 ところが、それからおよそ10年の歳月が経った2006年。京極作品に再びぬらりひょん先生が登場してしまったのです。

 しかも、今回は「鬼太郎サーガ」の一環ではなく、京極夏彦の本領たる『京極堂シリーズ』への殴り込み~!?
 いや、そこがちょっと複雑なところでありまして……


 短編小説『ぬらりひょんの褌』は、『(妖怪名)の(なんとか)』というタイトル形式からもわかるように、『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』『絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)』といった一連の『京極堂シリーズ』の系列に位置する作品です。

 しかし! 実はそれ以上のパーセンテージで、国民的マンガといっても差し支えのないあの『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(作・秋本治 集英社『週刊少年ジャンプ』連載)のトリビュート小説でもあるのでした!!

 1976年の9月から連載が開始され、今年でついに35周年を迎えた人情系ハチャメチャギャグマンガ『こち亀』。ここに登場する主人公・両津勘吉をはじめとした名キャラクターたちをあつかい、大沢在昌や東野圭吾らといった綺羅星のごときベストセラー作家の面々がトリビュート短編を執筆する豪華企画の1作として、京極先生が発表したのがこの『ぬらりひょんの褌』だったというわけ。現在は集英社文庫の『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』などで読むことができます。

 そして、おおむね1950年代、戦争の名残も色濃く残している頃の日本で起きる数々の猟奇事件をあつかった『京極堂シリーズ』にたいして、『ぬらりひょんの褌』はリアルタイム、2006年12月の東京・中野近辺のとある公園で、『こち亀』レギュラーの大原大次郎巡査部長(「両津のバカはどこだ!?」の人)が、大学生時代に体験した生涯唯一の「妖怪事件」を回想するという番外編のような形になっています。

 『京極堂シリーズ』に共通しているのは、「妖怪の存在を濃厚に連想させる不可解な事件」を、登場人物たちが論理的に「人間の起こした犯罪」と立証して解決していくというミステリー小説の常道にのっとったストーリー展開で、したがって、『京極堂シリーズ』に「妖怪そのもの」がベロベロバーと出てくることはありません。ただ、ある人の視点から見たらある瞬間の「何か」や「誰か」が妖怪にしか見えないというシチュエーションが頻繁に発生し、そこのおそろしさが作家・京極夏彦の腕の見せどころというわけなのです。

 ということで、『ぬらりひょんの褌』で大学時代の大原青年が体験した不可思議事件も、回想している最中に公園にふらっと現れた「ある老人」によって、やっぱり人間のしわざだったということが判明して解決するといった流れになっているのです。まぁ人間というか……なんですけど。
 学生時代から21世紀にいたるまで、約50年の長きにわたって大原部長に取り憑いてきた妖怪ぬらりひょんの幻影をその老人が「おとす」という作業で『ぬらりひょんの褌』は一件落着となるわけでして……老人の正体はもうバレバレですね。


 大原青年の体験した不可思議事件というのは、「密室にいつの間にか誰かがいて、勝手に飲み食いしてどこかへ消えてしまう」というもの。タチの悪い無銭飲食という、妖怪ぬらりひょんの有名な特徴を見事につかんだ怪異となっています。

 それだけ。そう、『京極堂シリーズ』における妖怪ぬらりひょんの性質はそれだけなんです。

 なぜならば、このシリーズが立脚している時代が『ゲゲゲの鬼太郎』が有名になる以前の「1950年代」だから!
 要するに、「妖怪総大将」どころか「爆弾テロ大好き爺さん」という「鬼太郎サーガ」におけるぬらりひょんの原点とも言える部分さえもが生まれていない時代の物語だからなのです。

 「いつの間にか家にいてタダ食いタダ飲みする」だけというシケた時代のぬらりひょんをクローズアップとは……京極先生はつくづくぬらりひょん先生に意地悪だ!

 ところが、この「ぬらりひょんサーガ」をずっと読んでこられた奇特なアナタならばもうすでにお気づきかと思うのですが、実はこの「いつの間にか」属性さえもが、1950年代時点には「存在していなかった」可能性が濃厚なんですよね……

 つまり、現在あるイメージのほとんどいっさいが使えない妖怪ぬらりひょんをどう小説化するのかで京極先生がそうとう頭を痛め、その末に選んだ場が、この『こち亀』トリビュート企画としての『ぬらりひょんの褌』だったというわけなんです。
 そういう意味で、『ゲゲゲの鬼太郎』をへた21世紀のぬらりひょんイメージとの比較もできる「現代からの回想」形式をこの作品に導入した京極先生の選択眼は、まさにお見事としか言いようがありません。

 ただ、オチがオチでしたから……まぁ、「どうせそんなこったろうと思ったよ!」的な。いやいや、そこがいいんだ! なんてったって『こち亀』なんだから。


 読んだ方ならばご存じのように、『京極堂シリーズ』は江戸時代の絵師・鳥山石燕の妖怪画集『画図百鬼夜行』4部作(1776~84年)におさめられた妖怪たちとリンクした怪異が発生する設定となっていまして、今のところ、石燕がえがいた207体の妖怪のうち(中には「隠れ里」「宝船」「逢魔が時」など個体の妖怪とみなされないものもある)、京極先生の単行本化された作品に登場したのは「54体」となっています(2011年11月現在)。その最新54番目がぬらりひょん先生だったと!


 まだ4分の1なのか……オールコンプリート目指して、がんばれけっぱれ、京極先生~!!

 『ぬえのいしぶみ』、ほんとに期待してます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする