《前回までのあらすじ》
昭和の「第1次妖怪ブーム」のどさくさにまぎれていつの間にかキャラクターを完成させた妖怪ぬらりひょん。
しかし、そんな彼がぞんぶんに活躍する機会は、昭和も終わりにさしかかった1980年代なかばの「第2次妖怪ブーム」までなかった……
2つの妖怪ブームの谷間に位置する1970年代後半、ぬらりひょんはどんな動きを見せていたのだろうか!?
『ゲゲゲの鬼太郎』はいろんな出版社の雑誌で何回も長期連載されたり書き下ろしの単発長編の形で出版されたりと、現在にいたるまでにかなり多くのシリーズが描かれています。
猫娘に子泣き爺や砂かけ婆といったアニメおなじみの顔がいっさい登場しないシリーズもけっこうあるんですよ。
ここで、偉大なる「ゲゲゲの鬼太郎サーガ」の歴史をならべてみましょう。
便宜上、ここでは「第~シリーズ」という表記を使用しますが、これは水木プロダクションの公式見解ではなく私そうだい個人のナンバリングしたものです。あしからず。
第1シリーズ 貸本『墓場鬼太郎』(1960~64年 全15話)
第2シリーズ 『週刊少年マガジン』版(1965年8月~69年7月 全131話)
第3シリーズ 『週刊少年サンデー』版(1971年9~12月 全14話)
第4シリーズ 『鬼太郎の世界お化け旅行』(1976年1~8月 全16話)『隔週刊少年アクション』連載
第5シリーズ 『続 ゲゲゲの鬼太郎』(1977年7~12月 全23話)『週刊実話』連載
第6シリーズ 『新 ゲゲゲの鬼太郎』(1978年1~12月 全46話)『週刊実話』連載
第7シリーズ 『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』(1980年8月~81年6月 全11話)『月刊少年ポピー』連載
第8シリーズ 『新編 ゲゲゲの鬼太郎』(1986年5月~87年9月 全52話)『週刊少年マガジン』ほか連載
第9シリーズ 『鬼太郎国盗り物語』(1990年11月~93年3月 全28話)『月刊コミックボンボン』ほか連載
第10シリーズ 『鬼太郎霊団』(1996年2月~97年3月 全3話のみ)『月刊ビッグゴールド』ほか連載
もちろん、この他にも貸本版を水木しげる自らがリメイクした『月刊ガロ』連載の『鬼太郎夜話』(1966年3月~68年4月 全23話)シリーズがあったり、『鬼太郎のベトナム戦記』(1968年)や『ゲゲゲの鬼太郎 死神大戦記』(1974年)といった長編ものもあるわけなので、上の10シリーズだけがサーガのすべてではないのですが、まぁこんな感じなんですよ。
世間の「第1次妖怪ブーム」にあたっていたのが「鬼太郎サーガ」の第2~3シリーズで、「第2次妖怪ブーム」にあたるのが第8シリーズであるわけなんですね。
そして、今回ふれるのは第6シリーズ『新 ゲゲゲの鬼太郎』なんですが、実はここまでにいたるシリーズでは、主人公の鬼太郎少年の身に重大な特徴があったのです!
ゲゲゲの鬼太郎はちゃんとスクスク成長していた! 第6シリーズの途中まで。
今でこそ「永遠の少年」みたいな感じで売っている鬼太郎少年なのですが、実はリアルタイムで人間同様に歳をとっていたのです。
よく見なおせば、貸本での鬼太郎少年はけっこう赤ちゃんの気配も残した幼さがあり(それは「ノイタミナ」でアニメ化された時にもよく再現されています)、シリーズが進むにしたがって、じわじわと鬼太郎の背が高くなってきていることが見てとれるのです。わたくし個人としては、ある程度反抗期も入って不良ぶっていた第3シリーズのころが好き。
ただ当然ながら、目玉の親父やねずみ男といった鬼太郎以外の妖怪ファミリーの面々はまったく変化していません。そりゃあ何百年も生きてますからね。
で、ついに第5~6シリーズにいたると鬼太郎少年は鬼太郎「青年」となり、なんと先祖伝来の黒と黄のしましまの「霊毛ちゃんちゃんこ」をセーターに編みなおし、人間社会で「田中ゲタ吉」と名乗って下宿住まいをしながら、妖怪のために妖怪が運営する「墓の下高校」に通学しているのです! お化けに学校、あったんだ……
そして、あの鬼太郎が思春期らしいエロエロなエピソードにまみれて異様に俗っぽい大人の階段をのぼっていくというせつない物語が展開されていくわけなのですが、この辺の抱腹絶倒のお話の数々は、ぜひとも近年に単行本化された角川文庫版の『ゲゲゲの鬼太郎 青春時代』(第5シリーズ)と『ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代』(第6シリーズの前半部分)をお手にとっていただきたいと思います。「妖怪作家」だけではない、「ハイセンスギャグマンガ家」としての水木しげるの真骨頂が、そこに!!
