水車小屋のネネ(津村記久子 毎日新聞出版)
18歳の山下理佐は、ひとり親の母親が短大への入学金を使い込んでしまい進学を断念する。妹の律が母親の恋人に虐待されているのを知り、律を連れて地方のそば屋に就職する。そば屋は裏の水車小屋でそば粉をひいていたが、その小屋には挽き臼の監視役?のヨウムのネネがいた。ネネは人間の幼児並みによくしゃべった。理佐と律は、最初は冷蔵庫がなくて困るくらいだったが、やがて生活を軌道に乗せていく。理佐と律とネネの様子を1981年から2021年まで10年ごとの節目で描いた作品。
子どもの進学資金を使い込み、恋人が子どもをいじめていても、娘二人が出ていってしまっても知らんぷり、娘を探しに来たと思ったらそれは娘たちの相続遺産狙いだった・・・というトンデモな母親とその恋人が、序盤で登場する。
典型的な「かわいそうな子どもの話」としてスタートするのだが、そういうお涙頂戴の筋立てをひっぱらずに、からっとした、でも人情味とそこはかとないユーモアを漂わせる展開がとてもよかった。
そば屋の夫婦、律の担任の先生、律の同級生とその父親、誰もがちょっとそっけないようで、実は(なんの縁がないともいえる)理佐たちを見守り、そっと手助けしてくれる。
そしてクールに見える理佐も、理知的な律も、わかっていないようで、ちゃんと他人の善意を感じ取っている。ちょっと長目だが、読み終えるのが惜しくなった小説。
人でなしの母と和解しちゃうような安易な結末がないのもいいな。
ちょっと前に読んだ別の小説にもヨウムが登場して、その長寿である(飼育下なら40年くらい生きることもある)ことと、記憶力のよさに驚いたことがあった。ネネも、幼児というより下手すると小学生高学年並みの応答をするのだが、さすがにこれは創作なのだろう。しかし、ネネのような鳥がいるのなら、ともに暮らしてみたい、と誰もが考えそうだ。
そば屋の守さんと浪子さんが作るそばがとてもうまそう。やっぱり挽きたての粉だとうまいものだろうか?