蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

のっけから失礼します

2019年09月14日 | 本の感想
のっけから失礼します(三浦しをん 集英社)

小説家も売れてくると週刊誌などにエッセイを連載することがよくあります。初めのうちは、テーマを決めて短編小説さながらの充実した内容のものが多かったのが、連載が長期化してくると身辺雑記になり、やがてはネタがないことをネタに書き流す、なんて回がふえてくることが多いような印象があります。

私は、三浦さんがまだあまり売れていない頃に三浦さん自身のHPなどに書き込んでいた頃からの(エッセイの)ファンなのですが、三浦さんのエッセイは、ほぼ終始一貫(わりと自堕落な)日記風(といってもほとんど外出しないので、脳内で繰り広げられる妄想(失礼)を書いたものが多い)です。それなのに、どの作品も思わず吹き出しそうになるほど内容が面白く、とても楽しく読めます。
特に憧れの役者などへの妄想を語ったものが出色で、昔だとヴィゴ・モーテンセン(この前久々に「グリーンブック」という映画で見たけど、ずいぶん太ってたなあ。昔は細マッチョの典型みたいなイメージだったのに・・・もしかして単なる役作りで太っていたのかな?)への妄想がすご(く面白)かったです。

どうもヴィゴ以来強烈な妄想をかきたてる対象がいなかったように思いますが、本作では、ついに!妄想のターゲットが出現。エグザイルの3代目なのですが、私なんかが見ると「ナンダコレ?」くらいの感想しか抱けない「ハイ&ロー」シリーズを絶賛するなど、相当な入れ込みようです。(私の子供も一時はまっていたので「ハイ&ロー」は見るともなしに見たことがあるのですが、いろんな意味ですごい作品です)

また、本作では歌舞伎と文楽の作品を紹介したエッセイが2つあるのですが、歌舞伎や文楽に全く知識も興味もない私が読んでも「それは是非みてみたい」と思わせるほど解説がうまくて(特に「三人吉三」の方)、このあたりは本当に上手だなあ、と思えました。(そんな人が惚れるんだから「ハイ&ロー」も実は傑作なのだろうか?)
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無戸籍の日本人

2019年09月14日 | 本の感想
無戸籍の日本人(井戸まさえ 集英社文庫)

離婚後300日以内に生まれた子供は前夫の子供と推定する、という民法の規定により、(前夫との子とすることを避けるため)出生届が出せず子供の戸籍が作られないままとなっている等、様々な事情により出生届未提出=無戸籍となっている日本人が1万人以上いるという。このような人は(特別な手続きをしない限り)公的サービスが受けられず、義務教育を受けていない人が多いそうである。それでも就職時の本人確認があまり厳しくない仕事(水商売とか)に従事してなんとか暮らしているのだが、当然、生活は非常に苦しい。

本書が紹介する(著者が相談に乗った)人の経験談は、本当にドラマッチックというか凄まじい。
DV夫と実母が実はデキていたことに気づき、以前から好意を寄せてくれる男と駆け落ちし子供ができたが、夫と離婚手続ができないために出生届を出せなかった、とか、
出産費用未払いで出生証明書を産院から貰えてなかった人が、大人になってから産院を訪ねると、すでに医院は廃業していて立派な院長宅はゴミ屋敷と化しており、院長夫人はベンツを応接室にしていた、等々・・・
無戸籍の人本人の経験もさることながら、無戸籍に至ることとなった親の事情の方がより深刻なケースが多いようである。

現代社会では明らかにミスマッチな民法規定が改正されない理由は、家族や血統を重視する保守系国会議員のせいらしいが、実際に被害を被っている人が、無戸籍という表ざたにすると自分自身が不利となってしまうために声をあげにくい、という面もあるようだ。

著者は松下政経塾出身で元国会議員であるため、議員や役所に顔がきく。それでも(無戸籍者の支援)活動はスムーズに進まないことが多い。イレギュラー事例に対する役所や役人の事なかれの壁は厚く、普通の人なら簡単にあきらめてしまい、改善は進みにくい。

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500ページの夢の束

2019年09月14日 | 映画の感想
500ページの夢の束

ウエンディ(ダコタ・ファニング)は自閉症で、グループホームで暮らしている。
ケーキ屋でアルバイトし、余暇は熱烈なファンであるスタートレックのことを考えてすごす。
ウエンディの姉が生まれ育った家を売ろうとしているので、スタートレックの脚本懸賞に応募して家を買い戻そうとする。しかし、懸賞に応募するために郵送しているのでは間に合いそうにないので自らハリウッドへ持参しようと、飼い犬を連れてバスに乗る・・・という話。

地味な設定とストーリー、あまりおカネがかかっているとは思えない内容なのに、なぜだかとても良かった。

自閉症の克服のため?生活上の細かなルールを決めて、必死にそれを守ろうとするところや、さまざまな試練(というほどでもないが、ハリウッドへの途上でお金を盗まれたり、乗せてもらった車が事故を起こしたりする)をなんとか乗り越えていくところ等々・・・思い通りにならない世間と自分自身に身もだえするウエンディが、とてもいとおしい。

原題は「Please stand by」。ウエンディのグループホームの指導役の人がウエンディを落ち着かせるためにいうセリフなのだが、珍しく邦題の方がいいなあ、と思えた(500ページというのはウエンディが書いた応募原稿のボリュームのこと)。
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