蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

嘘の木

2024年01月22日 | 本の感想
嘘の木(フランシス・ハーディング 東京創元社)

14歳のフェイス・サンダリーの父エラスムスは著名な博物学者だったが、標本の偽造疑惑が持ち上がり、イギリス南部のヴェイン島へ家族ともども移住する。エラスムスは、嘘の木(人のウソを貯め込んで真実の実をつける。その実を食べると隠された真実のビジョンを得ることができる)を秘かに島に持ち込んでいたが、崖から落ちて死んでしまう。フェイスは父の死の真相を知るために嘘の木を成長させようとする・・・という話。

本作の魅力は、「嘘の木」の存在だけがファンタジーで、その他の部分は19世紀終わりのイギリスの社会構造や風俗を(多分)そのまま再現している点にあると思う。隠そうとすればするほどウソが大きくなっていくように、ファンタジー設定を絞りこめば絞り込むほど現実との乖離が拡大して物語を盛り上げているように思えた。

そして、単純な復讐譚に終わらせることなく、現実の世間の世知辛さや思わぬ親愛(フェイスの母:マートルが一見世間知らずの奥様のように見えて実は・・・とか、冷淡そうに見えた家政婦のベレや郵便局長のハンターが一転・・・・など)も加えることで、興趣を添えている。
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銀河鉄道の父(映画)

2024年01月22日 | 映画の感想
銀河鉄道の父(映画)

宮沢賢治(菅田将暉)の生涯を父:政次郎(役所広司)の視点で描く。
宮沢家は質屋を営む富商で、政次郎は独り立ちできない賢治を、財政面でも気持ちの面でも支える。農学校を中退した賢治は、法華経にのめりこんだり、地元の農業指導をしたりするが、妹トシ(森七菜)が結核で若死にしたのをきっかけに創作に没頭するようになる・・・という話。

主要キャストに芸達者を揃えて、それぞれの演技が協和してさらに止揚を生むような好循環を感じた。特にほぼ初見の森七菜は、そのせいもあるのか、とても上手に思えた。賢治臨終のシーンの役所広司の演技は「お涙頂戴」とわかっていても感動的だった。

本作のもう一つ魅力は、セットや美術あるいはロケのシーンが非常によくできていて、作品全体としての品の良さ、香り高さを醸し出しているところだと思う。政次郎の父の葬儀のシーン、政次郎の屋敷の雰囲気(特に夜のシーンにおけるランプの効果がいい)、賢治が隠棲?した別荘の周囲の風景などなど。
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