永遠と横道世之介(吉田修一 毎日新聞出版)
シリーズ第3作。2007年頃、世之介の最後の1年を描く。世之介は吉祥寺と三鷹の境界あたりにある下宿屋を経営するあけみと事実婚状態で、その下宿屋(ドーミー吉祥寺の南)で暮らしている。そこには書店員の大福、大学生の谷尻、営業マンの礼二、ひきこもりの一歩がいて、にぎやかな日常が繰り広げられていた。世之介があけみと結婚しないのは、若死にしたフィアンセの二千花が忘れられないから、なのか?・・・・という話。
前作の終わりで世之介は死んでしまったし、本作のタイトルからして、「もしかして幽霊話?」なんて思ってしまったが、そんなことはなかった。
事件も熱愛も懊悩も、何ならストーリーすらない話なのに、途中で止められないような魅力がある。
あけみちゃんの手料理をにぎやかなドーミーのリビングで食べてみたい、世之介と鎌倉の海に遊びにいってみたい、二千花の墓がある梅月寺の和尚の話を聞いてみたい、エバ夫婦と永遠に会ってみたい、そんな想いが止まらない、世之介ワールドから現実に戻りたくなくなるような、素晴らしい読書体験。
映画の横道世之介も原作に勝るとも劣らない出来だったので、小説を読んでいるとどうしても高良健吾の顔が浮かんでしまう。それも世界観に没入してしまう原因かもしれない。
まあ、こういう小説がいいと思えるようになったのは年寄りになった証拠、なのかもしれないが・・・いや、でもいろいろ悩み苦しんでいる若い人に、まあ、そんなに思い詰めるなよ、と言っておすすめしたい作品だ。