サピエンス減少(原俊彦 岩波新書)
国連の推計によると世界人口は2086年の104億をピークに減少に転じるという。そして出生率などの傾向がそのまま続くと、300年もしないうちに世界人口はピークの1/100まで減少する、という推計もある。人類が戦争でも病気でも飢餓でもない原因で自然消滅的に絶滅してしまうという未来は案外すぐそこにあるということだ。
データを多く引用し、論理的に人口減少が生じる原因と対応をわかりやすく説明している。特に人口爆発が「爆縮」に転じていく過程の説明がよかった。
少し前までは人口の爆発的増加を懸念していたのに、今や人口「爆縮」を心配しなくならなくなった。そうしたトレンド転換の原因をさぐるのが、本書のテーマの一つ。
日本の場合は
「日本の「第一の人口転換」は、明治以降の近代化を契機に社会資本の蓄積が進み、女性の平均寿命が延伸し、再生産期間の生存率が50%から100%に近づいていったことにより、人口置換水準の子ども数が4人から2人まで低下した。このため多産多子のリスクが高まり、最終的に成人まで無事に生き残る子どもの数が平均で2子となる方向へと出生抑制が進んだと考えられる。つまり、女性の平均寿命が短い時代には、生まれた子どもの半数近くが成人するまでに死亡してしまうため、女性は、その分、多くの子どもを産まなければならなかったが、その一方、子どもの数を希望する範囲におさめるのに必要な出生抑制は女性の自由にはならず、その結果、実際の合計出生率は置換水準より常に高い水準になったと思われる。しかしながら、実際の合計出生率は置換水準の合計出生率を追うように低下し、両者の乖離は徐々に小さくなっていった。このことからも出生抑制に対する女性の自由が徐々に拡大していったと考えられる」(P70)
なのだが、やがて起きると思われる世界の人口減少のプロセスも似たようなものになるらしい。
「この人口減少は豊かさと自由を追求してきた人類社会が生産力の飛躍的発展を通じ長寿化する一方、自らの出生力をコントロールする自由を拡張してきた結果、個人の選択の自由が、社会全体としての人口学的不均衡をもたらすに至った」(P98)
そしてこの問題に
「早急な解決を求めれば、社会は全体主義的で優生学的な方向に進み、社会的連帯の基盤は失われ、社会の崩壊に繋がることも危惧される。我々は、すでに第二次世界大戦前後にそのような危機を経験している」(P98)
日本への処方箋としては
「少子高齢化に伴い生産年齢人口は減少してゆくので、1人あたりの生産性を高め、1人あたり所得を増加させる必要がある。一般に労働力の不足が懸念されているが、それ以上に問題となるのは、もっとも消費率の高い生産年齢人口が縮減することにより、国内市場の有効需要が縮減してゆく点にある。これらのことから、日本のような人口転換の先発地域においても持続的な経済成長が必要であり、そのためには、今後も生産年齢人口の爆発的な増加が期待できるサブサハラ・アフリカなどの人口転換の後発地域への経済支援、先行投資を積極的に進めるとともに、国際人口移動(移民)の受け入れを積極的に行ってゆく必要がある」(P94)