二〇二二年度の防衛費が過去最大の五兆四千五億円(前年度当初比1・1%増)となった。第二次安倍内閣が編成した一三年度予算以降十年連続で増え続けている。政府は中国や北朝鮮の軍備拡大で安全保障環境が厳しさを増したことを理由に挙げるが、防衛費の膨張が続けば、逆に緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。米中両国の軍拡競争に加わる愚を犯してはならない。
二二年度防衛費は、研究開発費を前年度比約八百億円増の二千九百十一億円とし、中国や北朝鮮が開発を進める極超音速兵器への対処や、宇宙・サイバーといった新領域での能力強化を盛り込んだ。敵基地攻撃能力保有を巡る議論も見据え、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を長射程化するため三百九十三億円を計上。中国の海洋進出に対応し、南西諸島の防衛体制強化も盛り込んだ。総額は国内総生産(GDP)比0・96%だが、海上保安庁予算などを含める北大西洋条約機構(NATO)基準では、当初予算の目安1%を上回る。防衛費増額の背景には、同盟国に国防費をGDP比2%以上にするよう求める米国への配慮もあるのだろう。安全保障環境の変化や軍事技術の進展に対応する必要はあるとしても、増額ありきだったり、米国への過剰な配慮で予算編成をすることがあってはならない。米国による中国けん制にあからさまに同調すれば、中国との関係を損なうことにもなりかねない。
防衛省は、二二年度予算案と二一年度補正予算を合わせて総額六兆一千億円超の「防衛力強化加速パッケージ」に位置付け、通常、当初予算を充てる主要装備品の導入経費を補正予算に計上した。国会で十分な審議時間が確保されない補正予算を利用して防衛費を拡大させる手法は妥当性を欠くのではないか。年明け通常国会では、こうした防衛予算編成の在り方も厳しく問われるべきだ。政府は来年末をめどに国家安全保障戦略や防衛大綱、中期防衛力整備計画(中期防)を改定する方針だが、明記が検討される敵基地攻撃能力の保有について歴代内閣は憲法の趣旨ではない、つまり違憲としてきた。防衛費の審議に当たっては、憲法を守り、軍拡競争には加わらないという原点に、いま一度立ち返る必要があるのではないか。
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