ところが。
そんな「鬼太郎リアル成長」設定は、第6シリーズの連載中に急にガチャッとリセットされてしまい、今回紹介する『野球狂の巻』エピソード(1978年3~6月 全13回)が終わった翌週から、まるで何事もなかったかのように「小学生くらいの体型でちゃんちゃんこを着た鬼太郎少年」の活躍する一話完結の連載に戻ってしまったのです!
なにゆえ突然……水木先生、飽きた?
とにもかくにも、この時のリセット&『サザエさん』システムの導入が正しい決断だったことは歴史が証明しているわけなのですが、あのまま大人になっていく鬼太郎も見たかったような。
んでんで! やっと本題に入るのですが、我らがぬらりひょん先生の2度目の原作マンガ登場は、この「成長する鬼太郎」物語の最後のエピソードとなる『野球狂の巻』でのこととなるのです。
そういえば、初アニメ化でメジャーになる直前の『墓場の鬼太郎』ラストの敵もぬらりひょんだったし、高校生にまで成長した鬼太郎青年のラストの敵もぬらりひょん……またしても深い因縁を感じさせる関係です。
ここでのぬらりひょんは、鬼太郎の通っている「墓の下高校」の校長として登場しており、黒の羽織袴を着こなした落ち着きのある教育者の風貌をしています。
しかし、顔つきは第2シリーズのぬらりひょんとはまったく別人のものとなっており、鬼太郎とも過去になにかあったような感情のやり取りはありません。単なる生徒と校長の関係。やっぱり連続爆弾テロをはたらいていたあのぬらりひょんとは別人のようです。やや若いか? ハゲてるけど。
ぬらりひょん校長は、表向きは鬼太郎の所属する「墓の下高校野球部」の甲子園出場を応援しているだけなのですが、実はそれに乗じての人間界の支配をもくろんでいるという「悪の顔」が後半に発覚します。
そして、そのあたりの企てを察知した&高校生活がイヤになっていた鬼太郎の必殺技「地獄流し」によって、ぬらりひょん校長と墓の下高校全職員全校生徒は丸ごと地獄に追放されてしまいます。鬼太郎、怖い!
ちなみに、鬼太郎はその時に親友であるはずのねずみ男もついでに地獄に流しているのですが、「あいつはそのうち戻ってくるだろう。」と軽くながしていました。なんという関係……ねずみ男はドMなのか?
こんな感じでぬらりひょん2度目の登場は、「妖怪ぬらりひょん」というよりは「悪徳校長」としての役回りしか与えられませんでした。そしてまた完敗。
ただ、ここで見逃してならないのは、史上初めてぬらりひょんが「多くの妖怪(職員・生徒)を統率する」立場にたったということなのです! あと、マンガの世界で和服を着たのも初めて。
総大将じゃないけど、リーダーシップをとる妖怪としてのぬらりひょんを見いだしたのは、やっぱり水木しげるだったのか……神。
ここにきて、「妖怪総大将」の地位をうかがうことのできる貫禄を手に入れたぬらりひょん! 時は来たれり。
さぁ~いよいよ次回は吉幾三の歌声が耳にこびりつくアニメ第3期の時代だ~い。
なつかし……
昭和の「第1次妖怪ブーム」のどさくさにまぎれていつの間にかキャラクターを完成させた妖怪ぬらりひょん。
しかし、そんな彼がぞんぶんに活躍する機会は、昭和も終わりにさしかかった1980年代なかばの「第2次妖怪ブーム」までなかった……
2つの妖怪ブームの谷間に位置する1970年代後半、ぬらりひょんはどんな動きを見せていたのだろうか!?
