蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

何もかも憂鬱な夜に

2009年06月13日 | 本の感想
何もかも憂鬱な夜に(中村文則 集英社)

児童養護施設で育った主人公は、刑務官になる。
勤務する拘置所の規律が緩みがちで、主人公は、ある受刑者にだまされたことが深い傷になっている。
主人公は暴力衝動から逃れられず悩むが、だまされた受刑者と後日偶然再会し、受刑者から、暴力衝動を持つ主人公は(受刑者と)同じ側の人間だといわれて激しく動揺する。
主人公の担当する未決囚は、18歳で殺人を犯して死刑を宣告されるが、控訴しようとしない。主人公は、自分と同じような境遇であった未決囚に同情し、何とか意思疎通しようとするが、なかなかうまくいかない。

主人公が尊敬する養護施設の指導者は、世の中には素晴らしいもの(芸術作品)がたくさんあると言い、主人公にそれらに触れることを勧め、主人公は未決囚に同じことを勧める。
未決囚はバッハの「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」に感動した、という手紙を書く。

この手紙は本書のラストに掲げられているのだけれど、「何もかも憂鬱な夜に」は、「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」て終わる、という見立てなのだろうか。

著者の芥川賞受賞作同様、本書も恵まれない子供時代を送った人達の苦しみとそこから脱出しようとする努力みたいなものを描いている。私自信は何不自由なく育ったのだけれど、(それゆえにか)「恵まれない子供」を描いた作品がなぜか好きで、本書もそういった内容らしいということを知り読んで見た。

題名通り、冒頭から、暗鬱な感じのストーリーが終盤まで続くが、最後にやけにすっきりすべてが解決、みたいな結末になったのは、ちょっと拍子抜けと言う感じ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする