蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ゴーン・ガール

2015年05月16日 | 映画の感想
ゴーン・ガール

主人公(ベン・アフレック)の妻(ロザムンド・バイク)は、妻の親が書いてベストセラーになった子育て記で「アメージング(完璧な)エイミー」として描かれた子供。
妻は、本に描かれた姿と現実との差に苦しみながらも、親から印税分の信託財産をもらって主人公と豊かな暮らしをしていた。しかし、やがて主人公は失業し、重病に苦しむ主人公の親のため田舎へ引越しを強いられ、生活に不満を覚え始める。
ある日、妻は突然失踪してしまう。警察は事件に巻き込まれた可能性大という。主人公は懸命に捜索するフリをするが、実は彼は浮気しており、浮気相手がマスコミに名乗り出て窮地に立たされる・・・という話。

警察などをあざむくための妻の様々な工作は、巧妙そうにみえるが、後からよく考えてみると、現実ならとても役立ちそうにない子供だましレベルのもの。
その他にも現実性に欠ける箇所は(見た後に思い返すと)たくさんあるが、映画を見ている間は(そこそこ複雑な筋なのに)テンポ良く進行し、どんどんサスペンス性が高まるので、比較的長い上映時間にもかかわらず、最後まで全く飽きることがなかった。

ロザムンド・バイクの演技は(文字通り)鳥肌ものの不気味さを湛えていたけれど、それに負けず劣らずベン・アフレックのダメ男ぶりがまたなんとも堂にいっている。
失業者役だった「カンパニー・メン」でもそうだったけど、こういう役がお似合いなのかも。
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笑い三年、泣き三月。

2015年05月16日 | 本の感想
笑い三年、泣き三月。(木内昇 文春文庫)

戦後間もない頃、万歳師の善造は一流芸人になることを夢見て上京する。上野で戦災孤児の武雄と知り合い、ストリップ劇場のはしりのミリオン座にもぐりこんで話芸をすることになる。善造と武雄は踊り子の自称令嬢のふう子の家で暮らすことになるが・・・という話。

本書は、笑いを追求する芸人の姿を通じて、演芸の本質を描くことを主題としていると思う。

一方で、厳しい父親から抑圧的に育てられた上、空襲で家族が亡くなったのは自分の責任と思い込んでいる武雄が、名前の通りに根っからの善人である善造を仮の父とし、とにかくやさしく穏やかなふう子を仮の母として暮らすうち、人間らしい感情の起伏を取り戻していくプロセスを描いた家族小説でもあり、私は後者の側面の方により強く惹かれた。

戦後の食糧難を実感させてくれる箇所も多かった。
珍しく白米が手に入ると、皆、目の色が変わるとか、卵かけごはんを一口食べた武雄がそのうまさに気絶しそうになるとか、食糧や栄養不足の切実感、その裏返しとしてごちそう?が手に入った時の喜び・・・食糧も娯楽もあふれんばかりの現代にあっては、決して感じることができない底抜けの歓喜・・・がリアルに伝わってきた。
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消失グラデーション

2015年05月16日 | 本の感想
消失グラデーション(長沢樹 角川書店)

高校女子バスケの全国レベルの選手でモデルもしている網川が校舎の屋上から転落した後、姿を消してしまう。自殺か他殺か、死体はどこへ行ったのか?網川の友人である主人公(椎名)と放送部の樋口は謎を解こうとするが・・・という話。

タネ明かしには、けっこうびっくりしました。
オセロゲームの終盤で優勢に見えた方の石がバタバタとひっくり返るような感じの世界観の転換が鮮やかでした。
タネ自体は割合よくありそうな類のものなのですが、「消失グラデーション」というタイトルがミスディレクションで、死体が消えるという密室系トリックだと思わせておいてメインのトリックは全く別のもの、という仕掛けにまんまと騙されてしまいました。
「グラデーション」の意味合いも(最後まで読まないとわからないのですが)タイトルとして納得性があるものでした

正直、終盤のタネ明かしまでは、私としては苦手な青春系のミステリだし、美男美女揃いで高校生とはとても思えないハイブラウ?な恋愛模様が展開されて「いくらなんでも現実感ないだろ」などと、あまりページが進まなかったのですが、トリックが明かされてみると、それまでの物語に全く別の主題が浮かび上がって、小説全体に急にリアリティが立ち上がってくるような感覚にとらわれました。

また、実際そう思ってやる人が多いのかどうかはわかりませんが、リストカットする人の心理の解説には「そういうものなか」と妙に納得感がありました。

蛇足ですが、本書の終盤でNHKの「にほんごであそぼ」で流れていた野村萬斎さんが謡う「ややこしや」という歌が頭の中でリフレインしてしまいました。
「わたしがそなたで、そなたがわたし。そも、わたしとは、なんじゃいな」
「うそがまことで、まことがうそか。ややこしや、ややこしや」
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