『ゲゲゲの鬼太郎』はいろんな出版社の雑誌で何回も長期連載されたり書き下ろしの単発長編の形で出版されたりと、現在にいたるまでにかなり多くのシリーズが描かれています。
猫娘に子泣き爺や砂かけ婆といったアニメおなじみの顔がいっさい登場しないシリーズもけっこうあるんですよ。
ここで、偉大なる「ゲゲゲの鬼太郎サーガ」の歴史をならべてみましょう。
便宜上、ここでは「第~シリーズ」という表記を使用しますが、これは水木プロダクションの公式見解ではなく私そうだい個人のナンバリングしたものです。あしからず。
第1シリーズ 貸本『墓場鬼太郎』(1960~64年 全15話)
第2シリーズ 『週刊少年マガジン』版(1965年8月~69年7月 全131話)
第3シリーズ 『週刊少年サンデー』版(1971年9~12月 全14話)
第4シリーズ 『鬼太郎の世界お化け旅行』(1976年1~8月 全16話)『隔週刊少年アクション』連載
第5シリーズ 『続 ゲゲゲの鬼太郎』(1977年7~12月 全23話)『週刊実話』連載
第6シリーズ 『新 ゲゲゲの鬼太郎』(1978年1~12月 全46話)『週刊実話』連載
第7シリーズ 『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』(1980年8月~81年6月 全11話)『月刊少年ポピー』連載
第8シリーズ 『新編 ゲゲゲの鬼太郎』(1986年5月~87年9月 全52話)『週刊少年マガジン』ほか連載
第9シリーズ 『鬼太郎国盗り物語』(1990年11月~93年3月 全28話)『月刊コミックボンボン』ほか連載
第10シリーズ 『鬼太郎霊団』(1996年2月~97年3月 全3話のみ)『月刊ビッグゴールド』ほか連載
もちろん、この他にも貸本版を水木しげる自らがリメイクした『月刊ガロ』連載の『鬼太郎夜話』(1966年3月~68年4月 全23話)シリーズがあったり、『鬼太郎のベトナム戦記』(1968年)や『ゲゲゲの鬼太郎 死神大戦記』(1974年)といった長編ものもあるわけなので、上の10シリーズだけがサーガのすべてではないのですが、まぁこんな感じなんですよ。
世間の「第1次妖怪ブーム」にあたっていたのが「鬼太郎サーガ」の第2~3シリーズで、「第2次妖怪ブーム」にあたるのが第8シリーズであるわけなんですね。
そして、今回ふれるのは第6シリーズ『新 ゲゲゲの鬼太郎』なんですが、実はここまでにいたるシリーズでは、主人公の鬼太郎少年の身に重大な特徴があったのです!
ゲゲゲの鬼太郎はちゃんとスクスク成長していた! 第6シリーズの途中まで。
今でこそ「永遠の少年」みたいな感じで売っている鬼太郎少年なのですが、実はリアルタイムで人間同様に歳をとっていたのです。
よく見なおせば、貸本での鬼太郎少年はけっこう赤ちゃんの気配も残した幼さがあり(それは「ノイタミナ」でアニメ化された時にもよく再現されています)、シリーズが進むにしたがって、じわじわと鬼太郎の背が高くなってきていることが見てとれるのです。わたくし個人としては、ある程度反抗期も入って不良ぶっていた第3シリーズのころが好き。
ただ当然ながら、目玉の親父やねずみ男といった鬼太郎以外の妖怪ファミリーの面々はまったく変化していません。そりゃあ何百年も生きてますからね。
で、ついに第5~6シリーズにいたると鬼太郎少年は鬼太郎「青年」となり、なんと先祖伝来の黒と黄のしましまの「霊毛ちゃんちゃんこ」をセーターに編みなおし、人間社会で「田中ゲタ吉」と名乗って下宿住まいをしながら、妖怪のために妖怪が運営する「墓の下高校」に通学しているのです! お化けに学校、あったんだ……
そして、あの鬼太郎が思春期らしいエロエロなエピソードにまみれて異様に俗っぽい大人の階段をのぼっていくというせつない物語が展開されていくわけなのですが、この辺の抱腹絶倒のお話の数々は、ぜひとも近年に単行本化された角川文庫版の『ゲゲゲの鬼太郎 青春時代』(第5シリーズ)と『ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代』(第6シリーズの前半部分)をお手にとっていただきたいと思います。「妖怪作家」だけではない、「ハイセンスギャグマンガ家」としての水木しげるの真骨頂が、そこに!!
ところが。
そんな「鬼太郎リアル成長」設定は、第6シリーズの連載中に急にガチャッとリセットされてしまい、今回紹介する『野球狂の巻』エピソード(1978年3~6月 全13回)が終わった翌週から、まるで何事もなかったかのように「小学生くらいの体型でちゃんちゃんこを着た鬼太郎少年」の活躍する一話完結の連載に戻ってしまったのです!
なにゆえ突然……水木先生、飽きた?
とにもかくにも、この時のリセット&『サザエさん』システムの導入が正しい決断だったことは歴史が証明しているわけなのですが、あのまま大人になっていく鬼太郎も見たかったような。
んでんで! やっと本題に入るのですが、我らがぬらりひょん先生の2度目の原作マンガ登場は、この「成長する鬼太郎」物語の最後のエピソードとなる『野球狂の巻』でのこととなるのです。
そういえば、初アニメ化でメジャーになる直前の『墓場の鬼太郎』ラストの敵もぬらりひょんだったし、高校生にまで成長した鬼太郎青年のラストの敵もぬらりひょん……またしても深い因縁を感じさせる関係です。
ここでのぬらりひょんは、鬼太郎の通っている「墓の下高校」の校長として登場しており、黒の羽織袴を着こなした落ち着きのある教育者の風貌をしています。
しかし、顔つきは第2シリーズのぬらりひょんとはまったく別人のものとなっており、鬼太郎とも過去になにかあったような感情のやり取りはありません。単なる生徒と校長の関係。やっぱり連続爆弾テロをはたらいていたあのぬらりひょんとは別人のようです。やや若いか? ハゲてるけど。
ぬらりひょん校長は、表向きは鬼太郎の所属する「墓の下高校野球部」の甲子園出場を応援しているだけなのですが、実はそれに乗じての人間界の支配をもくろんでいるという「悪の顔」が後半に発覚します。
そして、そのあたりの企てを察知した&高校生活がイヤになっていた鬼太郎の必殺技「地獄流し」によって、ぬらりひょん校長と墓の下高校全職員全校生徒は丸ごと地獄に追放されてしまいます。鬼太郎、怖い!
ちなみに、鬼太郎はその時に親友であるはずのねずみ男もついでに地獄に流しているのですが、「あいつはそのうち戻ってくるだろう。」と軽くながしていました。なんという関係……ねずみ男はドMなのか?
こんな感じでぬらりひょん2度目の登場は、「妖怪ぬらりひょん」というよりは「悪徳校長」としての役回りしか与えられませんでした。そしてまた完敗。
ただ、ここで見逃してならないのは、史上初めてぬらりひょんが「多くの妖怪(職員・生徒)を統率する」立場にたったということなのです! あと、マンガの世界で和服を着たのも初めて。
総大将じゃないけど、リーダーシップをとる妖怪としてのぬらりひょんを見いだしたのは、やっぱり水木しげるだったのか……神。
ここにきて、「妖怪総大将」の地位をうかがうことのできる貫禄を手に入れたぬらりひょん! 時は来たれり。
さぁ~いよいよ次回は吉幾三の歌声が耳にこびりつくアニメ第3期の時代だ~い。
なつかし……